第6話書き変わった歴史、安寧再び

酒場へアルド達と、街の一行が帰ってきた。

夫婦は少し動けるようになっていた。

アルド「大分落ち着いてきたかな?」

サイラス「この剣 お返しするでござる」

そういって、カエルは男に剣を差し出した。

男「ありがとう」

男は頭を下げた。

女「何から話したら・・・いいのかしらね」

男「そうだな・・・」

迷う2人に酒場の客が声をかけた。

酒場の客「無理に喋るこたぁ ねえぜ

 喋れることだけ 伝えことだけ 言ってくれりゃいいんだ」

アルド「ああ 大変な目に あったんだからな・・・」

アルドは優しい眼差しを 夫婦へ向けた。

女「ありがとう でもすぐに忘れちゃいそうな気がするわ」

男はうなずきながら、一息ついたのち話し始めた。

男「ふう そうだな オレ達はいつものように 薬草を取りに行ったんだ

 いつもの場所だし 見慣れた魔獣はいるけど

 注意してたら問題ないくらい だったんだ」

女「それで いつもと同じように私が薬草を取ってたら

 近くで大きな音がなったのね」

男「それを聞いて オレは音のほうへ向かった」

アルド達は2人の話を聞き逃さないよう、静かに聞いている。

女「私も 異変に気付いて 音がしたところへ走ったのよ」

男「2人ともそんなに遠くに離れてなかったから すぐに会えた

 それで 2人で何の音だったんだろうって話してたら

 そばに 光る石みたいなのがあったんだ」

女「その光がまた大きな音を立てて

 そうしたら光るシャワーみたいなのが降ったの」

エイミ「プリズマね・・・」

エイミがつぶやいた。

男「2人とも その光にまともに当たったからか

 しばらく動けなくなっちまったんだ」

女「それでね 私たちが倒れていたところに カエルがやってきたのよ」

男「率直に言えば そこからはあまり覚えてないんだけど

 気が付いたらカエル姿になっていた」

女「びっくりしたわ 目もはっきり見えて 意識はしっかり保ててるのに

 言葉が出ないのよ ケロケロとしかいえないし」

男「しばらくすると うーん 何だか言っててよくわからないんだが

 体がなじんできたのか カエル姿で動けるようになったんだ」

男「でも お互いがカエルになったことは すぐわかったよ

 自分の体も見えるし 考えたりすることは人間の時と変わらなかったから」

女「体だけカエルで 頭は人間のままというのも考えにくいしね」

男「不思議なことに 武器もちゃんと持てた」

女「ケロケロとしか言えないんだけど・・・

 私たちはお互いが 何を言いたいかなぜかわかったの」

男「今考えても不思議だな カエルの言葉だったのかな」

サイラス「カエルの言葉は存在するでござるか・・・」

男「ともかく カエルの体になじんだ時 知ってるやつらが近くに来たんだ」

女「私たちは 記憶もちゃんとあったから

 こっちにきてはいけないって警告しようと・・・」

男「攻撃するつもりはなかったけど そう見えたかもしれないな」

男「ま そんなところかな」

女「それで さっきの話だけど 石が割れたとき また体が動かなくなったの」

男「うん 気が付いたら 元の姿に戻っていて なんていうか 夢かと思ったね」

女「そうしたら あなたたちもきて これが現実だとわかったわ」

男「ああ ちゃんと喋れたかな? 今までこんなことがあったんだ」

酒場の客は涙を流しながら、酒を飲んでいる。

酒場の客「ぐっ・・・うう・・・」

夫婦が酒場の客へ声をかけた。

男「心配かけてすまない でもみんなのおかげでここにいるんだね」

女「本当にありがとう うちの子もしっかり守ってくれて

 本当に何と お礼を言ったらいいか・・・」

アルド「いや いいんだ 今まで2人が築いてきたものが

 これだけの 2人を救う大きな力になったんだと思う」

サイラス「拙者たちは ほんの少しお手伝いをしたにすぎないでござる」

エイミ「ええ 2人は街のみんなを危険から守りたかった

 街の人は 2人をどうしても助けたかった」

アルド「そういう気持ちがみんなにあったから

 2人が街に帰ってこれたんだと思うな」

エイミ「そうね・・・ 」

静かな時間が流れた。

サイラス「その剣は やはりカエル姿になったときに 持っておったでござるか?」

男「ああ 一応カエルでも剣が持てたから もしものために 置いてたんだ」

女「実は あなたたちが剣のとこへきたの 私たち 見てたのよね」

男「知らない人だったし カエル姿の方は もしかして同じ境遇なのかと思って」

女「でもカエルしか持てない剣になってたとは 思わなかったけどね」

サイラス「そうでござったか」

男「カエル姿で飛び出すと まあ みんな逃げるから」

男はそう言って少し笑った。女も同調する。

女「みんな まあ逃げるのよね 知ってる人の違った一面も見れちゃったわ」

酒場の客「おーい いい話のままにしといてくれー」

酒場の客が目をつむりながら、大きな声で言った。

男「はは ごめんごめん」

男はそういうと、アルド達へ向けて改まった口調で話した。

男「こうやって また笑ったり 泣いたり できるのも

 あなた方のお陰です 本当に感謝しきれません ありがとう」

女「我が子や街のみんなと過ごす日々が

 いかに貴重で大切な日々だと知ることができました

 本当にありがとうございました」

2人はアルド達に頭を下げた。

サイラス「いやいや よいでござるよ」

エイミ「あなた達を見ていて わたし達も大事なことを

 改めて知ることができたと思う」

アルド「オレ達も なんとかしたいって思いで ここまでこれたんだ

 ここの人も きっとそういう思いなんじゃないかな?

 こちらこそ ありがとう また遊びにくるよ!」

夫婦「はい いつでもお越しください!」

そういってアルド達は酒場を出た。

すべて解決したような安心感がアルド達を包む。


酒場を出たところで、サイラスがつぶやいた。

サイラス「ふと思ったのでござる」

アルド「どうした?サイラス」

サイラス「拙者達と行動を共にする多くの仲間たちは

 拙者のように 少し変わった特徴を持っていたり

 数奇な人生が見えていたり

 あるいは複雑な環境におかれていたりするでござる」

エイミ「アルドもその1人ね」

サイラス「少し 考えすぎでござろうが・・・

 時代を問わず 様々ないさかいが起こる中で

 たくさんの悲劇を 拙者たちはこの目で見てきたでござる」

アルド「ああ でもうまくいかないことのほうが多いかもしれないな」

サイラス「力及ばず あの時 こうしていれば と思うことが多くござった

 失敗したことばかり考えても 気分が沈むだけでござるが

 喜び 怒り 哀しみ 楽しみ 多くのことをアルドたちとともに

 経験できたことは 拙者の大きな財産となっているでござる」

エイミ「わたしも そう思うけど・・・サイラス どうしたの?」

エイミが不思議そうに、サイラスを覗き込む。

アルド「まあ さっきのやり取りを見て オレも感じるところは あったな」

サイラス「これは 絵空事のような 空想的な話で ちと恥ずかしい話でござるが

 今も多くの争いの輪の中にいる 拙者達は 何かしらの縁に導かれて

 様々なものの 間に入っているような そんな感覚になるときがあるでござる

 運命? うーむ・・・言葉では難しいでござるが・・・

 格好よくいえば 何かと何かの争いの調停をしているような・・・

 ああ 申し訳ない 少し気持ちが酔っていたでござる

 忘れてくだされ 柄にもないことを申してしまったでござる」

アルド「サイラス・・・」

サイラス「忘れてくだされ!忘れてくだされ!」

アルド「ははは」

サイラス「まずはこれで終わったでござるな

 ラチェットにもあとで報告しておくでござる」

アルド「ああ 頼むよ」

エイミ「あっ」

エイミが何かに気付いた。

エイミ「未来の本は どうなってるのかしら?」

アルド「そういえば カエルの軍団がどうとか 色々書いてあったな」

サイラス「確かに でござる 見に行くでござるよ」

アルド達は再び時空を超え、マクミナル博物館の図書エリアに向かった。


マクミナル博物館、図書エリアに入ったアルド達。

アルド「この辺だったかな?」

サイラス「これでござるな」

サイラスが「ミグレイナ全史・3 かなり昔のよもやま話集」を取り出した。

エイミ「どうなってるかしらね?」

エイミがサイラスの本取り上げ、ページを広げる。

アルド「この辺だったよな」

アルドが該当箇所を調べると・・・。

「ミグレイナ各地の伝承・うわさ話・確実性に欠ける事象」

「ラトル」

「地殻変動により、街のはずれに光る石が出現。

その周囲の魔獣に、何らかの影響を及ぼしたとみられるも

突如現れた、カエルの姿をした勇者がその石を破壊したという。

このことが、カエルのしきたりのはじまりとされる。

しかし、現在ではこの説には懐疑的な見方が優勢となっている。

 信憑性不明・未解明」

サイラス「大体 あってるでござるが・・・」

エイミ「まあ 仕方ないわね・・・」

アルド「ああ 信じろっていっても難しいもんな」

サイラスは本棚へ目をやった。

サイラス「別の本を見てみるでござるよ」

サイラスは「現在進行編さん中!ミグペディア」を取り出し、

すぐさま該当するページを広げた。

「カエル神のはじまり」

「時期不明・古代の初期頃と推測される事象・ラトルの住人が突然の失踪との噂」

「後世の歴史家・探求家によると プリズマによる影響を受けた

宇宙生命体による 集団略取が行われたのではないかと 推測されている」

アルド「えっ?変わってないぞ?」

「星の侵略に向けた 前段階と考えられ 

ラトルの住人の体内に何らかの改変をしたという。

星の楔として、あるいは目標内基地候補として 

この星の調査をしていたのではないか とのこと

不自然な微細プリズマが現地にて 発見されたことにより

発表された新説」

エイミ「ちょっと変わった・・・けど・・・うーん?」

「注:根拠不明 出典不明 不確実な情報 妄想の類」

3人が互いを見る。

アルド「安心したな うん 安心した」

サイラス「想像や妄想は 自由でござるからな」

エイミ「これって そういう本だったのね」

アルド「ははは」

サイラスは少し悟った風に言った。

サイラス「これはこれで よかったでござるな」

エイミ「わたし達は 未来を変えてしまう いいことも 悪いことも ね」

アルド「ああ そうだな これは今思ったことなんだけど・・・」

エイミ「アルド どうしたの?」

アルド「変わる前の歴史は

 あの夫婦が魔獣たちの侵攻を止めてたんじゃないかな?」

サイラス「カエル姿になっても ずっと街を守ろうと

 魔獣たちに抵抗してたでござるか」

アルド「ああ あの2人にあったら 街を襲うなんて全く思えなかったんだ

 あるとしたら人としての意識がなくなったときだと思うし・・・

 それに カエルの軍団っていうのも ただカエルが先頭にいただけかも・・・」

サイラス「魔獣たちを説得していたでござるか」

エイミ「魔獣はカエルを敵と 認識してなかったわけね」

アルド「そうかもしれない あのプリズマがどういうわけか

 魔獣を大型化させる力があったから

 それによって 魔獣と人の バランスが変わったんじゃないかな?」

サイラス「確かに 人より魔獣が強くなりすぎたと 考えられなくも・・・」

アルド「もちろん すべてが本当かわからない・・・

 それこそ 妄想の類の話なんだけどな!

サイラス「想像や妄想は自由でござる!」

アルド「はっはっは」


おわり

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うずもれる勇者、還る安寧 アサヒクルス @kyuz

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