第7話 地球防衛企業ダイ・ガード
「いや絶対見ろ。指導だ。俺の知り合いみたいになりたくないだろ?」
「うう……ええ~。でも先生~」
相模原はゲンナリした表情を露骨に見せる。
さっすがー! 伊勢原様は話がわかる!
「そんでエアプ田」
「へ、へえ。なんでしょうか旦那」
伊勢原先生の次の発言だいたい予想できるよこれ。俺もだろ。どうせ俺もなんだろ!
「お前は相模原から勧められた少女漫画を読破な」
この教師全然わかってねえわ! なんもわかってねえわ!
「そ、そりゃないですぜ旦那ぁ……あっしは少女漫画なんて「お前らその年で『見なくてもわかる』『読まなくてもわかる』なんて言ってるとロクな大人になんねえぞ。決定」
伊勢原先生の無慈悲な指示が俺に飛ぶ。
ぐああ! マジか!ええ~読まなきゃいけないの?あのピンクピンクしてる物体を
俺も相模原と同じような顔してるんだろうな今。
「でも先生。やっぱりさあ。確かにその知り合いさんみたいになるのは嫌っちゃ嫌なんですけど、それでもやっぱり」
俺は先生に抗議する。
「ああ忘れてた。その知り合いの話には続きがあってな。この前偶然そいつと街で出会ったんだよ。五年ぶりくらいかな。流れで飲みに行ったんだがアニメの話を冗談で振ったんだよ。そしたらそいつな……」
「わかりましたわかりました! 聞きたくないです!」
怖い怖い怖い!そんな汚れた大人になりたくねえ!翼の折れたエンジェルになりたくねえ!
「ほら。さっさとお前らの”推し”をお互いに伝えろ。伝えてみ!」
伊勢原先生が俺と相模原を急かす。
ああもうこれやるしかねえか。やるしかないか。
ん~でもどうすっかな~。実際何見せるかって話になると難しいよねこれ。
この手のジャンル嫌いに見せるロボットアニメか…コテコテなのは避けたほうがいいよな…
かといってヒネったタイトルもそれはロボジャンルに一定の知識や経験がなければ楽しめない。いわゆる”お約束”を逆手に取った作品も当然初心者が見てもわからないだろうし。
これ結構難題じゃない…?人に自分の好きなものを勧めて、お口に合わなかったなんて事態。考えただけでプレッシャーで足の裏がムズムズしてくる。
「あーじゃあ私あれ勧めます。ガラスの仮面! 超名作! 少女漫画に限らず全漫画、いや、全創作物と比べてもトップレベルだねあれは! クッソ面白いよ!」
「お、エアプ原はガラスの仮面か。あれ面白いよな。学生時代俺もドハマりしたわ。いいチョイスしてんねえお前!」
「おお? 伊勢原先生も読んでたんですか? いやあ~鉄板ですよねこれ!」
相模原と伊勢原先生が思わぬ同好の士であることが判明したのかウキウキしているのがひと目でわかる。
ガ、ガラスの仮面?それなら少女漫画ジャンルに疎い俺でもタイトルくらいは知っている。超有名漫画だ。
あらすじは確か演技の才能のある主人公の女の子が女優の道を目指す。そんな物語だったはずだ。
「あ~ガラスの仮面…まあ知ってるよ。あれだろ? 恐ろしい子! ってので有名で色々なアニメや漫画でパロネタになってるやつ」
「パロネタ知ってて元ネタ未読ってのも、まあ仕方ねえか。今のご時世パロネタ見かける度にいちいち元ネタ追ってったらキリがねえからな」
「町田氏、確かにアレは有名なネタだけどガラスの仮面はそこら辺抜きに超サイヤグッドだよ」
「そう! 相模原の言う通り!そもそもガラスの仮面は少女漫画という枠組みをゆうに超えているんだよ。少女漫画だとか意識せずに漫画として読めばいい」
相模原と伊勢原先生の二人がタッグで俺に熱弁を振るってきやがる。
ふむ。少女漫画自体に抵抗があるなら漫画として読めばいい、か。
よっぽど中身に自信があるからこそ言えるのか。うーん、ちょっと気になってきた。
やばい読みたくなってきたかもしれない。
「それで町田。お前は相模原に何を勧めるんだ? ロボアニメ嫌いのエアプに見せるロボアニメをチョイスしたまえよオラァン!」
え? やだ……なんで伊勢原先生ちょっとテンション高いの?
そんなにガラスの仮面好きなの?ま、まあいい、のかなあ。
相模原に勧めるロボアニメ! ここのチョイスは間違えられない!
俺は二人に背を向け顎に指を引っ掛けて思案する。
奴は少女漫画を代表する漫画を出してきた。だとするならば俺もジャンルを代表するブツを出すべきか?
コテコテのロボアニメとなるとガオガイガーか? ガオガイガーアリなんじゃないか? いや、違う。ガオガイガーはむしろある程度ロボアニメ経験を積んでから観た方が絶対楽しめる作品だ。
というか初めての勇者シリーズでいきなりガオガイガーを見てもらいたくないって乙女心が俺の中に存在している。
俺は勧めるロボットアニメの選択肢の多さに苦悩した。
候補が多すぎる。とてもじゃないが絞れない。
ロボアニメ嫌いに勧めるロボアニメってなんだよ…嫌いな人に何をどう勧めればいいってんだ?
いや、いや待てよ?
そういえば相模原はリアルじゃないからロボアニメは嫌いと言っていたな。
だけど、見ていてこれはリアルだ、と感じたロボットアニメって結構あったんだよ。
現実ではありえないようなでっかいロボットがレーザーを撃つような内容なのに。それでもリアルに感じた作品。
どうして俺はそのような作品をリアルに感じていたんだ?
あ、もしかして……
そうかそうだったんだ。だとするならば別の方向から切り込むべきだったんだ!
もう迷わない。俺は相模原と伊勢原先生に振り返る。
「なら、俺が相模原に見てもらうロボアニメは地球防衛企業ダイ・ガードです」
「なるほどそう来たか。ダイ・ガードか。俺はパトレイバー勧めると思ってたぞ」
伊勢原先生が笑顔で頷く。
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