第109話 反省?

国王の厳しい声に顔を青褪めるソノーザ公爵夫妻。二人が恐る恐る国王の顔を見ると、国王の顔は二人がこれまで見たこともないほど冷たい目に侮蔑を込めたものだった。


「…………っ(こ、こんなことになってしまうとは……!)」


「…………っ(どうなってしまうの……!?)」


こんな二人の娘にあたるワカナはもはや正常な判断も思考能力も無くなっていた。こんな時でももがこうとしている。そんな場合じゃないというのに。


「ん~、ん~(国王が何だってのよ! お父様もお母様もしっかりしてよ! 相手は立場が上野だけのおっさんじゃない!)」


震えて口が上手く動かせないベーリュは、サエナリアが行方不明になってから今日までのことを思い返す。


この一か月、ソノーザ公爵夫妻はサエナリアの捜索にのみ力を尽くしてきた。次女のワカナの暴走だったり、使用人の9割が勝手に辞めていったり、新しい使用人を雇い直したり、繋がりのある貴族に協力を頼んだりするなどしてきた。もちろん、王家とも協力して情報交換もしていたが結果的に何の成果もなかった。


「(何としてでもサエナリアを見つけ出す。そのためだけに力を注いできたが、それが仇となるなんて……!)」


王家は何もサエナリアの捜索だけに動いていたわけではなかった。それと並行して現ソノーザ公爵ベーリュの過去をしっかり捜査していたのだ。おそらく捜査の手がベーリュの過去に繋がって、その結果、裁判を起こされることになったのだとベーリュは感じた。


「(まさか私の過去のことを調べられるなんて、もう少し王家を警戒するべきだった……! 一体、何の罪がバレたのか分からないが、私は、ソノーザ家は、もう終わりかもしれない……)」


もう終わり。それが頭に浮かんだことでベーリュは覚悟を決めた。この場をうまく立ち回って少しでも周りの印象を操作する方針を取ることにした。そう考えて少しだけ落ち着きを取り戻し、勇気を振り絞って国王に返答する。


「……はい。その通りです陛下。カーズ殿下とレフトン殿下のおっしゃることは真実にございます。屋敷を長く見ていなかった私、ベーリュ・ヴァン・ソノーザも我が娘サエナリアの失踪した日に気付いたばかりでした。家庭のことを顧みなかったばかりに娘の部屋が物置と併用されたことすら把握していませんでした。父親としてあまりにも情けない限りです」


ベーリュは悲し気に答えた。だが、その返答に納得することができない国王は眉をひそめる。今のベーリュの姿が弱弱しすぎたからだ。


「さようか。確かにそなたは出世欲が強い傾向があって仕事熱心な男だ(正確は最悪だがな)。滅多に屋敷にも帰らないから家庭をおろそかにしてしまうのかもしれん」


「過分な評価にございます」


「だが、それはいいわけにしか聞こえん。その言い方だと家のことは知らないから自分は悪くないとも聞こえるが、本当に反省しているのか?」


国王は今のベーリュの態度が気に入らない。国王として公爵のベーリュの人格を理解しているため、もう少し反論すると思っていただけに今の姿に違和感を感じるのだ。だからこそ厳しい追及をする。


「もちろん反省しています。出世ばかりに気を取られて家庭を見なかったのは私の落ち度です。娘の部屋を決めたのは妻のネフーミですが、たとえ私が屋敷にいたとしても反対していたかどうか分かりません。お恥ずかしいことですが、私にとって娘は出世のための駒だったのです。……行方不明になるまでは」

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