第6話 釈放

 冒険者ギルドのロビー。大小さまざまな冒険者が言葉を交わし、受付の女性たちに依頼の受注や情報交換を行っている。全体では数十万を超える規模で人が暮らすエリュ・トリという国の治安を担う場所という事もあって、ここに集まる人間は多く、行きかう人も目まぐるしく入れ替わっている。そんな人の往来の中で、地下へ続く階段を上がってきたスカーを見守る男がいた。


「よぉ、今回は短かったな」

「まったくとんだ誤解よ。ジーンからもカゴに証言してちょうだい」

「どうせおおかた、依頼解決後の追い剥ぎの現場を押さえられてぶち込まれたんだろう?それなら俺が釈明するようなこたぁ何もねえ。お前の有罪だ」

「ぐ、よくわかってるじゃないの」


 スカーが助けを求めたのもつかの間、その男はスカーの事の次第をすらすらと読み当てて、スカーの反論の余地を奪った。そして男はスカーに帯同するように冒険者ギルドを後にする。


「それで、お前が捕まっている間に昼なんだが?」

「そうね、昼飯時だわ」

「今の今まで捕まってた人間が言うセリフか? それが?」


 呑気なスカーの横で、呆れたように言葉をこぼす男。ブラウンのレザーベストと黒のシャツ、バレットホルダー付きのベルトにジーンズ、そして彼を見つける時の一番の特徴とも言える、ブラウンのテンガロンハット。


 冒険者ジーン・デニー・ムスタング。スカーと同じく冒険者ギルド所属の冒険者であり、悪友ともいえる旧知の仲である。


「牢に放り込まれてたって空腹は感じるし、服を剥いでもお腹は膨れないでしょ。という事でセントレの市場に行くわよ。いつものメンバーにも会えるだろうし」


 スカーの提案に、ジーンは頭をかいて答える。


「ああそうだな。レギーナ辺りにあって今日の事でさんざん罵られるがいいさ」




 かくしてスカーとジーンはギルドの東側、石造りの噴水がランドマークになっている繁華街にやってきた。昼の繁華街は冒険者や職人、その他多くの仕事人で賑わっており、それらの腹を満たすための屋台が街道にずらりと並んでいる。


「今日は季節も気候もいいから市場もずいぶん盛り上がってるわね」

「ああ、最近はスィンツーとのいざこざも少なくなってるから、農耕や獣狩りも人が十分に配備されてるしな」


 会話を交わしながら、二人は屋台市に目ぼしい料理がないかに視線を巡らせる。


 石の国ともいわれるエリュ・トリは、山岳を抱える盆地の様な場所にあり、石材と岩塩が主な経済の基盤である。そんな国で特にオーソドックスな料理といえば、イノシシやニワトリの岩塩焼きである。この屋台市でも例にもれず、火のエナジーを火種にした石造のコンロに岩塩のプレートを敷いて肉や野菜を焼く音と匂いがそこかしこから漂ってくる。


「これだけ屋台市で肉が並ぶんだったら、フレアのパンもうちょっと買っておけばよかったなぁ。固めのパンで作るバゲットサンドのおいしさと言ったら…」

「お前が余計な追いはぎをしなけりゃその夢も叶ってただろうな」


 ジーンの悪態に何か言い返そうかとスカーが口を開けたとき、どこからともなく甲高い女性の声が二人に向けられた。


「本当に、ジーンの言う通りですわ。スカーはもうちょっと自制というものを覚えるべきだと、かねがね言っているではありませんか」

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