閃光騎士団『十傑』

 閃光騎士団『十傑』で、【峻巌ケブラー】の称号を持つゼオンは、逆立った髪をかき上げながら大きなため息を吐いた。


「はぁ~……ツマンねぇ」


 ここは、ジェノバ王立学園地下最下層にある、『閃光騎士団』の隠れ家。暗殺教団『黄昏』と同じく、騎士団もまたこの学園創設に関わっている。なので、こういう隠れ家を幾つも所有していた。もちろん、暗殺教団『黄昏』はそのことを知らない。

 ゼオンは、先日戦ったアサシンのことを思い出していた。


「あぁ~……あいつ、よかったなぁ。オレのナイフ躱して、全部捌いて、受けて……あのまま戦ってたら、あいつの『スキル』も見れたのかなぁ~」


 反芻するように、戦いを思い出し咀嚼する。

 何か口に含んでいるわけでもないのに、モゴモゴと口を動かしていた。


「あぁ……今度こそ、今度こそ殺す。オレの獲物、オレのアサシン……くひひっ」

「待て。勝手な戦いは許可しない」

「……アぁ?」


 すると、隠れ家の入口ドアが開く。

 入ってきたのは、銀髪の少女だった・・・・・・・・

 長い髪をポニーテールにし、ジェノバ王立学園の制服を身に纏っている。

 それは、第一王女リステル・・・・・・・・だった。


「なんだ【勝利ネツァク】……オレの邪魔する気か?」

「ここではリステルと呼べ。ゼオン」

「どーでもいい。それより、あのアサシンはオレの獲物だ。テメー、勝手につまみ食いすんじゃねーぞ。勝手なことしたらテメーからぶっ殺してやる」

「ふん。アサシンなど放っておけ。まずはラスピルの暗殺が先だ」

「……暗殺ねぇ? そんなメンドくせぇことするより、チョクで殺せばいいじゃねぇか」

「駄目だ。母上の死より先に、殺害するのはまずい。事故死がベストだ」

「かったるぅ……」

「ラスピルを始末したのち、第二王女ラミエルを始末する。そして私が女王となり、この国を閃光騎士団の総本山とする。主君もそれをお望みだ」

「けっ……王女様が閃光騎士団の『十傑』とは、世も末だねぇ」


 ゼオンはくだらなそうに唾を吐く。

 そう、第一王女リステルは閃光騎士団『十傑』の一人【勝利ネツァク】だった。

 リステルは、腕組みをしてニヤリと笑う。


「次の作戦はすでに用意している……入れ」


 リステルに呼ばれ、一人が音もなく部屋の中へ。

 ゼオンは興味ないのか、横目で見ただけだ。


「新入生行事の一つに、野外演習活動がある。そこで……ラスピルを事故死に見せかけ始末する」

「ほぉ~? そんなことできんの?」

「それをするのが、この【慈悲ケセド)】だ。こいつのスキルなら、事故死に見せかけて始末できる」

「へぇ……」

「ゼオン。貴様は【慈悲ケセド)】の護衛だ。野外演習に陰ながら同行しろ」

「……アサシン、来るかな?」

「来たら、お前の仕事をしろ」

「…………」


 ゼオンは、ニヤリと笑った。


 ◇◇◇◇◇◇

 

 今日は学園が休日。

 クリードは、自室の隠し部屋で武器の手入れを行っていた。

 暗殺武器『カティルブレード』は、左右の腕に装備する隠し武器。手を反らすのがスイッチになり、筋肉に反応して刺突用ブレードが飛び出すのだ。

 材質は希少金属であるオリハルコン製。数が少なく、この武器を与えられた暗殺者は一人前と認められる。ちなみに、長い歴史を振り返っても、両手にブレードを装備したアサシンはクリードのみ。クリードにとってはどうでもいいことだが、その戦闘力は教団最強だ。

 今回の依頼。クリードの戦闘力があるから抜擢された可能性がある。敵は『十傑』……騎士団の精鋭が直接暗殺に出向いているのだ。


「…………」


 クリードは、手入れ用のオイルを手に取る。

 布に付けようと瓶を振るが出てこない。どうやらオイル切れだ。

 少し悩み、クリードは上着とナイフを数本持って外へ出た。オイルを買いに行くのだ。

 ちなみに、第三王女ラスピルはルーシアと買い物に出ている。ルーシアが『護衛は任せて装備の手入れを』と言ったので武器の手入れをしていたのだ。

 ちなみに、怪我をしたクリードを気遣ってのセリフだ。本当に手入れをするところがクリードらしい。

 寮を出て、町に出る。

 道具屋は城下町に六十五軒。そのうち、武器の手入れ用オイルを取り扱っている近隣の店は七軒。

 クリードは、周囲を警戒しつつ店に向かう。

 

「あ……」

「…………」


 クリードが向かった道具屋。

 ドアを開けようと手を伸ばすと……なぜか、第三王女ラスピルがいた。

 クリードはすぐに手を引く。


「あ、あの……」

「…………」

「その、ごめんなさい。あなたに、酷いことを……」

「…………?」


 わけもわからず首を傾げる。

 すると、ルーシアがやってきた。手には飲み物を二つ持っている。そして、クリードを見て少しだけ目を見開き、すぐに嫌そうな顔をする。


「あんた、なにしてんのよ。またラスピルに」

「待ってルーシア。その、もういいから」

「むー……」


 ルーシアは、ラスピルとの友好関係を維持するため、クリードに怒ったのだろう。それをラスピルが止める。すぐに察したルーシアは黙った。

 さすが『親友』……ラスピルに近づくために選ばれたアサシンである。

 クリードは、頭を下げた。


「本当に、申し訳ない」

「…………うん」

「俺にできることならなんでもする。だから、機嫌を直してくれ」

「……ねぇ、本当に申し訳ないって思ってる?」

「当然だ」


 ラスピルは、なぜか悲しそうな表情だった。


「こんなこと言いたくないけどいうね。あなた、人形みたい。感情がない、言葉だけを並べている。それじゃ駄目だよ……もっと心を込めないと」

「心……?」

「うん。誰かに優しくしたり、思いやったりする心。きみにもあるはずだよ?」

「…………???」

「あー……ラスピル、もう行こ」

「ちょっと待って。私、この人を放っておけない。えっと……クリード、くん」

「…………」

「今回のことは許します。だから、私のお願い聞いてくれる?」

「俺にできることなら」

「じゃあ、今度の野外演習、一緒の班になろう!」

「「は?」」


 思わず、ルーシアと同じ返事をしてしまった。

 なぜここで野外演習? 二人とも同じ考えだ。


「あのね、新入生行事に『野外演習』があるの知ってるよね。『スキル』を使うために心身を鍛えるって精神的な行事。そこ、男女混合の班を作るんだけど……一緒に、いいよね?」

「わかった」

「え、マジ?」

「もちろん、ルーシアも一緒!」

「う、うん。でも……いいの?」

「もちろん! クリードくん、よろしくね!」

「ああ、よろしく」


 クリードは、ラスピルの機嫌が直ったことに安堵した。ちなみに、心云々は全く理解できていない。

 そして、さらにラスピルは続ける。


「あ、そうだ。クリードくん、道具屋さんに用事?」

「ああ。道具を買いに」

「その後は暇?」

「まぁ……暇だ」

「よし! じゃあ、三人でお買い物しよう!」

「「え」」


 こうして、クリードはラスピルに謝罪。許してもらうことができた。

 さらに、野外演習の班が同じ。護衛をするのに非常に楽である。もちろん、ルーシアも一緒だ。

 野外演習。つまり、ジェノバ王国の外。

 『十傑』がどんな手で来るのか。だが、アサシンが二人いれば大丈夫だろう。

 そう考え、クリードはラスピルの買い物に付き合わされるのだった。

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