第118話 日記△〇年〇◇月30日

―フィリップスの日記より―


△〇年〇◇月30日



とある貴族の家が没落した。それはミーク辺境伯家だ。没落した原因はこの家の長女が傷害事件を起こしたせいだった。そして、その事件の被害者がこの私だ。


つまり、一か月以上前に我がソノーザ家が昇格したきっかけになった事件の加害者側の家が遂に取り潰しにまでなってしまったというわけだ。


もっとも、あの事件はきっかけに過ぎない。事件を機に私を刺した令嬢を探す目的でミークの家を家宅捜査した結果、匿われた令嬢と共にとんでもないものが見つかったらしい。


それは、我がウィンドウ王国で売買禁止しているはずの麻薬だった。更に、我が国で手に入らないはずの毒薬も見つかった。しかも、この毒薬は二カ月前に王太子殿下が盛られたという毒と一致していたという。


麻薬と毒薬。見つかったこの二つの事実によってミーク家は王家に厳しく問い詰められた。何しろ、王太子が二カ月前に毒を盛られ、その毒の出所が判明したと思われたのだ。徹底的に厳しくするのは当然だろうな。


ミーク辺境伯夫婦と長男のザンタ・メイ・ミークも何も知らないと言っていたらしいが、傷害事件の加害者である長女は麻薬を飲んでいたせいなのか、否定も肯定もしないばかりか何も受け答えしなかったようだ。会話できないほど精神的におかしくなっていたらしい。麻薬とは恐ろしいものだ。


結局、ミーク家はあらゆる貴族から見放されて、携わっていた事業・商談などもまともにできなくなって没落してしまった。爵位まで手放したのだ。貴族としてはもう没落確定路線だ。


……これも兄さんの計画だったのだろうな。私の知るザンタ・メイ・ミークは誠実で努力家だ。曲がったことは嫌うような性格の持ち主だったはずだ。そんな彼の家が麻薬に毒薬? しかも王太子の毒殺? そんなことあり得ないのだ。この事件の黒幕は兄さんしかありえない。兄さんとザンタ・メイ・ミークは、同じ生徒会に所属していたがいくども衝突していた。兄さんにとって彼は邪魔だったのだろう。


だけど、これだけが理由ではないはずだ。傷害事件を起こしたザンタの姉のサチナは兄さんがいじめを行うように唆した令嬢だ。しかも、いじめを告発されて孤立した経緯もある。邪魔な要因は十分ある。姉弟揃って貴族の舞台から退場させるために、麻薬と毒の罪を着せたとすれば……。兄さんは邪魔者を『消す』ことに躊躇しないということだ。




これ以上は書きたくない。




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