戦闘

 野外演習の大部分はキャンプだが、それらしいことも行う。

 まず、戦闘訓練。演習場にある『魔獣解放区』に入り、野生の魔獣と戦闘をする。

 この演習場は新入生たちが演習で使う場所だ。魔獣も手ごわくないし、生徒たちはスキルを使用して戦ういい機会でもあった。

 さっそく、クリードたちは魔獣解放区へ。

 それぞれ持参した武器を装備する。


「クリード、ナイフだけか?」

「ああ」

「へへん。オレの武器を見ろよ、カッコいいだろ?」

「ボクのも。ちなみに、ボクの武器はマルセイ氏の商会で買った物っス。紹介してもらった商会で購入! なーんちゃって!」


 トウゴのボケを無視。

 マルセイは片刃の斧、トウゴは槍を持っていた。

 対して、クリードはナイフ一本。どこにでも売ってそうな安物だ。

 あまり目立たない方がいいと思って選んだのだが、貧相すぎで逆に目立っていた。

 女子を見ると。


「あたしはこれ。どうどう? お嬢様っぽい?」

「ルーシアのお嬢様ってどうなってるの?……鞭持ってるの?」

「ラスピル、気にしちゃ駄目よ」


 ルーシアは鞭。ラスピルは細身の剣、エミリーは弓だった。

 この武器に加え、スキルも持っている。十人に一人しか持っていないスキルホルダーたちはどんな実力なのか。クリードは少しだけ気になった。

 この辺は弱い魔獣しか出ないと調査済み。クリードなら素手でも問題ない。


「へいへい女子たち。戦闘はオレに任せておきな!!」

「いらないし」

「い、いらないかなー……」

「訓練にならないじゃん。馬鹿?」

「…………がくっ」


 マルセイは崩れ落ちた。

 魔獣解放区は、フェンスに区切られていた。

 係官がいたのでフェンスの入口を開けてもらい中へ。

 フェンスの先は、空気が違う……魔獣の気配を感じた。

 ルーシアは、全員に確認する。


「みんな、戦闘経験ある?」

「わ、私は少しだけ」

「わたしも」

「ふ、『首狩りのマルセイ』とはオレのことよ」

「いちおう、兄貴に訓練は付けてもらったっス」

「……少しだけ」


 全員、多少なり戦闘経験はある。

 マルセイを先頭に森を進む。


「さぁ出てきやがれ!! この『アックス・マルセイ』が相手だぁ!!」

「マルセイ氏。さっきと名前違ってるっス」


 マルセイは、斧を振り回しながら先に進んでいく。

 すると、クリードとルーシアがピクリと反応。互いにアイコンタクトをする。

 そして───現れた。


『ギッギッギ!!』

『ギャギャァ!!』

「うおぉぉぉ!? でで、出たァァァァァ!!」


 藪から飛び出してきたのは、ゴブリンという魔獣だった。

 小型で、身長一メートルほど。手には棍棒を持っている。

 クリードなら一秒もかからず始末できるが、動かなかった。

 ルーシアも、鞭を構えつつ下がる。

 自然と、ラスピルが前に出る形となる。


「…………お手並み拝見」


 ラスピルがどれほど動けるか。クリードとルーシアはそれを確かめるつもりだった。


 ◇◇◇◇◇◇


「私が行きます───皆さん、援護を!!」


 ラスピルは剣を抜き、突くように構える。

 マルセイとトウゴが負けじと前に出ようとしたが、すでにラスピルは動いていた。


「───ッシ!!」

『ギャッ!?』


 紫電一閃。

 ラスピルの突きは速く、鋭かった。

 それだけじゃない。剣の先端が赤く発光し、突いた瞬間に小規模な爆発を起こした。

 これには、クリードとルーシアも驚いた。


「おおお! ラスピルさんすげぇ!」

「今の何っスか!? ボンッってなりましたよボンッて!!」

「私のスキル、『爆剣』っていうの。私の剣に触れると爆発するんだ」

「「おぉぉぉぉっ!!」」


 マルセイとトウゴが驚き、エミリーも驚いていた。

 そして、そのまま高速の連突き。ゴブリンは小規模な爆破を繰り返し絶命した。

 はっきり言って、全く問題なかった。


「……なかなかね」

「ああ。いいスキルだ」


 そして、センスがある。

 剣の突き、引き、構え。どれも筋が良かった。

 鍛えれば、相当な剣士になれるだろう。

 だが、『十傑』には遠く及ばない。町のゴロツキ程度なら問題ない。

 ラスピルの実力はわかったので、次にゴブリンが現れたときはマルセイとトウゴに譲った。二人ともスキルホルダーなのだが、戦闘系ではないので終始武器を振るっている。

 エミリーも同じで、二人の援護をしていた。

 この三人が同時にかかっても、ラスピルには勝てないだろう。恐らく、王族としてある程度の剣術は習得しているようだ。

 全く戦闘しないのも不自然なので、クリードとルーシアも戦おうと前に出る。

 すると、大きな蜥蜴……リザードラゴンが現れた。


「ででで、でけぇ!? おいクリード、ここは」

「問題ない」


 クリードはナイフを構え飛び出す。

 全長三メーターほどの巨大蜥蜴だ。外皮は硬いが、弱点の眼は柔らかい。

 攻撃手段は長い尾だが、クリードに当たるわけがない。

 実力を偽装するため、やや危なっかしい動きでリザードラゴンの尾を躱す。


「クリード!? おい無茶すんな!!」

「ま、マルセイ氏、援護を!!」

「あ、あたしが」


 ある程度の動きを見せたクリードは、一気に決めることにした。

 ナイフをクルクル回し、リザードラゴンの尾を躱した瞬間に急接近。そのまま弱点の眼にナイフを突き刺し、リザードラゴンを倒した。


『ギュァァァァァァ!?』


 リザードラゴンが暴れ、そのまま大人しくなり……動かなくなった。

 ナイフを抜き、クリードは汗を拭う振りをする。すると、ラスピルが近づき……クリードに言った。


「一人で無茶しないでください!!」

「いや、問題ない」

「そうじゃないです!! 私たちだっているのに、一人で戦って……そんなの駄目です!! そんなの、いつか命を失うかも……」

「…………」


 とりあえず、クリードは頭を下げた。


 ◇◇◇◇◇◇


 それからクリードたちは、森の奥へ進んでいった。

 すると、近くで戦闘音が聞こえてきた。どうやら、別のグループが戦闘しているようだ。

 そして───。


「「「「きゃぁぁ~~~ッ!!」」」」


 女子の叫び声。

 クリードたちは顔を見合わせると、マルセイが言った。


「女子の叫び!! 行かねば!!」


 そして、一人で走り出した。

 ラスピルが走り出したので、クリードとルーシアも走り出し、エミリーとトウゴも走り出す。

 女子の声がした場所に向かうと、そこには。


「「「「「きゃぁぁ~~~っ!! レオンハルトくぅ~~~んっ!!」」」」」

「は?……は?」


 立ち尽くすマルセイ。

 どうやら、女子人気ナンバーワンのレオンハルトの戦いに、女子が黄色い声援を送っていたようだ。

 レオンハルト。

 甘いマスクだけではない、確かな戦闘力だった。

 武器は拳。まさか武器を使わない戦闘方法とは。クリードはレオンハルトの戦闘を頭に叩き込む。誰が敵なのかわからない状況なので、戦闘力は把握する必要があった。


「…………へぇ」


 なかなか強い。新入生でもトップクラスだ。

 鍛え抜かれた身体から放たれる拳は、岩をも砕くだろう。それに、スキルホルダーというのにスキルを使用している形跡はない。

 すると、レオンハルトがクリード見た。


「───ふっ」

「……?」


 なぜか笑みを浮かべていた。

 意味が分からず首を傾げていると、隣にいたラスピルが。


「わぁ……カッコいい」

「…………」


 見惚れていた。 

 レオンハルトは、ラスピルに見せつけるように戦いをしていたのだ。

 そんなことに何の意味が? と、クリードは首を傾げる。

 こうして、野外演習の実践訓練は終わった。

 今のところ、刺客の気配はない。

 そう、今のところは。

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