第98話 矛先?

「おい、どういうことだ! 何故我が屋敷にレフトン殿下がいらっしゃったことを言わなかったのだ! 私は何も聞いていないぞ! しかも何故私の断りもなく招いたのだ!?(ワカナが言っていたことは本当だったのか! どうなっているんだこんな時に!)」


ベーリュの怒声で我に返ったネフーミも立ち上がる。その顔は夫のように怒りの形相に変わった。


「そうよ! ワカナから聞いたわよ! 第二王子殿下と取り巻きどもに侮辱されたのに使用人の貴方が庇わなかったって! どうなってんのよ!」


「「「「…………(あの女)」」」」


どうやらワカナは話を盛って伝えたようだ。問い質された執事は臆することなくベーリュに答える。流石は長年ソノーザ家に仕えてきた彼はこういう対応に慣れていたのだ。


「ワカナお嬢様のことでしたら事実は違います。お嬢様が第二王子レフトン殿下だと理解せずに不敬な態度を貫こうとしたからご注意しただけです」


「ぬ、ぬう、そうか……ワカナのことはこの際どうでもいい……」


「貴方!」


「では私達に伝えなかったのは、」


「旦那様でしたら、奥様と言い争いに夢中で私の言葉をお聞き下さらなかったではありませんか。第二王子殿下がいらしたと進言したにもかかわらず聞く耳を持ってくださらなかったではありませんか。何度も同じことを申し上げたというのに、気が付かなかったのですか?」


「はっ!? ………そ、それは………(そういえばこいつ、私達がけんかしている時に何か言っていたがそういうことか! しまった!)」


「そ、そんなこと言われても……(あの時は熱くなって、それどころじゃなくて……)」


言われてみてソノーザ夫婦は確かにそんな気もする。いや、確かにそうだった。それに気づいたベーリュは気まずくなって妻の方を振り返った。


「お、お前のせいだぞネフーミ! 今後のことを話し合うだけだったのにお前が言い争いに持ち込んだりするからレフトン殿下をお迎えできなかったんだぞ! どうしてくれるんだ!」


「「「はあっ!?」」」


「だ、旦那様……」


「な、何ですって!?」


責任の矛先をベーリュはネフーミになすりつけようとしたのだ。レフトンたちは呆れかえり、ウオッチも額に手を当てて溜息を吐いた。ネフーミも夫のあまりのいいように反論を返す。


「ふ、ふざけないで頂戴! 言い争う羽目になったのは貴方が私ばかり責めたせいじゃないの! 何勝手なこと言うのよ!」


「何だと!? こんな時にも文句を言うのか! お前は黙って頭を下げればいいのだ!」


「……(この二人は王子を前にして何をしてるんでしょうかねえ。面白いですけど)」


ミルナはこんなソノーザ夫婦を見ていてどこか楽しそうだった。それを顔に出すことはなかったが、ここで何もしないでじっとするということもなかった。

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