第8話 スミスクラウンの招待
――
岩塩ステーキ(ミディアム):スカー
クレモナパスタ:エリオ
サザン鶏グリルと焼き野菜:ジーン
ポタージュとサラダ:シルヴィ
オムライス:レギーナ
――
「たんと食べな! 残したら倍額取るよ!」
マグリットの掛け声を合図に、五人の冒険者たちは豪華な昼食を食べることとなった。マグリットたちは店員の女性の「ごゆっくり~」を合図にまたドスドスと厨房へ戻っていき、五人は食事を楽しみつつ、また気になる話題について意見を交換していた。
「そういえば、スミスクラウン商会の製品展示会の話聞いたか?」
こんがりと焦げ目の付いた焼き野菜を食べながら、ジーンがそんな話を切り出す。そしていち早く反応したのは、オムライスを食べて満足げな表情をしていたレギーナだった。
「それならヴェスパー家も招待状を受け取っていますわ。お父様とお母様は行くつもりはないみたいですので、わたくしだけでも見に行こうと思っていますの」
レギーナ・コルセット・ヴェスパー……冒険者である彼女は、岩塩の輸出業でエリュ・トリの経済を担うヴェスパー家の娘の一人である。貴族らしい立ち居振る舞いを窮屈に感じて冒険者になった反面、スカーとは因縁浅からぬ仲(主に被害者として)であり、現在は冒険者としての経験をヴェスパー家に共有する役を負っている。
「今年はスミスクラウン商会もかなり多くの人物に招待を送っているとのことで、他の商会や職人組合からは、何か大きな発表があるのではないかと噂されていますわよ」
「スミスクラウン商会は、エリュ・トリにとって冒険者装備の中核だな。そこがこれだけ騒ぐというのも、風向きがいいのか悪いのか」
パスタを食べる手を止めて、黒紫の外套の冒険者エリオは不穏を口にする、しかしエリオの懸念もつかの間、そんな空気をレギーナが振り払うように話を続ける。
「エリオの心配は杞憂だと思いますわ。招待状は金の箔押し、それに封蝋は当主のスラック・スミスクラウンにのみ許された『交差する鎚と蝋燭の火の刻印』でしたもの。いつもなら商会の刻印で簡素に済ませるところを、わざわざそんな大げさな物にするのですから、少なくとも喜ばしい事が起きたと考えるのが妥当だと思いません?」
「ほーお? そんなに気合入ってるのか? なら冒険者として、その展示会とやらにぜひ出向いてみたいもんだな、特にスカー」
「んむ?」
レギーナの説明に興味をそそられたジーンが、口に肉を頬張って、ほぼ食事に夢中になっていたスカーに声をかける。
「お前、そんだけ服を剥ぐのが趣味なら、そういう装備品について興味があるんじゃないか?」
「ないわ」
ジーンのイタズラめいた話に、スカーは全く表情を変えずに即答した。
「人が身に着けてない装備なんて布だし革だし鉄よ。剥ぐことが出来ないんならそれはただの飾り。私を服フェチか何かだと思ってるんならそれは間違いよ」
「お前ほんとえげつないぐらいはっきりしてんな」
スカーのバッサリと切り捨てたような意見に、ジーン始め全員が苦笑いを浮かべていた。そして、そんな会話が彼女たちのテーブルで繰り広げられていると気が付いた一人の女性が、スカー達のテーブルに近づいてきた。
「もしかして、あなたがクロス・リッパーですか?」
「ん?」
五人が座るテーブルに近づいて話しかけてきたのは、凛々しく整った顔をした二十代頃に見える女性だった。しかし何より目を引いたのは、深く鮮やかで、輝きを蓄えた藍色の瞳と、カラスの濡れ羽色とも言える深く黒い長髪。異質な雰囲気を放つ彼女に、五人は食事をする手が一瞬止まった。
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