第141話 取り巻き?

王都の人通りの少ない路地裏で馬鹿みたいにはしゃぐ少女がいた。しかも囚人が着るような粗末な服を着ている。


「あははははは! やったわ! やってやったわ! 抜け出してやったわ! ざまあみろー!」


「………へへへ、ワカナ様万歳………」


彼女は金髪で碧眼の美少女だが、格好もそうだが女性らしくない喜び方をする姿は品がなくて近寄りがたく感じる。この少女が元は貴族、それも公爵令嬢とはとても思えないだろう。そんな少女の傍には黒髪黒目の少年がおり、前髪に隠れた焦点の合ってない目で少女を見つめて薄く笑う。


「この私が謹慎処分? そんな馬鹿な話があってたまるもんか! 馬鹿なことをしてくれたわね、あの国王に裁判長も! っていうか何で誰も助けに来ないのよ!」


彼女の正体はワカナ・ヴァン・ソノーザ。裁判の結果、王族に対する不敬罪で謹慎処分となった女だ。そして今も国王や裁判長を口汚く罵っている。


「国王とか裁判長とか、あのおっさんたちは頭おかしいわ! 馬鹿じゃないの? 超絶美人な公爵令嬢であるこの私に猿轡をつけるなんて! 天使のような私の顔に何てことしてくれるのよ! 馬鹿どもが!」


「……確かに酷いですね。人として道徳から外れてる……」


「それにあの国王は酷いわよ! 猿轡を外してくれたと思ったら私のことを本物の猿のようだなんて言って笑ったのよ! ふっざけんじゃないわよ! この私を猿だなんてどういう目をしてんのよ、ムッキー!」


「! 最低の国王だ……!」


実際は猿轡を外された直後に、ワカナが先に国王に対して罵詈雑言をぶつけたから『猿』と言われて笑われたのだ。猿と言われても仕方のないようなことをしたのだから仕方がないのだが、ワカナは自分が正しいと信じて疑わない。


「この私を弄んでいい気になってるのね、あのクソ国王! オルマー、あんたよく逃がしてくれたわね。礼くらい言ってやるわ」


「……そうですね、苦労しましたよ。兵士たちから貴女を逃がすのには……」


この少年の名はオルマー・ビー。ゲーン。ワカナの学園での取り巻きの一人だ。他の取り巻き達はソノーザ家が裁判で訴えられると聞いてワカナから離れていったのに対して、オルマーだけはワカナの味方でい続けたのだ。


「他の取り巻き連中は貴女を見捨てましたが、俺は見捨てたりしませんでした……」


「あいつら……! そんな薄情者だったなんて! ……それに比べてあんたはいい判断をしたわオルマー。あのバカどもと違って見る目があるわね。取り巻きの中じゃ地味な方だったけど、あんただけは残って助けてくれたんだもの。人は見かけによらないって本当みたいね」


「えへへへ………それほどでも………」


ワカナを逃がしたのはオルマーだった。オルマーはワカナの取り巻きになった時から今に至るまで、彼女のことを妄信的に好意を抱いていた。彼のワカナへの思いはもはや狂信的と言えるほどだったのだ。その思いがあってか、ワカナを救うために脱出させることに成功したのだ。こんなことのために頭を働かせて成功させてしまったわけだ。


「………私がこんな目に合うなんて許されることではないわ。報いを受けさせなきゃ、あの女にね。あんたもそう思うでしょ?」


「はい、そうっすね………全部あの女のせいっす………」


オルマーはワカナを脱出させる前に、ワカナが謹慎させられた理由やソノーザ家が潰された理由を独自に調べていた。王子たちの側近の動きを調べたり、ソノーザ家で働いていた使用人たちから聞き込みをしたりと短期間で広範囲に動いていた。オルマー自身がそこそこ優秀なだけあって、元凶がいると推測していた。そして、一人の女性が元凶であると考えるに至り、それをそのままワカナに伝えてしまったのだ。


「教えてくれて感謝してあげるわ。光栄に思いなさい。後でご褒美もあげるわ」


「!? ご褒美!? そ、そそそそそれは何ですか!?」


「後で一緒に寝てあげるわ。安いベッドでも今は我慢してあげる。助けに来てくれたしね」


「えええええ!? さ、さささささ最高っす! マジ最高! いやっほう!」


ワカナの言葉を理解したオルマーは飛び跳ねるほど狂喜した。そのまま発狂しそうな勢いだったが、ワカナはそんな彼を気にしないで先ほど彼に教えられた『元凶』に対し怒りの形相で深い憎悪を募らせていた。


「ふふふ、この私をこんな目に遭わせて許せない……絶対に殺してやるわ! 何度も何度も切り刻んでミンチにしてやる! さあ、準備するわよ! あの女に復讐して私は全てを取り戻すのよ!」


「はい!」


全てを取り戻すなど絶対に不可能なのだが、とある女性を元凶だと思い込んだワカナは、その女性がいなくなれば取り戻せると思い込んでしまっていた。姉のことはおろか両親のことすら頭になかった。


「まずは服とナイフを用意して。それからお腹空いたからご飯も頂戴ね」


「お任せを!」


だからこそ、彼女は更に愚かなことをしでかしてしまうのだった。

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