第4話 光の柱

弟が自分の町を襲ったと聞き、ケイトは真っ暗な谷底に落とされたかのような絶望感でいっぱいになり、もうどうしたらいいか分からないと泣きじゃくった。

アルド達はそんなケイトを見つめ、ただ立ち尽くすしかできずにいた。ただ一人を除いて。

「あーーー!もう、見てられない!ケイト、いつもの勢いはどうしたの!?いつもだったら頭で考えるより先に体が動いてるじゃない!ここでぐずぐずしてる暇があったら、さっさとそいつ等を追うわよ!それで弟を殴ってでも問いただせばいいのよ!今、弟を、町の皆を助けれるのはあなただけなのよ!」エイミがずかずかとケイトに近づいたかと思うと凄まじい勢いでまくしたてた。

「エイミ、いきなりどうしたんだ!?」

「アルドは黙ってて!このまま大人しく皆を、町をあいつらにいいようにされてもいいの!?」エイミはなおもケイトに向かって問い詰めた。ケイトは泣きはらした顔でブンブンと頭を横に振り、「・・・良くない!絶対にあいつ等に渡さない、ジルも私が必ず正気に戻すわ!」と、エイミを真っ直ぐに見つめ言った。

「やっと、いつものケイトに戻ったじゃない。ごめんなさいね、荒っぽい事を言っちゃって」

エイミは両手を合わせ謝った。

「こちらこそ、おかげで目が覚めたわ。」

「コレが本当ノ荒療治ですノデ!」

「エイミが荒っぽいのは今に始まったことじゃないしな」

「アルド、それどういう意味よ!」

「二人とも、やめるでござるよ。そうと決まれば前へ進むのみ!」

「ケイトさん、落ち着いたみたいで良かったです!」

「ケイト殿、今まで人っ子一人いなかった町に、急に大勢で押し寄せたのには、何か訳があるように思えるのでござるが、奴らは一体何が目的でござろうか?」

「町の皆はあいつ等に捕まってしまったし・・・、大広場の奥は光の源泉に通じる道で、湖とろ過装置以外他には何もないわ。あそこはろ過しきれてない光の毒素が漏れてて危ないから滅多に誰も近づかないし」ケイトは眉根のしわを寄せて考えながら答えた。

 ゴゴゴゴゴッと地震のような大きな揺れが突如町全体を襲い、誰も立っていられないほどだった。

「今度は何なんだ!?」アルドは揺れが落ち着きだした時に膝立ちで辺りを見渡した。

「お兄ちゃん、あれを見て!光の柱が細くなってる!」フィーネが指さした方向へ目をやると、柱が細くなったり元に戻ったりと不安定な動きを繰り返していた。時折、雪のような白い光に混ざり、青白く光る拳ほどの光が現れ始めた。

「綺麗な光ね、これもまた別のタイプの回復する光なの?」エイミが近くを漂っていた光に触れようとした時、「それに触っちゃダメ!」ケイトが突然エイミに飛びつき地面に倒れこんだ。

「どうしたの!?」とびっくりするエイミ。

「これは、元の神の光よ。つまり毒が含まれてる。皆絶対に触らないで!」ケイトがそう言った時、向こうの兵士から大きな叫び声が聞こえてきた。

「か、体が動かない!誰か助けてくれー!」「うぅ、体の中で何かが這っている・・ような・・・ゲホッゲホ・・・体が言うことをきかない」あちらこちらでうめき声や悲痛な叫び声が次第に広がっていった。

「なんと、これがこの光の力でござるか。なんて恐ろしいでござるか」

「どうして、この光が町に現れたんだろう」フィーネは光をよけながら言った。

「さっきの揺れ、もしかしてあいつ等がろ過装置を止めようとしてるの!?」ケイトは苦しそうに光を放っている柱を見上げて、信じられないふうに言った。

「ハッ、もしかして毒素そのものヲ利用しようとしているのでハないでしょうカ?アノ光の柱のように毒を振りまいてしまえバ、労せずトモ支配出来てしまうと思われますノデ!」

「何ですって!?そんな事が許されるはずがないわ!絶対に止めないと!」ケイトはわなわなと体を震わせた。

「確かにあの敵ならやりかねないわね」

「ああ、急いで探しに行かないと!」

「でも、源泉の近くはここより毒素が強いってことだけど、私の魔法で持つかな?」

「フィーネ、安心して。滅多に近づかないって言っても、両親が研究でたまに地下に降りていたから装備はあるわ。一旦私の家に戻りましょう」そしてアルド達は青白い光を避けつつ、ケイトの家へ急ぎ戻った。戻るや否ケイトは足にバネでもついてるのかと思うくらいの勢いで階段を駆け上がり、アルド達が一息つかないうちに、またバタバタと階段を駆け下りてきた。両手には、白い丸い石のようなものができたブレスレットを見せた。

「皆、これには毒素を相殺する力があるから絶対肌身離さずつけて。あと相殺回数が限られてるから、気をつけてね!効力がなくなってくると、石にヒビが入って最後には割れるわ。」

アルド達はそれぞれ受け取り、ケイト家から急ぎろ過装置場所へと向かった。


「なんて素晴らしい輝きだ!まさしく神の光と呼ぶに相応しい!これが全て我が物になるのか、ジルよ!」ソロノフは目の前に広がる、青白い光の湖に感嘆し両手を広げて喜びを表した。地下には村一つ分にもなる湖と、湖から伸びている大蛇のような太い管が奥に置かれている2階建ての家のような四角い青い鉄板でできたろ過装置へと続いていた。家のような装置からは普通の煙突の5倍程はある突起部分からろ過された白い光が上へと昇っていっていた。

「国王様、あまり湖に近づかないようにお願いします。ここの毒は強力ですから、私であっても中和させるのに時間がかかります」ジルは巨大なろ過装置のいくつもの複雑に絡まった管やボタン前で作業していた手を止めて振り返った。

「ふふふ、私にその毒素の力とやらを見せてくれるのであろう?ちょうど外にはどこからか紛れ込んだ虫やこちらの兵士もいるからな、実験にはちょうどいい」ソロノフは早く惨状を見たくて堪らない興奮を抑えていたが、体の震えは止まらなかった。

「何百年も装置の稼働を変えていなかったから、やはりそう簡単にはいきませんね。両親にも聞いてみましたが、一向に口を割ってくれなくて困ってます、けど・・ここをこうやってこちらに繋げれば・・・」

「お前の両親はすでに虫の息だろう、貴重な情報源だ、大事に扱うのだぞ」

「ええ、分かってます、曲りなりにも俺を生んでくれた両親ですから。・・・分かったぞ、この線をこちらの穴に差し込んだら」ジルは淡々と機械のように作業を進めていき、線を繋ぎ直しボタンを押すと、急に地面が大きく揺れ始めた。

「国王様、下がってください!ろ過機能が止まります!」ジルはろ過装置に手をつき何とか体のバランスを保っていた。

「おおっ!遂にか!さぁ、私に見せてくれ、お前の力を!」ソロノフは揺れで片膝をつきながらも、ろ過装置から溢れる白い光が次第に湖の色と同化していく様に陶酔していた。ろ過装置の煙突部分からは白い光から青白い光も交じり噴き出し始めていた。

「国王様、毒を含んだ光が積もり始めています、外の様子も気になりますし、通常に戻す切り替え措置は今の操作の逆でできますから、一旦ここから出ましょう。」「ああ、そうだな。虫がどう干からびているか見ものだな。」ふとジルはナーヴァが待機している入口付近に目を向けた時、炎や閃光がほとばしっているのが目に入った。


 「くっ、なんて力だ!?攻撃が効いてないのか!?」アルドはナーヴァが放った黒炎の竜を切ったかと思ったその時、黒い炎はアルドの炎を飲み込み、ムクムクと一回り膨れ上がった。

「同じ属性で攻撃したらダメみたいね、あの竜、どんどんでかくなっていってる!」エイミが竜が吐き出した炎を避けながら何とか態勢を整え拳を打ち込んだ。竜の体に風穴があいたのもつかの間、またすぐに元に戻り大きな口を開けてかぶりつこうと襲い掛かった。

「ここから先は誰も通さん。お前らなんぞ私一人で充分だ」ナーヴァはクルクルと杖を動かし竜を操った。

「属性が炎なら水が弱点のはず、サイラスが攻撃を打ち込めるように皆でスキを作りましょう!」ケイトも斬撃を次々と放ち、竜の体を切り裂いた。

「ハイ、あの魔術師さんの動きヲ止めさえすれば、この魔法モ弱まると思われますノデ!」リィカが魔法を放ち竜の動きが一瞬止まったスキを突きアルドとエイミがナーヴァに攻撃を仕掛けた時、「チッ、ちょこまかと動き回って鬱陶しい奴らだ」ナーヴァは瞬時にバリアを張り攻撃を防いだ。

“シャイン”フィーネが魔法を放ち、「しまった」とナーヴァがバっと上を向いた時には頭上から鋭い光が彼を直撃した。

「サイラス、今だ!」「承知!“円空自在流・蒼破”」黒炎の竜がピタッと動きを止めた瞬間を見逃さず、サイラスは技を叩きこんだ。すると竜は黒い煙を上げながら次第に消えていった。

「おのれ、私を本気で怒らせたようだな!覚悟しろ!」ナーヴァは自身に杖を向けたかと思うと、全身が黒い光に包まれメキメキと骨が軋むような音を立て膨れ上がった。光が消えた後には空間いっぱいの巨大な銀色の頑丈な竜が現れた。

「あいつ、変身できるの!?」エイミが目の前に現れた竜に驚きを隠せないでいた。

「やはり、一筋縄ではいかないでござるな」

「みんな、攻撃がくるぞ、避けるんだ!」アルドが叫んだ瞬間、竜が炎の渦を口から吐き出しアルド達を襲ったが、フィーネが魔法でダメージを抑えつつリィカが回復魔法をかけ難を逃れたかと思った時、竜は大声を出し凄いスピードでアルド達に突進してきた。間一髪で逃れるも竜はそのまま壁に激突し、その衝撃で上からパラパラと石や砂が落ちてきた。

「まずいぞ、こんなに壁に激突されたら、ここが崩れる!」アルド達は竜の突進をかわしながら攻撃を仕掛けるも頑丈な皮膚に跳ね返された。

「ていうか、こいつ理性を失ってる?攻撃もめちゃくちゃだわ」ケイトは息つく暇もない攻撃に何とか耐えていた。その時、また大きな揺れが起こり、皆その場にしゃがみ込んだ。

「こんな時にまた地震か!?」「お兄ちゃん、前を見て!」フィーネが壁に寄りかかりながら指をさすと、竜がバランスを崩してそのまま真下の湖へと消えていった。

「私達、助かったの?」エイミが揺れが収まると、敵が消えた湖の中をまじまじと見た。

「分からない、けどこの高さから下に落ちたらタダじゃ済まないはずよ。それより今は自分たちの心配をしましょう。どんどん源泉の光が強くなってる」ケイトは青く光る柱を見据え立ち上がった。

「あ、あぁそうだな、この町が毒でやられる前に止めないと、急ごう!」アルド達はろ過装置場所の元へ急ぎ地下へと進んだ。

 アルド達が神の光の源泉の地へ到着すると、少し離れた巨大なろ過装置の前でソロノフとジルが佇んでいた。

「やっと追いついた。お前たち、今すぐろ過装置を元に戻すんだ、お前たちも危ないんだぞ!」アルドは二人に向かって叫んだ。

「ジル、お願い、今すぐ戻して」ケイトも悲痛な叫びを上げた。

「これはこれは、まさかナーヴァまでやられるとはな。使えない奴だ。どうだ、皆の者、私達の仲間にならないか?君たちがこれ程までの剛腕だったとは御見それした。私達と一緒に素晴らしい国を築き上げようではないか!」ソロノフはアルド達に向かって手を差し伸べた。

「ふざけないで!町を破壊するような奴に誰が付いて行くもんですか」エイミがけんか腰で言い返した。

「ジル、そいつの本性が分かったでしょう、簡単に人を切っては捨てるような奴なのよ、どうしてそんな奴の見方をするの?」

「姉さん、俺はね、この町に、自分に飽き飽きしてたんだよ。毎日同じ時間に起きて、同じ事をこなして、何も変わらない風景。傷ついてもすぐ治るこの体。俺は何のために生きてるんだろうって。外の世界を知りたくても大人たちは頑なに拒んだ。だから大人たちの目を盗んではこっそり外に出ていくようになった。そんなある日、この方と出会い、俺の価値観はガラリと変わったよ。この方は俺の知らなかった事をたくさん教えて下さった!敵国との闘いで俺の周りが次々と倒れる中、この胸の石のおかげで俺は何度も難を逃れた。その時、あぁ、俺は生きていると初めて実感できた。俺はこの方の盾となり、国を大きくする、これこそ俺の生きる意味だとそう思った。・・・だから俺は自分の故郷を襲う事に後悔はしてないよ」ジルは真っ直ぐにケイトを見て言った。

「ジル、あなた本気で言ってるのね・・・。今までそんな事思ってるなんて全然気づかなかった、私がもっとちゃんとあなたの話を聞いてあげていたら、こんな事にはならなかったわ、ごめんね、ジル」ケイトは目に涙を溜め続けた。「でも、たとえ町を襲っても、そいつに付こうとも、あなたを突き放すなんてできない、私のたった一人の弟だから!だからどんな手を使ってでも絶対にあなたを連れ戻す!」ケイトは両手で剣を構えた。

「交渉決裂か。ジルよ、ここもだいぶ毒の光が積もってきたようだ。さっさとこいつらを蹴散らすとしよう」ソロノフは残念だとばかりに頭を振り、腰から剣を抜いて片手で剣を悠々と構えた。

「ソロノフ様、恐れ入ります。すぐに終わらせますので」ジルは右手に光を集めると、アルド達に向かって勢いよく放った。アルド達が避けた場所は大きく地面がえぐり取られていた。「こんなの喰らったら、跡形もなくなるぞ」アルドがさっきまで自分が立っていた場所を見ていた時。「戦場でよそ見はいけないと習わなかったか?」ソロノフがアルドに切りかかったが何とか剣で受けとめ、ソロノフの背後をサイラスが貰ったとばかりに切りかかった。しかし、ソロノフはアルドを弾き飛ばすとサイラスの攻撃を避け、斬撃を浴びせるように打った。「ははは、まさかこんなものではあるまい?」ソロノフは余裕の表情でアルドとサイラスに対峙した。

 「姉さん、今構っている時間はないよ、さっさとそこをどいてくれ」ジルは再び右手に光を溜め始めた。「何度も同じ手は喰わないわ」ケイトは切っ先をジルへ向けると、そこからひかりがほとばしりジルへと一直線に向かった。だがジルは右手に集中したままで軽く避け、リィカの鎚攻撃もエイミの連打もするりとかわし再度ケイト達に光を放った。光はケイト達を通り過ぎ、フィーネへと向かい、そのまま壁に衝突し辺りはモクモクと土煙に包まれた。

「しまった、フィーネ!」アルドはソロノフとの戦いで駆け付けられず、大声で叫んだ。

「隙あり!」ソロノフは容赦なくアルドに切りつけ、それをサイラスが何とか阻止した。

「アルド、目の前の敵に集中するでござる」「サイラス、すまない」

「ふん、よそ見とは私も舐められたものだ、これでも喰らうがいい」ソロノフはぐっと剣を握りしめ、空を切ったかと思うと剣の波動が地面を二つに裂きながらアルドとサイラスを襲った。

「わぁぁぁぁぁっ!」「しまったでござる」二人は剣の波動を受けとめきれず、まともに壁に衝突した。

 

「フィーネ、怪我はない?」フィーネはそっと目を開けると、ケイトが覆いかぶさりにっこり笑っていた。「ケイトさん、もしかして私を庇って!?」「間に合ってよかったわ」ケイトはそう言うとガクッとその場に座り込み苦しそうに顔をしかめた。フィーネはケイトの背中がひどい傷を負っているのに気づきすぐに回復魔法を施した。「ケイトさん、ごめんなさい、私のせいで」「何言ってるの。アルドが私に言ってくれたように、私もみんなの傷つく姿は見たくないの。それにあなたの魔法で傷の治りが早くて助かるわ」ケイトはそう言うと、まだ治るとは程遠い状態でふらふらと立ち上がり、剣を構えた。

「ケイト!?フィーネを庇ってくれたの?」エイミは煙の向こうから現れたケイトを見て驚いた。「私とフィーネは無事よ!それより、ジル、女の子に向かって攻撃するなんて、信じられない!」

「敵に男も女も関係ないだろ」ジルは冷め切った目で言い放つとすぐに攻撃を開始しようとした時、再び地面が大きく揺れ、光の柱はほとんど源泉の青白い光に染まっていた。

「ここもじきに毒で溢れるな。」ジルは柱から降り注ぐ青白い光の塊を見上げ呟いた。

「何だ、まだ女ども相手に手こずっていたのか」ソロノフがジルの方へつかつかと近づいてきた。

「まさか、アルド達がやられたの!?」エイミが思わず辺りを見渡した。

「先ほどノ言葉ハ聞き捨てなりませんノデ!」リィカは鎚を構え目を赤く光らせた。

「ソロノフ様、申し訳ありません。次で必ず終わらせますので。」ジルは両手を胸の前で円を描くように構えると、胸の中の光がどんどん溢れ出し、電気のような白い光線がほとばしりだした。

「私も加勢しよう。すぐに終わらせるぞ」ソロノフは剣を構えると、先ほどの斬撃の波動を放ち目にも止まらぬ速さでエイミ達に向かってきた。すると「そうはさせるか!」声がとんできた途端、アルドとサイラスが同時に斬撃を放ち、剣の波動を打ち消した。

「みんな、無事か!」「何よ、偉そうに!アルドったら思い切り弾き飛ばされてたじゃない」「ちょっと油断しただけだよ、まだ動けるな、サイラス?」「うむ、あいにく拙者の辞書には<やられっぱなし>の単語はないでござる」「皆無事でよかった。回復は任せてください!」「すぐに制圧サセテいただきマス!」

「皆、お願い、最後の力を貸して。これで絶対に決める!」ケイトはそう言うと剣を縦に構え目を閉じた。

「ああ、もちろん、ここからは総力戦だ」アルド達も再び戦闘態勢になり、二人と対峙した。

「虫が何匹集まろうが同じ事。これで終わりにしてやるわ!」ソロノフは剣を高々と掲げると、次第に風が吸い寄せられるように集まり、大きな風のうねりとなりアルド達を襲いかかった。アルドとサイラスも迎え撃ち、風のうねりと二つの斬撃が衝突し辺りの瓦礫を吹き飛ばし、光の源泉の水面も波打った。

「姉さん、これで終わりだ!」ジルは両手に溜めた特大の光のエネルギーを放つと、周りに浮いていた光を吸収しながらどんどん膨らみ続けケイトへと近づいて行った。

「そうはさせない!」エイミはブラストヘブンを繰り出し、リィカも続いてサンクトゥスレイを放つも僅かに小さくなったに留まり、依然としてケイトへと猛然と突き進んでいった。

「ジル、絶対にあなたを止める!覚悟しなさい!」ケイトはカッと目を開き、今や白い光で何倍にも大きくなった自身の剣を渾身の力で振り下ろした。剣からほとばしる光の光線が真っ直ぐにジルのエネルギーとぶつかり、衝突の衝撃で壁面にヒビが入るほどだった。しかし、互角にぶつかり合っていた二つのエネルギーは次第にジルのエネルギーに飲み込まれようとしていた。

「私の力も使ってください!」フィーネはケイトの両手を握り力を込めた。

「フィーネ!ありがとう!」二人で何とかジルの攻撃を押しとどめるも、まだまだ力を増すジルの攻撃。

「そんな!私の攻撃が押されてる!?お願い、ジルに届いて!」ケイトはぐっと剣を握りありったけの力を込めた。すると、その時、右手の白い腕輪が眩い光を放ち、独りでに右手から外れケイトの剣への中へ消えていった。その瞬間不思議と力がみなぎるのを感じた。

「届けーーー!!」ケイトは叫ぶと、剣から溢れ出た白い光がジルのエネルギーを二つに裂き、そのままジルを飲み込んだ。

 アルドとサイラスはソロノフの斬撃を迎え撃っていたが、風の強靭なうねりはアルド達の攻撃を次々と跳ね返した。

「くそ、これが最後の一発だ。サイラス、行けるか!」「もちろんでござる!」

「これで終わりだっ!」アルドはオーガベインを抜くとサイラスとともに渾身のⅩ切りを叩きこむと、ソロノフの攻撃は弾けたように消失した。

「私の攻撃が敗れただと。そんな事は絶対に認めん!」ソロノフはⅩ切りを剣で受けとめるも二人の斬撃に剣は粉々に砕け、体を切り裂き、仰向けに倒れた。

「危ない所だった・・・。みんな無事か!」アルどとサイラスは疲労困憊で動けないでいる仲間のところへ駆け寄った。

「アルド、サイラス!無事でよかった!」エイミは肩で息をしながら、何とか立ち上がった。

「あっ、ケイトさん!」フィーネはふらふらと歩き出したケイトに声をかけた。

ケイトは何も聞こえず、一心不乱に傷が癒えきってない体を引きずり、横たわっているジルの元へと急いだ。

「ジル・・・、大丈夫?お願い、目を覚まして!」

「姉・・さん、何で、ここにいるんだ。俺は最後まで姉さんに刃を向けたのに・・。」

「・・・無事でよかった!しゃべっちゃダメ!傷が深いから、今すぐ治すわ」

「・・いいよ、もう。今ので全部力を使ったから・・。自分の中に何も残ってないのがわかる・・、姉さんごめんね、こんな弟で。」

「バカ!何言ってるの!絶対連れ戻すって言ったでしょ!」

「・・・・」ジルは目を閉じ、何も言わなくなった。

「ジル!やだ、いかないで、お願い!」ケイトはジルの体の上に突っ伏して泣き崩れた。すると、ケイトがぶら下げていたネックレスが光始め、ジルの胸の石の中へと入り、ジルの体は柔らかい光に包まれた。

「これは・・・、何が起こったの?」ケイトは目の前の光景に呆然と眺めていると、ゲホッゲホと咳をしジルが息を吹き返した。

「ああ、ジル、良かった、本当に・・・」ケイトは後の言葉が続かずジルに飛びついた。

「姉さん、俺、死んだかと思ったのに、いや死ぬべきだったのにどうしてこんな事を・・」

ジルは弱弱しくケイトへ問いかけた。

「言ったでしょ、私はあなたの姉よ、どんな事があってもあなたを連れ戻すって。」ケイトは優しくジルを抱きしめた。


「ケイトー、久しぶりだな!元気そうだな」アルドは人で賑わっている通りの中で慌ただしく動いているケイトを見つけ声をかけた。

「アルド、それに皆も来てくれたのね!」ケイトは声のした方を振り返ると、パッと顔を明るくして言った。

「随分な賑わいね!あれから1か月だっていうのに、もう元に戻ったんじゃない?」ときょろきょろ見渡しながらエイミが言った。

「あの時は毒に飲み込まれるところでござったのに。いやはや月日が経つのはあっという間でござるな」サイラスは目を細め懐かしむように言った。

「そうね、あの時はジルがギリギリの所でろ過装置を元に戻しくれたから。それにあの国はできたばかりみたいだったから、あの独裁者がいなくなったら兵士たちは喜んで武器を手放して、皆を開放してくれたわ」とケイトは言った。

「どの時代にもそういう輩はいるものでござるな」サイラスは腕を組んで額を寄せた。

「そういえば、ジルさんはどこに?」フィーネが尋ねると、「まぁ、あんな事をしでかしたから、まだまだ拘留期間は続くけど、ばつが悪そうな顔しても毎日会ってくれるの!」ケイトは嬉しそうに答えた。

「それに、この出来事で皆も今のままじゃこの町は守れないって気づいたみたいだし、協力してくれそうな諸外国を探してるんだけど、中々厳しいのよね」ケイトが肩を落として話していると「おれ、知り合いに国王がいるんだけど、良かったら紹介しようか?」と、アルドは真面目に話した。

「知り合いに国王ですって!?アルド、あなた本当に何者なの」ケイトは信じられないと言った顔でアルドをじっと見た。

「困った者を助けずにはいられない通りすがりの旅人いったところでござろうか」サイラスが笑いながら答えた。

「私のデータベース上でもそのようにインプットされてますノデ!」リィカも目を光らせながら言った。

「お、おい、みんな!やめてくれ」アルドはタジタジになり、それを皆が面白そうに笑った。天井からは雪のような光がいつもと変わらずきらきらと降り

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