第90話 感傷?

屋敷の中に入ったレフトンたちは、屋敷内の使用人がいないことに奇妙な感覚を感じた。今のソノーザ家の屋敷の内部には使用人が全くいない。サエナリアの部屋まで案内する執事と侍女の二人以外は本当に辞めて出て行ったようだ。話で聞いた通り、サエナリアの妹のワカナが選んだだけにろくでもない使用人の方が大多数を占めていたようだ。


「……、……、……!」


「……、……、……!」


がらんとした屋敷の中は静かすぎて……ということは無かった。夫婦げんかする声が耳に入ってくるため、少し不快な気がするだけだった。それでもレフトンたちと使用人二人は気にせず進む。


「(……ここがソノーザ公爵家か。かつて僕の父さんが暮らしていた場所か。親戚とはいえ、平民の僕が踏み入れる日が来るなんて思いもよらなかったよ)」


ソノーザ公爵家に仕える使用人二人に案内されながら屋敷な内部を見渡すライトは、深く感傷に浸る。実の父親の出自のこともあってか少し落ち着けない気分になった。出自が出自だけに。


「(だけど、父さんが出て行ったこの屋敷をソノーザ家の人たちは手放すことになるのかもしれないと思うと皮肉な感じもするな。その要因に僕も加わっていることも中々滑稽だね。……いや、彼らの自業自得か)」


「落ち着きなよライト」


「え!?」


無意識にこぶしを握り締めて考え込もうとするライトにレフトンが声を掛けた。表面上は普段通りに見えても、レフトンにはライトが落ち着きを無くしかけているように見えたのだ。そして、レフトンの予想は見事に当たっていた。


「な、何!?」


「ふっ、ライトよ。お前が感傷を感じるのも、ソノーザ公爵家に怒りを覚えるのも分かる。感情的なライトも俺的には見てみたいって気持ちはあるが、親父さんのためにもその気持ちのせいで取り乱さないでくれ」


「! レフトン……」


「親父さんのことを思う気持ちは大事だ。家族だもんな。ただ、その気持ちを重んじるなら、感情を押し殺せとは言わないが最悪のタイミングで取り乱して今までの苦労をダメにしないでほしいんだ。お前もそう思うだろ、エンジ?」


「え? あ、ああ、そうだな。その通りだ……はっ!」


話を振られたエンジは一瞬驚いたが、とりあえずレフトンに同意した。だが、後になって気づいた。レフトンの言葉の意味は先ほどのエンジ自身にも当てはまることだということに。


「(レフトン、お前……。そうだな、あの場でお前の制止を振り切って、ソノーザ公爵を斬ってしまっていたら、お前や執事、それにミルナの苦労を水の泡にしてしまうところだったかもしれないな。……悪いことしたものだ)」


「……そうだね。二人の言うとおりだ。ありがとう心配してくれて」


「おう」


ライトは薄く笑って礼を言った。レフトンの気遣いに心から感謝した。レフトンもニカッと笑顔を見せる。


「皆さん、お待たせしました。こちらがサエナリアお嬢様のお部屋でございます」


そんなやり取りをしているうちに、三人は目的の場所に着いた。


「「「………………」」」


今、行方不明になっているサエナリ

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