第115話 日記〇×年〇〇月〇4日

―フィリップスの日記より―


〇×年〇〇月〇4日


昨日のことどうしても頭から離れなくて、よく眠れなかった。おかげで今日は睡眠不足気味だった。だけど仕方がない。何しろ一年前の出来事とやらが兄さんによって引き起こされたと言われたのだから。


「…………最悪だ」


それが私の気持ちだった。公爵令嬢エリザベス様の取り巻きの辺境伯令嬢が平民の子を苛め、それを兄さんが王太子殿下に告発して、それがきっかけで兄さんが王太子殿下の取り巻きになった。そして、今は生徒会入り。……結構念入りに仕組まれた計画だったのかもしれない。


「私は、どうすれば……」


これはいわゆるマッチポンプというものではないか。思えば一年前も兄さんは事件の真実をほのめかしていたじゃないか、上機嫌で。我が兄でありながら厚顔無恥な人だ。告発された辺境伯令嬢は学園で孤立していて、今は休みがちだという。いじめられた平民の少女も貴族との関りを避けるようになったらしい。つまり、兄さんのせいで二人の少女の人生が狂わされたということだ。正直言って、人道に反する。


「だけど……」


私はこの事実を……公にする勇気がない。もし、公になれば兄さんは今の立場を追われるだろうが、私やイゴナも孤立することは避けられないだろう。下手をすればいじめの対象にされたり、最悪は家そのものが更に落ち目になってしまいかねない。……そんなことは私も望まない。兄さん一人が天罰を受けるのならいいが、家族である以上私達も巻き添えを食らうのは間違いないのだ。


「はぁ~……」


このことを考えてもため息が出るだけ、いや、それ以上に公にできない罪悪感と兄に対する不快感と恐怖が湧き起こるばかりだ。だけど、これも貴族である以上避けては通れない道だというのだろうか? 一年前に兄さんが口にしていたように。


「だとしたら……」


今の私にできることを考えよう。これ以上兄さんに危ない道を渡らないように勧めるとか、兄さんのやり方以外に出世する道を進むとか……私にできるだろうか。


「とりあえず今は……」


今は一年前の事件以外に兄さんが何かマズいことに関わっていないか調べてみよう。もしかしたら、もっとヤバいことをしていたと知ることになるかもしれない。そんなことは望まないが兄さんにこれ以上危ないことをしないでもらえるヒントに繋がるかもしれない。


……正直、嫌な予感しかしないけど何もしないよりはずっとましなはずだと思う。私には兄さん以外に両親と妹がいるんだ。皆に負担がかかることは避けたい。もちろん、苦手な兄さんにも。

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