第7話 石炉亭

 市場の喧騒の中にあっても、はっきりと届く凛とした声。ジーンはそれを聞いて声の主の方を向き、スカーはそれを聞いて苦い顔を声の主に向けた。


「話はギルド長から聞きましたわよ。ほんっとに懲りないですわね、クロス・リッパー」

「レギーナ、やっぱり私を出迎えに来てくれたんだね!」

「これは出迎えではなく諫言です。どうしてそう才能の無駄遣いをするのですか」


 呆れながらもスカーを諫める、金のロングヘア―をなびかせた女性。彼女もまたスカー達と同様に冒険者である。そして、彼女の声を皮切りに、さらに二人の冒険者がスカーとジーンの前に集まる。


「俺たち、スカーが事を起こすたびに一堂に会してる気がするんだが」

「まあ、なぜかそういう日に限って、私たち全員非番なのよね。もしかしてスカーが狙ってるんじゃないの?」


 フード付きの暗い紫色のローブをまとった背の高い男性、そして白銀の髪を編み込んだエルフ耳の女性。それらがスカーを前にしてそれぞれあきれた様子で話しをする。二人を見つけたジーンが、さっそくと言わんばかりに会話を切り出す。


「よお、エリオにシルヴィ。お前らも昼飯か?」

「ああ、午前中に獣狩りの依頼を終わらせてきた」

「私はそれに同伴して生体分布の定期調査。それでレギーナともども午後はお休みってわけ」


 シルヴィと呼ばれた女性が端的に説明をすると、あとの二人が同意を示すように目を伏せる。そしてスカーが何かを思い立ち、市場の方へと歩き始めて4人へ話を切り出す。


「それならせっかくだからみんなでお昼にしましょうよ。せっかくの集合だしあたしが奢るからさ!」

「ほう、気前がいいこった」

「まったく……そんな程度じゃ罪滅ぼしにはなりませんわよ?」

「では遠慮なくいただこう、クロス・リッパー」

「じゃあご馳走にあずかろうかしら? それなら行く場所はいつものあそこね!」




 屋台市を抜けて、冒険者ギルドにほど近い場所に戻ってくると、多くの人が出入りする料理屋がある。【石炉亭(せきろてい)】という看板を携えたその場所で、五人は料理を待ちながら歓談をしていた。


「スカーの剥ぎ癖はさておいて、またスィンツーの人間がこっちにやってくるなんてね」

「スカーの剝ぎ癖はともかく、数年前の紛争から、隣国はずいぶんと焦りを見せているように感じるな」

「スカーの剝ぎ癖はいいとして、わたくしも最近、情勢の不透明をお父様からうかがっています。また紛争が起きないといいのですが」

「スカーの剝ぎ癖は置いといて、また冒険者ギルド全員出向なんて事態は御免こうむりたいね」


 口々に情勢への不安を語らう中、一人肩身を狭くしていたスカーが全員に話を切り出す。


「ねぇ、もう反省してるからさ。あたしの癖を枕詞にして話を始めるのやめてくれない?」


 スカーの提案に、四人は呆れたようなまなざしを返す。そして情勢や最近の市場などの話をしていると、木の床をドスドスと踏み鳴らして、五人分の料理を運んできた大柄な中年女性が現れた。


「そりゃあアンタ、日ごろの行いさねクロス・リッパー」

「あー、マグリット姐さんまで言うの?」

「ちっとは反省するんだね。ほらよ! 火原牛の岩塩ステーキ、ほうれん草のクレモナパスタ、サザン鶏のグリルと焼き野菜、ポテトポタージュと緑葉サラダ、それとサザン卵のオムライスだよ!」


 大柄な女店主マグリット。この石炉亭の名物店主であり、多くの冒険者の胃袋をつかむ冒険者の母とまで言われるコック長である。そして、マグリットの横には、コック長以上の体格を持っていながら、どこかおどおどした様子の料理人、そして、給仕服にリボンを結んだ姿で料理を運んできた若い女性が料理を持って付き添っていた。


「スカーさん、今日のお、オレのミディアムステーキ、ぜひ味わってくれ」

「ポテトポタージュとサラダはシルヴィさんですね、そしてレギーナさんにはオムライスです!」

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