第6話 エアプ原の覚悟
「まあ……コトの始まりはそうっすね……」
「先生はアレだ! 能力バトル系ジャンルで能力を持ってないのにめちゃくちゃ強い無能力者が好きだな!」
おいおいおいおい伊勢原先生よお。それは、それは……!
「わかるっ!」
俺と相模原は同時に同じ言葉を発した。
「体術がめっちゃ強いとか不意打ち上手とか周りの環境を利用するとかしてさ! 圧倒するんだよ! 能力者を! そういうキャラ出てくると先生めっちゃテンション上がるわ」
伊勢原先生なかなかわかってらっしゃる。
いつもは変に絡んでくる空気の読めない先生だけども結構その手の漫画やアニメが趣味だったりするんかなあ。
「いや俺の好みはどうでもいいな。それはそうとよ」
伊勢原先生は眉間に皺を寄せながら頭を左右に振る
「町田くんさあ、お前オタクくんだよなあ?」
伊勢原先生が怪訝な表情で俺に質問を飛ばす。
オタクかと問われれば、そりゃまあ
「いやまあ本職(モノホン)の人に比べたらそりゃ二段も三段も下がると思いますけど一応俺はオタク寄りだとは思いますよ」
「相模原はどうなんよ?」
次に伊勢原先生は相模原にも問いかける。
「もちろんオタクですよ。自分としては一つ上のオタクと自負してますよ」
相模原はフンスッ! と鼻息荒く自分の顔の下半分が隠れるくらいブレゼーの襟元を大げさに持ち上げて見せた。
「そうかそうか。二人共自負しちゃってるか」
俺と相模原の返答を聞いた伊勢原先生は腕を組みうつむきながらウンウン頷く。
「なあ二人共聞いてくれるか」
伊勢原先生が深刻そうに口を開く。
「昔な、大学時代俺の知り合いにものすご~く趣味のストライクゾーンが狭い奴がいたんだ」
「趣味のストライクゾーン。趣味が少ないってことですか?」
相模原が伊勢原先生に聞き返す。
「その通り。アニメ一つとっても何を見てもお気に召さずにプリプリ文句を言う。そんなやつだったよ」
好みが狭いってことか。しかしなんでそんな話をするんだろうか。
俺の疑問をよそに伊勢原先生は話を続ける。
「そんな奴でもな。お気に入りのアニメがあったんだよ。タイトルは忘れちまったけどな。とにかく相当お熱だった」
なんだ。お気に入りがあるならよかったじゃないか。
「何見ても何も楽しめないってわけではないなら良いんじゃないですかね」
俺は伊勢原先生に問う。
「それがな。そいつずっと同じアニメしか話さないんだよ」
「えー? でも先生、お気に入りなんだしそんなもんなんじゃないんですかぁ?」
相模原の意見に俺も心の中で同意した。
そんな俺達に向かって伊勢原先生は目を閉じて首を横に振る。
「そう単純な話じゃあない。そのアニメが放送されてる時は当然いい。放映終了したての時も見終わった余韻や感想を語るのは当たり前だよな。でもな、そいつは一年経っても二年経ってもそのアニメの話しかしないんだよ」
「oh……」
俺はついネイティブなリアクションを取ってしまう。それは、なかなかにキツいものがある。
「いいやあ~。キッツイぜえ~おい?毎回毎回同じ話をする奴と食うメシってのはよお」
伊勢原先生は目をキツく閉じてしみじみと呟く。
「友達と集まってアニメの話題になるよな。そうなるとそいつは絶対お気に入りのアニメの良さを早口でまくし立てるんだ。それだけでもキッツいのに他のアニメを引き合いに出すんだわ」
俺はその知り合いさんを他人と思えなくなってきた。更に伊勢原先生は続ける。
「『○○に比べれば□□は浅いね』ってよ。それが発端で俺の知り合いとそいつが喧嘩沙汰になった。なんてことも一度や二度じゃなかったな。キッツいぜえ~?」
キツい。そりゃキツいっすわ伊勢原先生。
相模原も表情で『うわキッツ』と語っていた。
「だもんでもうそいつの前ではアニメの話はしないって密約が俺達の中でかわされてな。それ以降はだいぶ平和になったな」
「それで先生。なんでそんな話を私達にしたんですか?」
相模原からの問いに伊勢原先生はため息をつく。
「そんなもんお前……その知り合いがお前らそっくりだからだよ!」
「ええええええええええ!」
俺も相模原も思わず声を上げてしまった。
「当たり前だ! 他社の趣味を引き合いにてめえの趣味がいかに崇高かをベラベラくっちゃべってたお前らにあいつの姿を垣間見たよ!」
うう。確かに俺も相模原も伊勢原先生の知り合いみたいなムーブをしてしまっていたような気がしてきた。
「おいエアプ原」
伊勢原先生が相模原?に話しかける。
「エア、え? は、はい?」
エアプ原がおずおずと返事をする。そうだぞエアプ原お前のことだぞ。
「お前町田から勧められたロボットアニメを見てみろ」
「ええー?いやいやいやいやなんでロボットアニメなんかを!」
抗議の声をエアプ原が上げる。
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