第117話 日記〇×年××月〇1日

―フィリップスの日記より―


日記〇×年××月〇1日


とんでもない事件が発生した。先日、メイドと駆け落ちしたという兄さんの先輩が王都のホテルの一室で、死体として発見されたのだ。愛を誓ったというメイドと共に。


詳しい調査によると毒の入った酒を飲んだことが要因らしい。警備兵は毒を飲むことによる心中、もしくは片方による無理心中ではないかと推測された。


この話は学園でも話題になって様々な憶測が飛んだ。警備兵の推測通りとか、実は陰謀によるものだとか噂が流れるたびに私は気が気でなかった。私個人は陰謀だという確信があったから……。


この事件のことは私もコキア子爵の伝手を利用して詳しい話を知っていたのだ。コキア子爵は我がソノーザの家の傘下にあるような家だ。今のコキア子爵令息も兄さんの取り巻きみたいな立場にあるくらい上下関係がはっきりしている。私はそんな彼らの家の現当主に頼んで詳しい状況を聞かせてもらったのだ。兄さんには内緒で。


そんなことをしたのは、例の二人の死が兄さんと関わりがないことを願っていたからだ。だからこそ、あえて知ったほうがいいと判断したのだ。


だけど、結果は知らなければよかったことになってしまった。例の二人が飲んだ酒の瓶が私の父がよく好むものと全く同じものだったのだ。その事実に驚愕した私は父の酒蔵を確認しに行った。一応、執事にも確認してもらったら、酒瓶が一つ足りないということが分かって心の奥底で震えあがった。


……温厚な父が殺人なんかするはずがない。消去法で兄さんだ。兄さんしかいないのだ。執事に酒蔵に関して詳しいことを聞いてみたら、兄さんもこっそり酒蔵に入って酒を拝借していることが分かった。


これで確定だ。例の二人の事件の真相は、兄さんによる陰謀だったんだ。





…………こんなこと、私の口から誰にも言えないよ。恐ろしくて、怖くて、口にできない……。


警備員が調査を続けて真実を解き明かしてもらうことを祈るしかない。


そんな自分が……私は嫌いだ。







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