第二章

カーニバル

 スキルホルダー・カーニバル。

 新入生行事の一つで、戦闘系スキルを持つ新入生が、招待客や先輩たちの前で模擬戦を行う行事だ。

 戦闘系スキルを持つ生徒はほとんどが参加。さらに、上級生の参加も認められているため、新入生行事というよりは学園行事となっている。

 

「……って感じだ。オレは戦闘系スキル持ってないから出ないけどなー」


 マルセイが、大あくびをしながら言った。

 トウゴも同じく欠伸。二人ともあまり興味がないようだ。

 すると、マルセイが言う。


「ラスピルちゃんは出るってよ。あのイケメン野郎も」

「……そうなのか?」

「ああ。野外演習で見たろ? ラスピルちゃんのスキル、めっちゃ戦闘系だし」

「確かに! それに、怪我しても保険医のキュア先生が治してくれるそうっスよ。過去、千切れた手足をくっつけたり、生やしたりもしたことある超腕利きの保険医みたいっス」

「お、いいね。保険医かぁ」

「御年七十っスよ」

「……なんでもない」


 項垂れるマルセイの肩をトウゴが叩く。

 マルセイは、クリードに聞いた。


「ところで、お前は出るのか? 戦闘系スキルなら強制参加だぞ」

「…………ああ」

「へぇ~? そういや、クリードくんのスキルって何っスか?」

「……『移動』だ。半径三メートル以内にある物を動かせる。いちおう、戦闘系スキルに分類されてる」

「ほお、便利そうじゃん」


 正確には、『影』を使ってモノを動かしている。

 スキルの開示は最低限。嘘ではなく、真実を交えた回答だった。

 すると、マルセイが言う。


「おい、あっち見ろよ。イケメン、王女様、クラスの人気者が揃ってるぜ」

「…………」


 レオンハルト、ラスピル、ルーシアは、何やら楽し気にお喋りしていた。そこにエミリーやメイコなども加わり、華やかな空間となっている。

 クラスで一番目立つグループ。それがクラスメイトの印象だ。

 クリードは、それを眺めていた。


「ま、オレらも『最強三人組』って感じだけどな!」

「さっすがマルセイ氏! で、何が最強なんっスか?」

「それは、その、アレだよアレ」

「…………?」


 マルセイは、あははと誤魔化すように笑い、カバンからお菓子を取り出してクリードたちに分けた。


 ◇◇◇◇◇◇


 授業が終わり、放課後となった。

 マルセイとトウゴは買い物へ。クリードも誘われたが辞退。

 部活動へ向かう者、学園内のカフェへ向かう者、自主学習するため図書館へ向かう者と様々だ。

 レオンハルトは、当たり前のようにラスピルの元へ。

 そして、ルーシアも。さらに数名の男子、女子が集まっていく。

 クリードは、ほんの一瞬だけレオンハルトと目が合った。


『護衛は任せろ』

『わかった。俺は情報を集める』

『了解』

 

 目の動きだけで会話する『眼話』で会話する。

 クリードは立ち上がり、ラスピルたちの元へ向かうことなく教室を出た。まだ、カレーぶっかけ事件でクリードは嫌われている。

 そして、ほんの一瞬だけだが、クリードは気付いた。


「……?」

「ぁ……」


 ラスピルが、少し残念そうにクリードを見ていた。


 ◇◇◇◇◇◇


 情報収集。

 クリードの専門ではないが、できないことはない。

 情報の集まりそうな場所へ向かい会話を聞き、有能そうな情報は全てチェック。ラスピル関係の情報はともかく、騎士団の情報は難しそうだ。

 クリードは、本校舎裏のゴミ焼却場へ来た。ここに、アサシン装備がいくつか隠してある。

 だが───人の気配を感じ、警戒した。

 気配を殺さず、生徒の一人としてさり気なく校舎裏へ。迷子のふりも難しい。


「───……こんにちは」

「……こんにちは」

「こんな何もない校舎裏に何か用事?」

「いえ、その、迷子になりまして……まだ、校舎に慣れてないのです」

「そう……なるほどね」


 女子生徒だった。

 長い黒髪にメガネをかけ、全体的にスレンダー、容姿は非常に整っていた。

 女子生徒は、メガネの奥に光る眼でクリードを見つめ……ニヤリと笑った。


「少し、お話しない?」

「……いえ、この後に、用事があるので」

「そう? ふふ、私が誰だかわからない?」

「……第二王女ラミエル様、ですよね」

「ええ。でも、肩書なんてこの学園じゃなんの意味のない。ここではただのラミエル……ね?」


 ラミエルは、口元だけを動かした。


「『アサシン』」

「───ッ!?」

「ねぇ、少しお茶しない? ああ、私は風紀委員会なの。今日は誰もいないから、風紀委員室でね」

「…………わかりました」


 クリードは、最大級の警戒をしつつ、ラミエルと歩きだした。

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