第7話
俺は『スキル』と書かれた欄の内容を簡潔に伝える。
「え、っと『身体強化LV1』、『鑑定』、後は『異界の狩人』っていうのがある」
「え!? ちょ、ちょっと待って! 『スキル』が3つもあるの!?」
「え? 何かおかしいの?」
「いや、おかしくはないんだけど、かなり珍しいわ」
お、マジか! まさか本当に俺はチート的な存在なのか? だってそうだろ? 3つでかなり珍しいってことは『スキル』を
ニヤける顔を何とかごまかしながら俺は手元のステータスカードをまじまじと眺める。
名前:リン ミヤマ
性別:男
職業:異界の狩人
LV:3
筋力:32
体力:30
精神力:27
耐力:23
敏捷:36
運:29
スキル
『異界の狩人』(派生あり):異界より現れしそれは全てを狩る。
『身体強化LV1』:自身の基礎ステータスを上昇させる。
『武具適正B』(『異界の狩人』より派生):全ての武器(盾含む)に玄人級の適正を得る。
『鑑定(EX)(『異界の狩人』より派生):自身の強さに応じて様々な情報を取得することが出来る。
『素材回収RANK1』(『異界の狩人』より派生):RANK1等級の素材を獲得できる。
『当たり』
称号:なし
唯一気になるのがこのスキル欄にある『当たり』というスキルだがこれだけ効果が見えない。流石になにも効果のないスキルではないとは思うが正体がわからないと言うのは少し気味が悪かった。
「ねぇリン、とりあえず『身体強化』と『鑑定』はどんなものか分かっているから『異界の狩人』のスキル内容について教えてもらえないかしら?」
「えーっと……」
え〜? なんて説明すればいいんだ? めちゃくちゃ抽象的な説明しか書いてないんだが。
とりあえずこの『派生』とやらで出ているスキルの説明でもすればいいかな?
「んーと、武器にある程度の熟練度適正が得られるんだってさ」
この位なら教えても問題ないだろう。なぁんて思った俺がバカだった。それは次のアーリィの反応が如実に証明していた。
「何ですって!?」
アーリィが俺の返答を聞いた瞬間声を荒げてこちらに詰め寄ってきた。
「え、ど、どうしたん?」
「どうしたんじゃないわよ! その『スキル』は『ウェポンマスター』と呼ばれる数少ない職業の固有スキルなのよ! それなのに『スキル』で獲得できるなんて!」
アーリィの興奮具合が尋常じゃない。
「こうしちゃいられないわ! リンは金の卵よ、育てなければバチが当たるわ! という訳で早速スキルの感触を確かめに行くわよ!」
「え? ちょまっ」
俺は首ねっこを掴まれて女の子に引っ張られてるとは思えない力で瞬く間に引きずられていく。
「いってらっしゃ〜い」
激しく揺れる視界の中には教会の中からにこやかに手を振るマリーの姿がかすかに見えた。
俺は瞬く間に村の外へと連れ出され、とある細い木の幹の下辺りで首根っこを解放された。
な、なんて馬鹿力なんだ。人は見かけによらないとはまさにこのことか。
「さ、着いたわ! じゃあ早速狩るわよ!」
「え? 狩るって何をさ」
「何ってモンスターに決まっているでしょ!」
モンスター狩り? 俺が?そりゃ異世界の定番だろうけどさ、ど素人に戦闘とか厳しすぎるでしょ。
『いや無理だって、怖いし!」
「無理じゃないわ! 『ウェポンマスター』と同じスキルを発揮できるんだから! ほら武器よ! どれがいい?」
そう言ってアーリィは腰に下げていた鞄からひょいひょいっと様々な武器を取り出す。
「な、何それ今どこから取り出した!?」
「ん? この鞄からだけど?」
いや何を当たり前なことを、みたいな顔してるんだコイツは。あれか、やっぱりそういうものの存在は当たり前だってか。流石ファンタジー!
「いやいやいや、俺はそんな摩訶不思議な鞄の存在は知らないよ?」
「え、『マジックバッグ』を知らないの? 見た目よりも沢山のモノを収納できる便利なアイテムよ?」
「へ〜、どのくらい入るの?」
「モノによるけど、見た目の容量のざっと10倍は入るわよ」
「へ〜すごいな!」
俺の知ってる展開じゃ滅多にお目にかかれないもののはずなんだけどな、アーリィのこの言い方だと結構普及してるのかな。
「って今はこんな話どうでもいいのよ!ほらリンさっさと武器を選びなさい!」
チィィ! 話題を上手く逸らせたと思ったんだけどなぁ!
「だぁからどれがいいか、なんて聞かれても無理だって!」
「スキルがあるんだから無理じゃないわ!」
「じゃあ戦いたくないから無理!」
「それは却下よ!」
却下された!
「いや却下なんて言われても無理だから! 満足に武器握ったこともないし、戦闘とか無理だって! 仮にやるとしても実戦の前にある程度訓練するべきだろ!」
俺は俺なりに正論をアーリィにぶつけたつもりだ。だがアーリィから返ってきた言葉は——。
「時間が無いの! だから訓練をしている余裕なんてないわ!」
こんな言葉だった。
「ハァ? お前さっきからなに——」
思わず俺の言葉の語気が強くなる。そんな俺に対しアーリィは——。
「お願い」
そう言ったアーリィの瞳は俺の目を射抜くように見つめていた。
…………ふぅ。
「アーリィ、お前が俺に戦闘させたい理由はなに?」
ここまで頑なになるからには理由があるはずだ。
そう思い、なるべく静かな声でアーリィに問う。それに対し、アーリィはゆっくりと口を開いた。
「魔物のね、襲撃があるかもしれないの」
「襲撃? いつ?」
「分からないわ。でも、森の調査の結果によるとかなり高い確率で起こりうる可能性があるの」
俺の脳裏には俺が対峙した醜悪なゴブリンの姿が浮かび上がる。すると無意識の内にゴクリと喉が鳴った。
「襲撃があるって言う具体的な根拠は?」
「あなたがうちに来てから過ごしていた三日間の間私は森の調査をしていたの。こっちは妹が攫われているからね、念入りに行ったわ。そうしたら、魔物の出現場所がいつもよりもずっと村に近い位置に近づいていることがわかったの。その原因を探るとゴブリンの集落であることが分かったわ」
俺はアーリィの説明を静かに聞いている。
「一応説明しておくけどゴブリンは大体10匹以上で集落を作るの。そして集落の長がゴブリンリーダーとして他のゴブリンを率いるのだけど、今回のは規模が違うの。文字通りね。普通ゴブリンの集落は時として二十匹ぐらいの誤差があるのだけど今現在森にある集落は予想だと100匹以上いるわ」
「ひゃ、百匹!?」
あんなのが100匹だって! 冗談じゃない!
「そ、そんなのにアーリィは勝てるのか?」
アーリィは難しい顔をした。
「分からないわ。全てのゴブリンがただのゴブリンなら多少苦戦しても何とかなるだろうけど、100匹もいれば上位種が混じっているのは間違いない。詳しい数も分かってないから本当に100匹なのか、もしかするとそれ以上いるかもしれないから分からないの」
「な——」
100匹以上!? 上位種が不特定多数!? そんなの常識的に考えて無理だろ!
「そんなの勝てるわけないだろ! 今からでも遅くない、逃げよう!」
俺は重苦しく口を開いたアーリィに恐怖から出たそんな言葉をかける。アーリィがこんな話をした時点で俺の言った「逃げ」の一手を取るわけがない。だが、そんな提案をせずにはいられなかった。
「それはできないわ」
「どうして!」
分かっていても俺の本能は常に「逃げ」の一手を選択してしまう。
「村人を全員避難させることができないからよ」
「……っ!」
全員を避難させることが出来ない。実にシンプルで実に厄介な問題だった。俺はこのイレ村に来て日が浅すぎて未だ「他人」という感覚が抜けないが、アーリィにとっては違うことだろう。
アーリィに引きずられたり、教会までの案内されている道中で村人をチラチラ見かけていたが、やはり村というだけあってそれなりに狭い。故に村の中に一緒に住んでいる住人たちは近所同士の心の壁というべきものが存在しないようだった。
アーリィにとってここの村の住人というのは「もう1つの家族」とでもいうべき存在なのだろう。そんな存在を俺が仮にアーリィだったとして見捨てられるだろうか。否、きっとアーリィと同じ選択をすることだろう。
「もう私にできることは全てやったの。村長にいざとなったら私を見捨てて都市の方へ逃げてもらう約束をして、ギルドと国に救援要請を出した。あとは戦うだけ。でもやっぱり私だけじゃ戦力が足りないの、だからお願い。私と一緒に戦ってほしい」
このとき不覚にも俺はアーリィにときめいてしまった。涙で瞳を潤ませ縋る乙女のなんと可憐なことか。俺の心の中の自身の生命と乙女の懇願の天秤が一瞬だけだが乙女の懇願に大きく傾いてしまった。
そうなってしまえばもう俺に断る術は残されていないも同然。
俺は地面に並ぶ武器の中からショートソードを手に取った。
「アーリィ、今のままじゃ俺は絶対戦力にならないよ。だから俺を鍛えてくれないか」
「え、じゃあ……!」
アーリィが顔を上げる。
「ああ、どれだけ力になれるか分からないけど一緒に戦うよ」
「リン……。ッありがと!」
そう言ってアーリィはなんと俺に抱きついてきた!
「ちょちょちょぉい! 何してんの!?」
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