風紀委員

 クリードは、ラミエルと共に風紀委員会の部屋へ。

 意外にも狭い。机が乱雑に並び、書類などが積み重ねられている。

 ラミエルは、窓際の一番大きな机へ向かい、固そうな椅子にどっかり座った……ちなみに、ラミエルの机が一番ひどく汚い。

 だが、クリードはどうでもいい。最悪の場合、ここでラミエルを始末せねばならない。

 自分を「アサシン」と見破ったラミエル。何らかの処置は必要だった。


「座ったら?」

「…………」

「安心して。あなたがアサシンだってこと、誰にも言うつもりはない」

「…………」


 当然、信用できない。

 クリードは、武器を確認する。

 投擲用ナイフ三本、筋力増強剤、簡易式カティルブレードが右腕に装備。


「……信用しろってのも無理ね。それより、さっそく本題に入るわ。アサシン」

「…………」

「返事くらいしてよ……まったく」


 ラミエルは立ち上がり、使い古されたポットやカップを使ってコーヒーを入れた。クリードのぶんも用意し、ラミエルのテーブルに置く。だがクリードは手を付けない。返事もしない。

 ラミエルは諦めたのかため息を吐き、本題に入った。


「第一王女リステル。私の姉ね……彼女は『閃光騎士団』の十傑、【勝利ネツァク】よ」


 ピクリと、クリードの眉がほんの少し動いた。

 ラミエルはその反応で満足したのか続ける。


「私があなたをアサシンと見破ったのは、私のスキル『鑑定アナライザー』のおかげなの。私の眼で見た人物の情報を読み取れる……まぁ、そこまで詳しくは読み取れないけど。あなたがアサシンだっていうのはわかった」

「…………」

「んー……あんまり興味ナシね。じゃあ、これでどう?」

「……!」


 ラミエルは、右手の甲を見せた。

 そこには、刻印が刻まれていた。

 アサシンにしか視認できない、暗殺教団の刻印。この刻印は、アサシンに依頼をした証。このことを他言すれば、即座に命を失うという制約の刻印でもあった。

 それが、ラミエルに刻まれている。つまり。


「そう。暗殺教団『黄昏』にラスピルの護衛依頼を出したのは、この私よ」


 クリードの眉が、再び小さく動いた。


 ◇◇◇◇◇◇


 普通なら、聞きたいことがある。

 だがクリードは聞かない。クリードの依頼は護衛だ。どういう経緯で依頼をしたのかなど、クリードには関係ないし興味もない。

 興味があるのは、このラミエルをどう処理するか。


「……不思議かしら? なぜ王位継承権を持つ第二王女ラミエルが、第三王女ラスピルを守るよう、教団に依頼をしたかなんて?」

「…………」


 欠片も興味がない。だが、ラミエルは語る。


「リステルは危険だから。でも、私に国を率いる力はない。だからラスピルなの。考えてもみて? 閃光騎士団幹部のリステルが女王になったら、この国は閃光騎士団の総本山になるのは間違いない。国の力を使って勢力を拡大し、他国にも強大な影響を与えるわ。それこそ、戦争……いえ、それ以上」

「…………」

「そういう危険もあるけど……本当は、ラスピルこそ女王に相応しいと思ったから」

「…………?」

「あの子のスキル、見た?」

「…………」


 クリードは小さく頷いた。

 ラミエルは、コーヒーを啜りため息を吐く。


「『爆剣レーヴァテイン』……純粋な戦闘系。さらに、リステルを超える戦闘の才能を持つし、私を超える頭脳もある。まだ未成熟だけど、あの子は三年以内に私やリステルを超える逸材となる。リステルはそれを知っているからこそ、あの子を事故死に見せかけ殺そうとしてる……まだお母様が存命だから、派手なことはできないけどね」

「…………」

「私は、あの子を女王にしたい。私は女王なんかより、女王になったあの子を支えるような仕事がしたいの。閃光騎士団に狙われてると知って、護衛を探した……考えられるのは、閃光騎士団と対立している暗殺教団『黄昏』しか思いつかなかった。だからエージェントコード01『創造主』と取引して、アサシンを護衛に雇ったのよ」

「…………」

「こうして直に会えて光栄だわ。エージェントコード04『死』……『創造主』が押す、最も優秀なアサシン」

「…………」


 嘘はない。クリードは確信した。


「アサシン、私もあの子を守る協力をするわ。こうして危険を冒してあなたを呼んだのは、私が本気ってことを確認してもらうため」

「…………」


 クリードは、ラミエルを正面から見た。

 ラミエルも、クリードから目をそらさない。


「…………わかった」

「ふふ、初めて声を出してくれた。信用してくれたってことかな?」

「……俺たちの不利益になるようなら始末する」

「ええ、もちろん。閃光騎士団に関する情報は私も提供するわ」

「……わかった」


 こうして、第二王女ラミエルと協力関係となった。

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