第91話 静かな怒りを?

レフトンたち三人が執事ウォッチと侍女ミルナに連れられて案内されたのは物置だった。これが公爵令嬢サエナリア・ヴァン・ソノーザの部屋だと紹介されると三人は度肝を抜かれた。


「ま、マジかよ? 兄貴の言ってたことだから覚悟はしていたが、こんなことって……」


「これは、ちょっと……」


「し、信じられん……!」


「「…………」」


三人ともカーズの見て聞いた話から事前に知っていたため覚悟はしていたが、実際にその目で見ると驚かずにはいられなかった。それ以前から情報を入手して聞いていたレフトンの衝撃も大きい。


「……貴族じゃない僕でも、流石にこの扱いはひどすぎると思うよ。ソノーザ公爵家はかなり歪んでいる」


「こ、こんな部屋を自分の娘に与えるとは、どういう神経しているんだ………!」


「………………」


我に返ったライトとエンジだが、もう一度見ても目を丸くして驚きの声を漏らす。だが、レフトンは珍しく口を閉ざしていた。部屋を真っ直ぐ凝視している。心ここにあらずと言うわけでもないが普段のレフトンではない。


「………レフトン殿下? どうかされ……!」


普段のレフトンらしくない反応に気になったミルナは声を掛けてみたが、顔を見て気づいた。ライトとエンジと違って、声を押し殺し目を細めて震えていたのだ。レフトンは深くそれでいて静かな怒りを燃やしていたのだ。


「……ここがサエナリアさんの部屋か。ここで過ごしてきたんだな」


「……はい。そうです。ここがサエナリアお嬢様のお部屋として与えられました。……お嬢様に拒否権はありませんでした」


「実の親に強要されて、こんな場所にか……」


「正確には実の妹君に要求されて、ですね。ワカナお嬢様が我儘を言ったせいでこのようなことに……」


「愚妹の我儘を愚かな親が聞き入れた、だろ? 結局親が悪い。違うか?」


「……はい、その通りです。奥様が笑顔でお決めになりました」


やっとレフトンが声を発したが、その声は酷く冷たい声色だった。そんなレフトンの声を聞いたことがなかったライトは驚かされてしまう。エンジの方は緊張して静かに見ていた。


「(これが、レフトンなのか!? ……いや、こういう一面があってもおかしくはない、か)」


「…………(久方ぶりに見たな、こんなレフトンは。……見たくはなかったがな)」


レフトンは少し声を荒げて宣言する。


「見るべきものは見た。これで王族の中で二人になったわけだ。……サエナリアさんがどういう扱いを受けたのか、どんな部屋で過ごしてきたのか、サエナリアさんがソノーザ家で虐待に等しい扱いを受けたことを証明できる王子がな!」


「「「「…………」」」」


レフトンたちの狙いはそういうことだ。ソノーザ公爵家の罪を暴く過程でサエナリアの境遇を明らかにすることも彼らの目的だったのだ。罪深いのはソノーザ公爵夫婦とその次女ということにしておきたいが、サエナリアに関してはほとんど非がない。むしろ被害者に相当するが、実家のソノーザ公爵家が裁かれるとなれば世間はサエナリアも悪い目で見ることは間違いないだろう。

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