媚薬が欲しくて魔法使いの小屋にいきました
一帆
第1話
―― もう! 魔法使いってなんで、森の奥に住んでいるの!!
私は一人、森の中を歩いていた。木の根っこや草が足にひっかかる。木の枝がスカートをひっぱるから、立ち止まること何十回。おまけに、いつもあまり歩かないから息が上がる。
―― なんで私が、こんな思いをしなきゃいけないのぉ!!!
文句はいっぱいあるけど、我慢がまん。だってこの道を歩いているのには訳があるのだもの。
家庭教師をしている魔法使いに媚薬が欲しいと連絡したら、護衛も侍女もつけずに一人で歩いてこいという返事が返ってきた。なんて、ひどい魔法使いなの!って思ったし、護衛も侍女たちもやめたほうがいいと説得してきたけれど、私の意志は変わらない。
―― 絶対に媚薬を手に入れて見せるもん!
そのためなら、こんな道、我慢して歩いて見せるわ。森の中を歩くから柔らかい靴にするよう侍女に言われて履いてきたけど、靴ずれもできてうっすら踵の部分が赤くなっている。痛くて泣きそうだけど、我慢がまん!
森の木はまるでお化けよね。覆いかぶさってきて、空が見えない。ごそっと音がする。がさっと音がする。上から葉が落ちてきたから、きっと小鳥かリスだと思う。そう信じることにする。
―― 怖いよぉ。
いつもなら、お姉さまに泣きついて守ってもらうけれど、今日はぐっと奥歯に力をいれる。
―― 泣かないもん!
―― 負けないもん!
―― 絶対に媚薬を手に入れて見せるもん!
―― がんばれアンジェリーナ! 負けるなアンジェリーナ!
私は自分に声をかけながら、歩き続けた。
きっかけは、一昨日の出来事。
大好きなジョルジュが、お姉さまと抱き合っているところを見てしまった。二人とも慌てて、誤魔化したけれど、私は騙されない。私にはわかる。みんながよく言っている女のかん!ってやつよ。私をのけ者にしたんだわ。お姉さまには、ぜったいのぜったいのぜったいにジョルジュを独り占めしないでね!とお願いしたのにぃ!!
そりゃ、お姉さまと比べると、私は子どもだし、顔だって綺麗ではないし、髪だって銀色だ。
家に来た人達はたいていお姉さまにしか話しかけない。私がいるとしっしと追い払う。犬じゃないのに!!
でも、ジョルジュだけはお姉さまのそばにいる私を追い払わない。ちゃんと、私にも声をかけてくれたし、私専用のお土産だってくれた。お姉さまと比べたら見劣りする(私だってわかっている)刺繍だって褒めてくれたし、なにより大きな手で頭を撫でてくれる。この前見つけた、幸運の葉っぱだって喜んでくれた。
だからジョルジュ、大好き。
それなのに、お姉さまとジョルジュは……。
―― ふん、ふん、ふん!!!
―― 媚薬を手に入れて、私のことをあいしてもらうんだ。
―― 媚薬を飲ませると、メロメロになって忘れられなくなるって誰かが言っていたもん。
歩き続けていると、突然、森の木がなくなり、目の前に小さな小屋が現れた。
「やっと、ついたぁ……」
私は小屋にむかって駆けだした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます