第4話

 「薬草園はこちら」という看板に案内されて歩くと、植物がたくさん植えられている場所にでた。白やピンクや黄色や紫の花が咲き乱れている。風に乗っていい匂いが鼻に届く。


「綺麗ね」

「ああ。綺麗だ。でもどれを摘めばいいのだろう?」


 ウィリアムが不安そうに私を見た。私と一緒で薬草は苦手なんだわ。


「私もよくわからないわ」


 二人、顔を見合わせてくすりと笑った。



 近づいて行くと、植物達には、「加密列カモミール」「万年朗ローズマリー」「薫衣草ラベンダー」といった風に小さな立て札が立っている。


「でも見て。みんな名前が書いてある!」

「ほんとだ!」

「魔法使い、優しいね。見本と同じ花を探して、名前を確認すればいいよね?」

「ああ。そうだな。お前が必要なのは白来路花ホワイトセージ茉莉花ジャスミンだったな。白来路花は葉っぱが白っぽいからあれかな? 茉莉花は星のように小さな5枚の花びらの白い花だな」

「そうそう!! ウィルの必要なのは、万年朗ローズマリー香水薄荷レモンバームだよね。万年朗ローズマリーって目の前にある小さなとげとげした葉っぱでしょ? 香水薄荷レモンバームって、どれだろう?」

「お、おぉ……」


 ウィリアムが恥ずかしそうに真っ赤になる。私に視線を合わせないで、白来路花ホワイトセージってどれだろうと植物を見ている。





◇ 

 

 二人でお喋りしながら、話すのはとても楽しかった。ジョルジュのこと。お姉さまのこと。好きな食べ物こと。嫌いな勉強のこと。話し出したらキリがなかった。

 おかげで、あっという間に四種類の薬草を集めることが出来た。


「ねえ、ウィル、他の花も少し集めてもいいかな?」

「何するんだ?」

「お姉さまにポプリを作ってあげようと思って……」


 私は目の前にある薫衣草を見ながらウィリアムに言った。この花をバンドルにして、お姉さまは部屋に飾っている。作り方を教わったから私も作ることが出来る……と思う。自信ないけど。


 薫衣草は、お姉さまの大好きな香りだ。だから、私もこの香りを嗅ぐとお姉さまを思いだす。優しい、素敵なお姉さま。


 私は、お姉さまがジョルジュと仲良くしているのが嫌だったと思っていたけど、本当は、ジョルジュにお姉さまが取られそうで嫌だったのかもしれないと思いだした。ジョルジュと話している時のお姉さまは少し頬を染めて、本当に嬉しそうに笑うんだもの。


 薫衣草の花を摘む。向こうには薔薇も見える。薔薇もお姉さまが好きな花だ。あれって、もしかしてダマスクローズ? 


 私が、薫衣草の花を摘んでいると、ウィリアムが私のそばにしゃがんだ。


「ポプリってなんだ?」

「綺麗なガラスの瓶に、お塩と摘んだお花をいれておくの。綺麗だし、いい香りがずーっとするの」

「へぇ……」

「仕方ないわね。ウィルにもジョルジュにも作ってあげるわ!」






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