第3話 事件発生?
大村さんが出て行って、私は一人でため息をついた。そして私もトイレを出た。順番待ちの列はなくなっていたので、自動販売機で紅茶を買った。設置されてある長いすに座って飲もうと、空いてるスペースを探した。自販機のすぐ側の家族連れの隣が空いていたのでそこに座った。私はしばらく外の景色を眺めていた。紅茶を飲み終わって、席を立とうとした時ふと、長いすの上に折りたたまれた紙が置いてあるのに気づいた。先ほど席を立った家族連れが座っていた所だ。どこにでもあるコピー用紙のようだった。私は手に取って開いてみた。新聞の文字の切り抜きを貼ってつくられたスクラップの文章で、次のように書かれてあった。
金 は 用 意 し た か
受 け 渡 し 方 法 は メ ー ル で 知 ら せ る
事件が起きていると確信した。小さい頃に見ていた刑事ドラマでよく出てきたシチュエーションだ。誰かが犯人から脅迫され、金を渡すためにこの列車に乗っている。そしてこの手紙以降の連絡手段はメールで行われる、そのように私の直感が働いた。
私はそこに座っていた家族連れの顔や服装をはっきりとは覚えていなかった。覚えていたことは、どこにでもいそうなお父さんとボブヘアのお母さんと小学生くらいの男の子の三人家族であることくらいだった。
私はとりあえず、その家族連れを探すために六号車と最後尾車両へ移動した。しかし見当たらなかった。再び五号車のラウンジカーに戻って来て、先頭車両へ向かって移動することにした。四号車と三号車の個室客車には誰がいるのかわからなかった。二号車の展望車へ行ったが、それらしき家族連れはいなかった。ちょうどそこへ、先頭車両から大村さんが出てきた。私は彼女の手を掴み、車両の隅で警察手帳を見せた。
「えっ! 刑事さん」
「しっ、静かに。T県警の香崎です。実は協力してほしいことがあるの」
「は、はい」
「ある家族を探してるの。三人家族で、父親はどこにでもいる普通な感じで、母親の髪型はボブで、子どもは小学生くらいの男の子。そういう家族を見なかった?」
私は小声で大村さんに尋ねた。
「……うーん、わからないです」
「んー、そうよね。では、探すのを手伝ってくれない?」
「はい、わかりました」
私は二号車から、最後尾の展望車の方へ向かって探すことにした。
大村さんと一緒に、まずは三号車と四号車を通った。
「ここは個室客車ね。利用者の名簿とかはあるの?」
「はい、一応、会社で名簿はつくってあります」
「三号車と四号車、個室はそれぞれ四つずつか」
「はい」
「仕方がない、五号車に行きましょう」
その時突然、一瞬だが明かりが消えて真っ暗になった。
「今、列車が山間部に入りました。圏外のため、しばらくの間、携帯はお使いいただけません」
「……びっくりした、そうなの……」
「はい、一応、パンフレットに記載してあります」
「……あら、読んでなかったかも……行きましょう」
五号車のラウンジカーに来た。
「大村さんは、仕事をするふりをしながら、三人家族を探して。くれぐれも怪しくならないように」
「あ、いや、あの、私――」
「大丈夫、普段通りに仕事してればいいのよ。そのついでに周りの人をさりげなく見るの。じゃ、お願いね」
「え、あ、はい」
私は自動販売機でもう一度紅茶を買って、長いすに座った。紅茶を飲んで景色を眺めながら、客を見回した。しかしそれらしき家族は見当たらなかった。
「隣の車両に行きましょう」
「はい」
私たちは六号車の食堂車に来た。わずか数人が飲食しているだけだった。その中に探している家族はいなかった。
私たちは最後尾の展望車へ行った。
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