第9話 マリヤンの質問
「そういうアンタは、そのか……」
「あっ、いきなりすみません。クロス・リッパーとは悪名だと聞いていたのに失礼を。私はマリヤン・ハースニール。スミスクラウン商会の展示会に興味があって、このエリュ・トリまで旅をしてきたんです」
マリヤンと名乗る女は、胸元を手で覆うようにして恭しく一礼する。五人とも彼女の丁寧なしぐさと物言いに少し心を落ち着けた。しかし、そんな落ち着いた様子とは裏腹に、レギーナはマリヤンに申し訳なさそうに説明する。
「マリヤン…さん? あいにくですがわたくしたちは単なる冒険者。このスカーがクロス・リッパーなのは間違いないとして、そのスミスクラウンの展示会についての話はわたくしとわたくしの家のお話です。なので残念ですがあなたに有益なお話はありませんわよ」
「そうだねぇ、あたしも興味あるわけじゃないし。レギーナが行きたいっていう話しかしてないから、クロス・リッパーの異名を知ってくれてるのは嬉しいけどあまり力にはなれないかなぁ」
スカーからもすげなくあしらわれるマリヤンだったが、彼女の表情は一向に変わらず、また話を続ける。
「そうですか……実は私も服飾や装備に興味があったわけではなく、以前の展示会の様子を聞いた商人から『装備を試着した女性たちが案内をする』という話を聞きつけたので……」
マリヤンがそんな事をつぶやくと、今まで目もくれていなかったスカーの身体がビクッと反応した。
「私としてはただ飾られている服よりも、それを身に着けている姿を一目見てみたくてお声掛けをしたのです。すみません、急にお声がけしてしまって」
マリヤンのそんな意見に、最初に反応を示したのは意外にもレギーナだった。
「うっ……そ、それは昔の事ですし、今はどうなってるか……」
「レギーナ、あなたこういう時のウソが下手ね」
「黙りなさいシルヴィ! そんな話をスカーに……あ」
シルヴィの言葉に語気を強めたレギーナ。そして気が付いた時にはもう遅く、肉を食べていたスカーの目は爛々と輝いていた。そして、スカーはレギーナに質問…いや、尋問に近い口調で静かに質問する。
「ねえレギーナ。その話って、本当?」
「えっと、なんのお話……でしょうか?」
「装備を試着して案内をする人間、それも女性がいるっていう話」
「それはその……年によって異なるというか、いたりいなかったりするというか……」
レギーナがしどろもどろに返答していると、スカーはナイフとフォークを置いて、わきわきと手を伸ばしてレギーナに詰め寄った。
「できればさぁ……レギーナの口から正直な説明が欲しいんだよねぇ……それとも何かな、身ぐるみ剥いで身体に聞いた方が早いのかな?」
「っ!! わ、わかりましたわよ! 正直にお話ししますからせめて公衆の面前で人の衣服を剥ぐのはやめてください!」
あわや生まれたままのご令嬢の誕生かという間際に、レギーナが白状したことでスカーの手は再びナイフとフォークを持つ事となった。その様子を見ていたマリヤンは、驚きとともに背中に冷や汗が伝うのを感じていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます