真の始まり

 クリード、ルーシア、レオンハルトは、学生寮地下秘密室に集まった。

 野外演習から数日。こうして三人で集まるのは初めてのことだ。

 クリードは、ルーシアに確認した。


「第三王女ラスピルは?」

「大丈夫。今は部屋で勉強中。『探知札』も大量に仕込んであるし、僅かな悪意があればすぐ反応するわ。ここからラスピルの部屋まで七秒もあればいける」

「七秒ねぇ……オレたちアサシンなら、五度は殺せる」

「…………」


 ルーシアはレオンハルトを睨む。

 クリードはそれを無視して続けた。


「改めて確認だ。俺たちの敵は『閃光騎士団』……王女暗殺という任務は『十傑』が自ら行っている。下位騎士は雑用係だ」

「つまり、敵は自然と『十傑』ね。ったく……あたしは戦闘職じゃないのに」

「真正面相手だと、オレの『スキル』で戦えるんだけどね。逆に、クリードみたいに暗殺にはむいてない」

「だったら分ける。俺が暗殺、『英雄』は真正面から、『親友』は情報収集だ」

「真正面って? あと、レオンハルトでいいよ」

「……第三王女ラスピルの傍にいて守れ。お前みたいに目立つ男なら、王女の傍にいても問題ない」

「お、いいね。でも……マジでいいのか?」

「好きにしろ。『親友』は情報収集だ。とにかく、『閃光騎士団』が関わっていそうな学園内の出来事を徹底的に探れ。何かあれば俺と『英雄』に伝えろ。それと、なるべくお前も第三王女ラスピルから離れるな」

「無茶言うわね……でもまぁ、それが任務だからやる」

「俺は、集めた情報から『十傑』を見つけた場合、暗殺する。真正面から戦うより確実だ」


 ルーシアもレオンハルトも納得した。

 エージェントコード04『死』の暗殺。それは、クリードがアサシンとして活躍を始めてから、一度も失敗したことがなかった。

 

「確認するまでもないが、第三王女ラスピルの安全が最優先だ。それと……どういうわけか、第三王女ラスピルをこの国の女王に導けという指令もある。気を抜くな」

「だね。でも、なんでラスピルが女王なのかしら……?」

「そういう詮索はタブーだ。オレらは仕事だけすればいい」

「はいはい。ったく……」


 レオンハルトのツッコミにルーシアは肩をすくめた。

 そして、クリードに言う。


「クリード、野外演習が終わって安心してるとこ悪いけど、次は『スキルホルダー・カーニバル』があるわ。ラスピル、張り切ってるから気を付けないと」

「……わかってる」

「あ、ちなみにオレも張り切ってるぜ。カーニバル……へへ、目立つチャンスだ」


 スキルホルダー・カーニバル。

 すなわち、戦闘系スキルを持つ生徒が参加する武技大会だ。

 新入生で戦闘系スキルを持つ者は強制参加となる。クリード、レオンハルトは参加予定だ。

 

「ま、開催までまだ時間あるし、あたしは騎士団の情報を集めるわ」

「オレは目立つ。騎士団の連中に『レオンハルトっていう一般生徒がいる』って思わせとく。もしかしたら向こうから接触があるかもしれないしな」


 この日は、アサシン三人の役割を決めて終わった。


 ◇◇◇◇◇◇


 翌日。

 クリードは着替え、寮の食堂で朝食を済ませ、一人で校舎へ向かった。

 基本的に、女子寮内ではルーシアがラスピルの護衛をしている。

 だからこそ、おかしかった。


「あ、おはよう。クリードくん」

「……おはよう」


 ラスピルが、一人でクリードの傍へ来たのだ。

 ルーシアはいない。


「えへへ。お話がありまして」

「話?」

「うん! あのね、スキルホルダー・カーニバルって知ってるよね? 私、それに参加するんだけど……クリードくん、模擬戦の相手してくれない?」

「……なんで俺?」

「んー、なんとなくかな? クリードくん、すっごく強そうだし」

「……俺、きみより弱いよ」

「またまたー! ね、駄目?」

「……まぁ、手伝うくらいなら」

「やった! ありがとね!……あ、ルーシア!」

「ラスピル~~~っ!! ああもう、やっと見つけた!」


 ルーシアは、ラスピルを探していたようだ。

 クリードをチラッと見てなぜか笑みを浮かべ、そのままラスピルの腕を取って歩きだす。


「じゃ、クリードくん。またね!」

「…………また」


 二人は行ってしまった。

 ふと、気付いた。

 クリードは、ほんの少しだけ……笑っていたような気がした。

 

「……気を抜くな。任務の真っ最中だ」


 そう言い聞かせ、クリードは教室に向かって歩きだした。

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