第99話 罪?

「旦那様、奥様。どうかおやめください。レフトン殿下の御前ですよ」


「「はっ! そうだった!」」


ミルナの言葉は全く心のこもっていない棒読みの言葉だったが、レフトンの名前を聞いて二人はハッとして一緒にレフトンに頭を下げた。しかも土下座の姿勢だ。


「レフトン殿下! お恥ずかしいところをお見せして申し訳もございません! ですが、どうか我がソノーザ家にご慈悲をくださいませ! さすれば我が家はレフトン殿下に生涯の忠誠を誓います!」


「我が娘サエナリアのことで大変苦心されていることを深くお詫びします! ですが我が家に温情をかけてくださるなら我が娘ワカナをレフトン殿下に差し上げます! どうかご慈悲を!」


「「「……(本気で言ってるのか、こいつら……)」」」


土下座してなおも食い下がろうとするソノーザ夫婦。その情けなくて惨めで卑しく見える姿を見せつけられたレフトンたちは侮蔑の目を向けるしかなかった。ライトとエンジも怒りよりも呆れる思いの方が大きくなった。


「……(こ、こんな人たちが、貴族なのか?)」


「……(こいつら、貴族の誇りというものがないのか?)」


もはや怒りを抱く気すら失せかけてしまった。そんな思いがライトとエンジの心に沸き上がる。だが、レフトンは違った。


「……クズ野郎が、頭を上げろ」


「え?」


突然、レフトンは頭を上げたベーリュの胸ぐらを掴んで、言葉を告げた。


「おい、数えろ………」


「は? 何を?」













「こんなことにしちまったあんたの今までの、全ての罪を数えろっ!」







バキッ!という音がなるほどレフトンは渾身の力を込めて拳をぶつけた。ベーリュの顔面にだ。






「ぐはあっ!?」


「きゃーっ!?」


「レ、レフトン……!」


「おいっ!?」


「レフトン殿下……(あらあら……)」


「だ、旦那様!」


突然のレフトンの暴力に誰もが驚いた。ライトもエンジも、ミルナもウオッチも、殴られたベーリュの妻ネフーミもレフトンの行動に大きな衝撃を受けた。


「あ、あ、貴方! 貴方!」


「だ、旦那様!」


殴られた衝撃でベーリュは気絶してしまった。それもそのはず、レフトンは日ごろ鍛えているため並の騎士よりも身体能力が高いのだ。壮年で事務仕事しかしてこなかったベーリュが殴られれば気絶してもおかしくない。ネフーミとウオッチがベーリュを介抱するがすぐには起きないだろう。


「レ、レフトン?」


「レフトンお前……一体何を……!?」


ライトとエンジはレフトンの行動が衝撃的だったため、普段のように冷静になれない。レフトンは貴族らしくない口調と行動をしてきたが簡単に暴力に出るようなことは今までなかった。それだけに二人の衝撃は大きい。


「言ったろ? ふさわしい挨拶ぐらいしてやるって」


「「っ!」」


「この男だけは一発殴らないと気が済めなかったんだ。サエナリアさんやお前たち三人のことを思うとな……」


「レフトン……」


「お前……」


「……そういうことでしたか」


レフトンのいう三人。それはこの場にいるライトとエンジ、それにミルナのことだ。レフトンの拳が今も震えている。


「……そうですね。まあ、ふさわしいとは言えますね」


ミルナは冷めた目でソノーザ夫婦を見る。ミルナの目に映ったのは、彼女の両親に罪を着せて破滅させ、更に自身の家庭を顧みなかった挙句、拳骨というふさわしい挨拶をされて気を失った、愚かな男だった。


「もうここに用はねえ。皆行こう。後は裁判で決まる」


「そうだね」


「ああ」


「……お疲れ様です。第二王子レフトン殿下」


レフトンたちは倒れているソノーザ公爵を振り返ることもなく屋敷から出て行った。

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