第97話 取り入る?

ワカナから離れたレフトンたちがソノーザ公爵を探していた時、壮年の男性と女性がこちらに向かって駆け寄ってきた。


「「レフトン殿下! どうか御待ちください!」」


その声に聞き覚えのあるのはレフトンと使用人二人だった。


「旦那様! 奥様!」


「「「「っ!」」」」


やってきたのは探していたソノーザ公爵夫婦だった。ウオッチが驚いて声を出すが、レフトンたちは夫婦喧嘩の声が聞こえなくなったため、ある程度予想はしていた。


「「「「(やっぱり来たか)」」」」


あの後、ワカナがこの夫婦につけ口したのだろうと。


「レフトン殿下! こ、この度、お越しくださりご足労お掛けしました。すぐにおもてなしの準備をしますので、どうかお話願えないでしょうか?(こ、この男は油断ならないことで有名なレフトン殿下だ。何故ここに!? とにかく何とか機嫌を取らねば!)」


ソノーザ家当主ベーリュ・ヴァン・ソノーザは恭しく取り繕うとするが、色々知っているレフトンは不快な気持ちしか抱けなかった。ライトとエンジも顔に怒りを露わにする。


「(彼らが、ソノーザ夫婦か……)」


「(こいつらが、ミルナを……コキア子爵を……)」


レフトンは取り入ろうとするソノーザ公爵に不自然な笑顔で向き合う。不思議と怖いと感じさせる笑顔で。


「ソノーザ公爵。悪いがあんたと俺が話をすることは何もないぜ。サエナリアさんがいないこの屋敷はもう価値などありはしないさ。もちろん、あんたたちも例外じゃねえ」


「そ、そんな……! そこを何とか、」


「言っておくが俺に取り入ってもどうにもならない。何しろ兄貴が色々とみて聞いたことをそのまま親父、国王陛下に伝えた。俺もこの目でサエナリアさんの部屋を見させてもらって兄貴の言っていたことが真実だと確信させてもらったばかりだ。ここまで言えば分かるだろ? この家はもう終わりだ」


「んなっ!? な、な、な……」


レフトンの笑顔で語られた残酷な事実にベーリュは顔が青褪めて膝から崩れ落ちた。使用人たちに片付けさせるつもりだったサエナリアの部屋の現状を王族に見られたことがどういう意味か理解できてしまったのだ。もはや落ち目に落ちるどころではない。親として虐待の容疑を受けて裁かれる可能性が濃くなってしまった。


「ど、どうしてこんなことに……」


後ろに控える夫人ネフーミも同じく膝から崩れ、顔を両手で覆う。流石に公爵格の貴族の夫人だけあって彼女も理解が早いようだ。


「レ、レフトン殿下、どうか私達にご慈悲をくださいませ! この度の娘の教育は妻の責任でありますゆえ私は、私だけは……んん!?」


なおもレフトンに取りすがろうとするベーリュだったが、執事の姿を捉えると立ち上がって怒りの形相で執事に詰め寄ってくる。

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