第116話 日記〇×年〇〇月〇7日

―フィリップスの日記より―


〇×年〇〇月〇7日



兄さんの生徒会入り。それについて詳しく調べてみて不可解なことが分かった。それは兄さんを生徒会に推薦した人物が行方不明になっているということだ。兄さんにとっては取り巻きとしても先輩にあたる立場で、兄さんはその人に世話になったと言っていた。


……嫌そうな顔で「世話になった」と言っている辺り、かなり厳しくされたんだろうな。兄さんって自尊心が高いほうだから、いい思いはしなかったのかもしれない。そんな人が行方不明になったと聞くと、兄さんに対して嫌でも邪推してしまう。かかわりがないのかと……。


だけど話によると、その人物は婚約者がいたにもかかわらず自分の家のメイドと身分違いの禁断の愛に目覚めてしまい、家族の大反対にあいながらも添い遂げるために駆け落ちしてしまったらしい。実際に家から絶縁されたり、婚約者から婚約破棄もされていた。


……まるで恋愛小説のような話だ。家も婚約者も捨てるなんて、そこまでして身分違いの愛を貫き通せる人が実際に我が学園に現れるなんて、こういうのをロマンチックと言うのだろうか。


だが、そんな私の少しばかりの感激を兄さんはぶち壊した。それは兄さんにもその話を振ってみた時だ。


「バッカみたいな話だよなあ。メイドに懸想してみ~んな捨ててしまうなんて。禁断の愛? 笑い話にしかならねえよ」


「そ、そうなんだ……」


「そうだよ。お前やイゴナはそんな風にならないでくれよな。ていうか、あの人は行動力ありすぎだろ。ちょっとたきつけただけで本当に実行するなんてよ」


「え? どういうこと?」


「ああ、実は当の本人に相談されたことがあるんだ。メイドとの関係に深く思い悩んでたんで強引に相談に乗ってやったのさ」


「ええ!? 兄さんが!? ていうか強引にって、どういうことだよ!」


「ああ、あの人にはいつも厳しくされてたからな。悩んでたところを俺の方から酒の勢いで何悩んでんのか吐いてもらったのさ」


「酒!? 兄さんは未成年じゃないか!?」


「硬いこと言うなよ。そんでさ、幼い頃から相思相愛のメイドと結ばれたいけど、そのためには家を捨てなきゃいけないとかふざけたこと抜かしてきたんだ。俺はこれはチャンスだと思ってね、愛を貫くべきだって言い聞かせてやったのさ。その結果、実行に移して俺がその抜けた穴に入れたってわけよ」


「え、えええ~っ!?」


未成年なのに酒をの楽しんでいる、と言う事実以上に、兄さんが関わったという事実に驚かされた。兄さんのせいで一人の貴族令息がメイドと駆け落ちする出来事が起こっていたのだ。しかも、生徒会入りのために兄さんが仕組んだようなものだった。


……兄さんは恐ろしい。姑息でずる賢い人だ。出世のために誰かの人生にそこまで踏み込んだというのだ。それも良くも悪くもお世話になった先輩に対して……。兄さんにとって周りの人間は自分のための道具でしかないのだろうか?

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