クリードVSゼオン
フローレンスが『慈悲』だと確信したクリードは、フローレンスに気付かれないように背後に回ることにした。どうやら、『スキル』を使っているのは間違いない。
だが───暗殺なら、油断している今ならいける。
フローレンスは、敵がルーシアだけだと思い込んでいる。そこに付け入るスキがある。
クリードは、気配を消して大回りをしながらフローレンスの背後へ。
その途中だった。
「よぉ、アサシン」
「───!」
まるで、待ち構えていたように『
手には同じ形のナイフが二本。腰にも同じナイフが三本吊り下げられている。
だが、ゼオンに武器の心配はない。
スキル『
クリードは舌打ちを堪え、腰からナイフを抜く。
「へへへぇ~……待ってたぜ、この時をよぉ! あっちにいる女アサシンは仲間だよなぁ? あっちは『慈悲』が、こっちはオレがヤるって決めてたんだ。なぁなぁ、まだ仲間───」
クリードは投擲用ナイフを抜いて投げた。
ゼオンは首をひねって躱す。
クリードは一瞬で接近、ナイフを横薙ぎするが、ゼオンはバックステップで躱す。そして、持っていた日本のナイフをクリードめがけて投げた。
「ッシャァァァッハッハッハァァァ!!」
「───ッ!!」
ゼオンは、投げた瞬間にナイフを『模造』し手元へ。
身体を回転させながらナイフを投げてくる。
クリードは、腰から二本目のナイフを抜き、的にならないよう動きながら、飛んでくるナイフを叩き落した。ゼオン───ナイフ投げもまた、達人級だ。
すると、目が回ったのかゼオンが止まり、ナイフを四本お手玉のようにジャグリングしながら接近。
「シャッハッハァァァ!! ダンスは得意かい!?」
「───ッ!!」
あり得ないくらい滅茶苦茶な動きだった。
両手でナイフを振り回し、落ちてきたナイフを蹴りクリードへ飛ばす。蹴った瞬間に新しいナイフを『模造』し、さらに持っているナイフを投げて『模造』……あまりに滅茶苦茶で、動きが読みにくい。
クリードは、ナイフを受けては躱す。だが、完全に躱しきれず、少しずつ掠るようになってきた。
「おーいおいおい。少しくらい喋れよ!? なぁアサシンよぉぉぉぉっ!!」
クリードは、一言もしゃべらなかった。
声だけでも相当な情報だ。暗殺者であるクリードは、己の情報を徹底的に隠す。それが戦闘中であろうが、危機に瀕しようがだ。
すると、ゼオンの動きが止まる。
クリードはゼオンから距離を取った。
「……お前、よく避けるなぁ。なんとなくだが、真っ向勝負は苦手か?」
「…………」
「まぁいいや。へへへ、光栄に思えよ? この『十傑』最強のオレとここまでやり合える奴はそうはいねぇ……それより、あっちが気になるかぁ?」
「…………」
「第三王女ラスピル。『慈悲』の奴、『事故死に見せかける』って言ってたぜぇ? 第三王女ラスピルが死ねば王位継承権は第二王女か第一王女のどっちかになる。第二王女はともかく、第三王女は「さっさと始末する」って騎士団内でも一致してるぜぇ? アサシン数人程度で守れると思ってんのかよ?」
「…………」
「……つまんねーな。少しは感情的になると思ったのに。まぁいいや」
ゼオンはナイフをポンポンと投げ、クリードに投擲した。
「……あ?」
だが、ナイフはクリードの目の前で停止する。
ピタリと、空中で固定されたかのように動かない。
「…………」
「なんだぁ?……おらぁッ!!」
ゼオンは、再びナイフを投擲。今度は二本、三本、四本……だが、全て空中で停止した。
そして気付く……クリードから、殺意が発しているのを。
ゼオンは、生まれて初めて背筋が凍り付いた。
「ひ、ひっひぃ!! 何だお前、キレてんのかぁ!? ハッハァ~ッ!! これがお前の能力!!」
ゼオンは気付いた。
クリードの足下にある『影』が、まるで生物のように動いていた。
そして、クリードの影が伸び、飛んできたナイフの『影』に絡みついたのである。
「『影』……それがお前のスキルか!! 伸ばした自分の影を別の影にくっつけて拘束する。ちっくしょう……こういう暗い森には最高の能力じゃねぇか!!」
すると、空中で静止していたナイフがバキバキと砕ける……クリードの『影』がナイフの影を握りつぶしたのだ。影が握りつぶされたことで、本体であるナイフも砕け散った。
これがクリードの能力『
クリードは、誇ることも見せびらかすこともない。この『影』もまた、クリードの武器の一つにすぎないのだ。
クリードは無言で影を伸ばす。もちろん、ゼオンの影に向かって。
「うぉぉぉぉぉっ!?」
ゼオンは逃げる。
だが、この薄暗い森の中は影だらけ。クリードの影は、影から影を伝って伸ばすこともできる。つまり……ゼオンが捕まるのは時間の問題。
そして、木から落ちたゼオンはクリードの影に捕まる。
「ぐ、っがぁ!?」
「───」
「ちっくしょう……ああ、強かったよ、テメーは」
大地に棒立ちとなったゼオンの真上。
クリードが枝から飛び降り、右手の『カティルブレード』でゼオンの首を突き刺した。
「よ、ぉ……おめぇ、やっぱ、キレてる、な……」
「…………」
「第三王女ラスピル、そんなに、大事、なのか……ごっぷ」
その質問で、クリードの脳内にラスピルが浮かぶ。
楽しそうに笑い、この演習ではクリードにも何度か笑いかけてくれた。
不思議と───まだ完全には理解できないが───守りたいと思う笑顔だ。
クリードは、呟いた。
「仕事だからな」
ゼオンは目を見開き、なぜか笑い───そのまま血を吐いた。
クリードはブレードを首から抜き、ゼオンを確認することなくその場から離れた。
向かうのは、ルーシアと『慈悲』、そしてラスピルの元。
「───……っち」
ゼオンとの戦いでかなり斬られた。
血が出ているが、止血の時間はない。
クリードは、痛み止めの丸薬だけを飲み、ルーシアたちの元へ。
薪小屋では、死体が多くあった。
どれも学園の生徒ではない。スキルで顔を変化させた騎士団の構成員だ。
薪小屋を開けると、服を奪われ全裸の男女が転がっていた。確認すると、全員が生徒で間違いない。全員生きている。
中には、トウゴもいた。なぜかニヤニヤして「おっぱい~」と笑っている。どうやら、隣で寝ている女生徒の胸に顔をうずめているのが気持ちいいようだ。
今は、この生徒たちをどうにかする時間はない。
薪小屋から出て気配を探ると───見つけた。
「第三王女ラスピル……待っていろ」
クリードは小屋から飛び出した。
そして、少し進んだ先にある崖下から、ルーシアの声が聞こえてきた。
クリードは迷わず飛び込む。すると、そこにフローレンスがいた。
フローレンスは、倒れているラスピルに手を伸ばしている。
クリードは、気配を消して暗殺するという手段を捨て、その手を掴んだ。
「───そこまでだ」
「えっ!?」
万力のような力で、フローレンスの手を握る。
「なっ……あなた、アサシンね」
「…………」
「なぁに? あなた、すっごい負傷……ああ、やられたのね?」
クリードはボロボロだった。
血だらけで、身体中ナイフで切られたような跡がある。
それでも、フローレンスの手を握る力は強かった。
「これより、お前を始末する」
「ふん……やれるものならどうぞ」
クリードの手を振りほどき、フローレンスは妖艶に笑った。
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