第2話
「それを飲んだら、外にいる護衛達とお帰りください」
魔法使いは、私を小屋に入れると椅子に座らせ、足に薬を塗ってくれた。レモネードが入っているカップも渡してくれた。甘くておいしい。少し
私がレモネードを飲んでいる間、魔法使いは一人で森を歩いてきたことを褒めてくれた。小さいのによく頑張った、泣かないでよく歩いてきたと。
だから座って待っていれば、媚薬をくれるものだと思っていたけど違うらしい。私は、むうっと唇を尖らせて抗議する。
「どうして? 一人で歩いてくれば媚薬をくれるって言ったじゃない?」
「……そう言えば諦めると思っておりました。もしくは、道の途中で泣き出して護衛達に保護されるかと」
「ええ? 護衛がついてきてたの? ……それじゃあ、……」
私はがっくりと肩を落した。一人で歩いてきたつもりなのに、護衛がついて来ていたとは知らなかったわ。でも、護衛のせいで媚薬がもらえなんて理不尽だわ! きっとした目つきで魔法使いを見る。
「いえ、護衛がついてくるのは当然です。いくらなんでもアンジェリーナ様を一人きりで森を歩かせるわけにはいきません。迷子になったり、獣や盗賊に襲われる可能性もあります」
「そうなの? じゃあ、どうしてくれないの?」
「媚薬と言うのは、人の心を惑わすために使う薬です。アンジェリーナ様が、欲しいとおっしゃってもすぐにお渡しできるような薬ではありません」
魔法使いが静かに首をふった。
―― そんなー!
「約束と違うじゃない!! どうしても欲しいのよ。私、ちゃんと一人で歩いてきたわ」
私は、魔法使いの課題をちゃんとこなしたのだから媚薬を渡して欲しいと猛抗議する。魔法使いは、ふうっと長いため息をつくと、私の隣に座った。そして、私の手にそっと手をのせた。
「では、どうして媚薬が欲しいかお聞きしてもよろしいですか?」
「……」
私は、魔法使いから目をそらして小屋の窓の方に視線を向ける。
―― 大好きなジョルジュとお姉さまが私に隠し事をしているからよ!
それが言えない。私はきつく唇を噛んだ。
「誰にお使いになりたいかお聞きしてもよろしいですか?」
「……ジョルジュよ」
「ジョルジュ様ですか……。さては、クリスティーナ様とお話ししているところでもご覧になりましたか?」
「……抱き合っていたわ!」
「それは仕方ないことかと……」
魔法使いは困ったように眉をさげる。
「私、ジョルジュのことが大好きなの! お姉さまにはぜったいのぜったいのぜったいにのけ者にしないでってお願いしたのにぃぃぃ――― あ゛――ん!!」
涙が止まらなくなった。おまけに鼻水までてくる。魔法使いがそっと布でぐしゃぐしゃの涙顔をぬぐってくれるけれど、私はいやいやと首をふるしかできない。
「……ふぅ……アンジェリーナ様は、お二人のことが大好きなのですね。……仕方ありません」
魔法使いが諦めたように口を開いた。
「ほ゛ん゛と゛?」
「材料をそろえなくてはなりません」
私はこくりと頷いた。なんだって出来るわ。だって、ここまで一人で歩いてこれたのだもの! 魔法使いから布を取り上げると、顔を埋めてごしごしとふいた。
魔法使いが籠を持ってきた。
「竜の涙を探して、あと、
私が薬草のことが苦手なことを知っているくせに、魔法使いの意地悪! そう言いたいところをぐっと我慢する。魔法使いの機嫌を損ねたら、媚薬を手に入れることが出来ないもの。
「護衛に頼んでいい?」
「護衛に頼ってはいけません。これはアンジェリーナ様への課題です。すべて裏の洞窟と庭にありますから、すぐに見つかると思います」
「でも、私、ここのことも……その……花のこととかも……知らないわ」
「……おそらく問題ありません。ちょうど、もう一人、同じように訪ねてきている人物がいらっしゃいます。彼と一緒に出掛けてみてはいかがでしょうか? ウィリアム様、こちらにいらしてください」
奥の薬草室から、ウィリアムと呼ばれた男の子がやってきた。どこかで見たことのあるような顔に首を傾げていると、ウィリアムは顔を顰めて私を指さした。
「泣き虫のチビの相手なんか、オレは嫌だ」
もー嫌な感じ。指をさして、私のことを泣き虫のチビとか言って!
―― 気に入らない! キニイラナイ!!
「ウィリアム様、女性にそのような口をきいてはいけません。叔父上のような騎士を目指すならなおさらです」
「お、……おぉ……」
魔法使いの強い口調に、ウィリアムが先生に怒られた子どものようにしどろもどろになる。いい気味だわ。私は、椅子から立ち上がると、スカートの端をちょこんと持ち上げて優雅に腰を落とした。日頃の勉強の成果を披露すべく、余裕のある笑顔をふりまく。
「アンジェリーナと申します。よろしくお願いします」
「お、……おぉ……」
ウィリアムがまごついたように答える。
「よい関係を築けそうで私も安心いたしました。龍の涙と、アンジェリーナ様には
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