第4話カエルの子は
アルド達は、街の酒場へ戻ってきた。
酒場の客のそばに、小さな子どもが見えた。
アルド「あ いたいた 聞いてほしいことがあるんだ」
酒場の客「おう 兄ちゃん オレもこいつ紹介したいんだよ」
酒場の客が、手を子どもに向けた。
アルド「この子のこと?」
アルドが視線をその子どもへと動かすと、子どもが話し始めた。
子ども「兄ちゃんが 僕のお父さん お母さんを探してくれるの?」
アルド「えっ?」
酒場の客が子どもの前を遮った。
酒場の客「すまねえ つい先ほどから 兄ちゃんたちの話をしてたところで
んで この子が その夫婦の子なんだ」
アルド「ああ そうなのか でも オレ達もその子と話したかったんだ」
アルドは子どもへ視線を落とす。
アルド「探したいのは やまやまなんだけど・・・なかなか難しいんだ」
子ども「お父さん お母さんは まだどこかに いるんだよね?」
子どもはアルドをじっと見つめる。
アルド「そうだな・・・もちろん どこかにいると思って探してるんだけど
オレ達はこの街のことよく知らないしさ わからないことも 多くって・・・」
子ども「わからないことがあったら 何でも聞いてよ!
それに このおじちゃんに 街の外へ出るなって言われてるんだ」
子どもが酒場の客を指さした。
サイラス「では・・・」
サイラスが話し始めると同時に、
持ち帰った剣をその子どもが手の届かない高さに持って行った。
サイラス「この剣 見おぼえないでござるか?」
子ども「え?カエルさん?」
酒場の客「それは気にしなくていいんだよ
このカエルさんは カエルさんだけど立派なカエルさんらしいんだ」
サイラス「そ そう言われると少し照れるでござるな・・・」
サイラスはうれしそうだ。
子ども「そうなの? あ その剣はお父さんの剣かも!見たことあるよ!」
アルド「やっぱりそうだったか!」
子ども「見せて!見せて!」
子どもの前にエイミがかがんで言った。
エイミ「ごめんね それはできないの」
サイラス「この剣 なぜか拙者しか 持つことができぬ剣で・・・
触ると痛いから 触ってはいかんでござるよ」
子ども「そうなの?わかった」
思いのほか、子どもが素直だったので、場の空気が和らいだ。
サイラス「で この剣は そのお父さんの剣で 間違いないでござるか?」
サイラスがそう問いかけると、子どもの前へ剣を持って行った。
子ども「うん やっぱり お父さんの剣だよ ここに印があるんだ」
子どもが剣を指さす。
エイミ「ありがとう あと これは見たことない?」
エイミがそう言うと、懐から薬草を取り出して子どもに見せた。
子ども「あっ 知ってるよ! その薬草 いつもうちに置いてあるんだ」
酒場の客「おお それは奥地にあるやつじゃねえか あそこまで行ったのか?」
アルド「ああ でも奥地の池の辺りには 薬草があるだけで・・・
夫婦に関する 手がかりは何もつかめなかったんだ」
酒場の客「いや それも手がかりだよ 何もなかったってのも大事な情報だ」
酒場の客「で 化け物カエルは見なかったのか?」
サイラスは腕を組みながら、話した。
サイラス「しばらく辺りを探索しておったでござるが
それらしきものは 全く見なかったでござるな」
酒場の客「なるほどな まあ あんたのくらいの大きさだから
別のとこへ移動しちまったのかもな」
アルドが酒場の客と子どもを見て、言った。
アルド「いい機会だから 2人に聞いてほしいことがあるんだ」
酒場の客「ん どうかしたのか?」
アルドは少し迷いながらも視線2人を往復しながら、ゆっくり話し始めた。
アルド「オレ達の 今の推測 言うならば仮説なんだけど
ちょっと 心して聞いてほしいんだ」
酒場の客「おう どうした 改まって?」
子ども「何かあったの?」
エイミ「変な風に聞こえるかもしれないけど しばらく聞いててね」
エイミは子どもにそっと話しかけた。
子ども「うん」
アルドが話を続ける。
アルド「この剣は 今のところ カエルしか持てない剣にされているんだ
その剣がその子の両親のもので 落ちていた場所も奥地の近くだった
それ以外の手がかりもないし 例のカエルが 顔見知りのあんた達を
襲ったのではなく こっちへくるなって 追い払ったんじゃないかな?
つまり 少なくとも夫婦のどちらかは
カエルの姿になっているんじゃないかと 思うんだ」
驚く2人、一瞬、時が止まったように固まった。
少しの間を置き、子どもが反応を返す。
子ども「ええ?」
酒場の客も、顔に力が入ってないようだ。
酒場の客「そんなことって あり得るのか? 人間が カエルの姿に?」
サイラスがしんみりつぶやく。
サイラス「拙者も・・・実は人間でござった・・・
可能性なら十分ある話でござるよ」
エイミ「この話は ショックが大きいだろうから
話していいか迷ったんだけど・・・」
アルド「この話をしたのは ただびっくりさせたいわけじゃないんだ」
酒場の客は、子どもを見ながら言った。
酒場の客「そうだな オレも半信半疑だが この子は全く信じてないと思うぜ」
アルド「顔見知りのあんた達が奥地へ行ったとき
カエルは危険だから帰れと 伝えたかったんだとしたら・・・」
酒場の客「だとしたら?」
アルド「カエルになっても 記憶はちゃんとあって
あんた達を認識してるってことなんだ」
酒場の客「ああ・・・ そういわれると・・・
あのカエル 追いかけてこなかったな・・・」
酒場の客は、心ここにあらず、といった感じで目線を上にした。
アルド「うん でもサイラスのように喋ることはできなかった」
サイラス「拙者は見た目以外 ほとんど不自由ないでござるからな
カエルはカエルでも ちと特殊なのかもしれんでござる」
アルド「だから 襲ったように見えたけど 別にそのカエルからしたら
街に帰ってくれたら何でもよかったんだ」
酒場の客「なるほどねえ 信じがたいが・・・ないこともないな」
酒場の客は、少し考えたあとアルドに聞いた。
酒場の客「でもよ オレが襲ってきたカエルは
1体だったぜ? 夫婦なら2体なんじゃ?」
アルド「そこはまだ オレ達にもわからないとこなんだけど
夫婦で見張ってるのかな?って」
エイミ「1人だけカエルにされちゃった可能性もあるしね」
サイラス「あとは 人間の言葉は喋れんでござるが
大きくなったカエル同士なら通じる ということも考えられるでござる」
酒場の客「今までの話は あまり否定できるとこがねえな・・・うーん」
酒場の客は天を仰いで、一息ついた。
困った表情でアルドに聞く。
酒場の客「で これからどうするか考えてるのか?」
アルド「ああ その夫婦の顔見知りの人たちに 奥地へ一緒に来てほしいんだ」
サイラス「先ほどまで 拙者達は奥地へ行っておったでござるが
全く平和な道で 襲われる気配すらなかったでござるよ」
酒場の客「この子も行かせるのか?」
酒場の客は目線を子どもに向ける。
アルド「そこは相談したいんだ もし襲われても オレ達はもちろん全力で守るけど
この子が行くなら あんた達の力が絶対必要になると思うんだ」
酒場の客「で 奥地へ行ったあと どうすんだ?」
アルド「オレ達の考えが間違いじゃないなら・・・そのカエルが姿を現すと思う」
酒場の客「そうか どちらにしろ 何かわかるってわけだ」
エイミ「何も起こらなかったら それも手がかりよね」
酒場の客「わかった オレはもちろん行くつもりだが
仲間たちにも相談させてくれ
この子の両親には めちゃくちゃ世話になってんだ
少しの可能性でも 今は掛けたいと思ってる」
アルド「ああ その子を連れていくなら 人数が必要になると思う
まあ オレ達の話はまだ推測を超えられてないんだけど・・・」
アルドの声が少し弱くなった。
酒場の客「そう言うなよって ここまでしてくれたことにオレは感謝してんだ
それに 少し前まで あんた達はオレ達と全く関係なかったんだぜ?
ま 仲間と相談してくるから ちょいと草原の入り口で 待っててくれよな」
サイラス「了解したでござる」
子ども「僕も 一緒に行く!」
子どもが応えると、エイミがすぐさま子どもに話しかけた。
エイミ「いい? 一緒に行くかどうかはまだわからないけど
このおじちゃん達の言うことは ちゃんと聞いてね!」
子ども「わかった!」
アルド「じゃあ あとで」
こうしてアルド達は酒場を出たのだった。
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