翠の姫は靴を脱ぐ。ただの死体はそれを見る。
九日晴一
プロローグ
滅びの一歩
キレイな素足が、そっと大地に近づく。
スカートから伸びる色白な肌はきめ細かく、スラリとした細い輪郭を保つ。
見た者全てを
左足は、脱いだ靴を乱暴に下敷きにして。
右足は、空気に慣らすように晒す。
片足ずつ降り立つ姿を、その場の誰もが言葉を失って見つめる。
美しさ。
儚さ。
そこに同居する滅びの予感が、人々を停止させていた。
炎に包まれ、黒煙と悲鳴で満たされる王国。侵略され、今なお戦禍に飲み込まれていく中心部で、靴を脱ぎ始めた彼女の周囲だけ、静寂が訪れていた。
白銀の髪を風になびかせ、小柄な少女は薄く細めた瞳で地面を見つめる。
焦げた薄手の服から伸ばされるは、足よりも細く華奢な腕。自身の纏うロングスカートを摘んで持ち上げ、人々を魅了する足を露出させている。
それは、あまりにも場違いな光景だった。
可憐な少女の突発的な行動は、何も知らない者たちにとって、ただ頭のおかしくなった者の奇行であった。人が死んでいく最中に水たまりで遊ぶようなヤツである。気が狂った間抜けだと笑われることだろう。
しかし、ことこの少女に関しては違う。
その行動の意図は、この王国に住むほとんどのヒトが認知しており、しかもこの戦禍を引き寄せた原因でもあるのだから。
「サヨナラ」
綺麗な声で、小さくもたらされる離別の言葉。聞いた人々にとっては、滅びの合図。
一段の階段を降りるように。
恐るおそる新たな一歩を踏み出すように。
誰かが
少女は右足の親指から、そっと大地に口付けをした。
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