第2話senseセンシス 47.ある光 48.帰郷
強い光が道を塞ぐ。
これは弥生ゆりという女子短大生の話だ。
彼女はライブ会場のモギリ(チケット窓口)のバイトを急遽頼まれ、一日、椅子に座っているだけでいいという条件で渋々受けたが、……それがまあ普通に忙しかった。
バイト初日を終え、ライブ二日目「ブラッド&グリーン」にてあの騒動が起きた。
蓋を開けてみれば観客を丸ごと拉致するイベントだった。
陰謀の発覚と共にすぐさま、彼らは制圧された。
弥生ゆりはその後も一人船の中に取り残された。
気まぐれなスピは弥生ゆりを気に掛けていたようだが…
スピの記憶からも消え、彼女は船の積荷と共に蝶国へ、船は海を渡った。
迷い猫のサリー、弥生ゆりが勝手に名付けた仔猫が彼女の話し相手、でもどこからか仔猫は食べ物を運んで来る。
まあ!なんて出来た仔猫なんでしょ?
そっか、きっと前にも誰か、私と同じような経験をしているんだわ。
だからね。
と、アッケラカンとその状況を微笑ましく思って笑顔で見ていた。
だけどその内、弥生ゆりは「あれ」と思った。
この船は多分、貨物船、どうやらこの箱物自体が積荷…のようね。
でも不思議な構造だわ。
手を当てる。
箱は上下の二層になっていて真ん中に人一人入れる穴がある。
ロンという人がこの穴から勇ましく現れたもんだから、私は逃げ出したんだ。
などと遠くを見てふと、納得する弥生ゆり。
下層はどうかと細かな区分けが出来ていてちょっとした迷路になっていた。
それもあり、また下層部の10数名は灯りがないこともあって、あまり大きな動きはしなかった。
だから少し早く下層部の大体の者が救助された。
……このときの弥生ゆりの背中に激震が走った。
それは彼女が強く眩い光を感じたからだ。
このときともう一度、不自然に訳分からず走り出す。
もちろん灯りなどない、ただ感覚的に光を避けるように走った。
大凡、三日間程度の船旅。
終着地で二度目の光ーー。
ほんの少しの間、閉ざされた空間の中にいた。ただそれだけ。
紆余曲折を経て、外の空気に触れ、安堵の中、また、あれがフラッシュバックする(やって来る)。
あの入り組んだ構造が脳に焼き付いてしまったようね。
「さぁどうしましょ?サリー」
足下で、
「にゃ~」
と、ないてそろそろと迷い猫は例の隙間を通り抜けていく。
「遅くなってごめーん」
巨大なドアを掴み両手でしっかり握って開けるとそこは蛻の殻だった。
誰もいない。
またかという気持ちにさせられる。
ノーマークこと、ビルギッタ・エレーンはまた悲嘆に暮れる。
親族は皆、中流から上流家庭に位置していて外では上品さを売りにしているが実際はどこまでも自由気ままな暮らしぶりだ。
幼い頃、腕白だった従兄弟やハトコとは近所ですれ違うが決して仲良くなろうとは思わない。
でも、今日のように実家の庭でバーベキューともなれば話は別だ。
連絡を怠ったのはどうせ、母だ。
まだ、あのことを根に持っている。
でも、今はそれでいい。
どうもジオのことが気掛かりでならない。
いい加減な母とは違い、ジオが定期の連絡を怠ることはない。
あれだけ深い因縁のある中でできた友人よ。
きっと何かあったんだわ。
前掛けを外し母とすれ違い、ぶつけたい文句もスルーする。
「まあ、あのコったら」
電話で長話をする母。
「全然、人の話を聞かないの。そう…んん…あたしたちも似たもの同士かしら」
電話が切れ、支度をする娘に、
「あなたがいらないって言ったのよ」
「何のこと?」
「何のことって、今日のことよ」
ビルギッタは黙り込む。
「今度は?」
「また、旅に出るの?」
「それで?」
母が一方的に問い詰める。
「3ヶ月。その先は判らない」
「手紙はいいわよ。あなたが書いてるのよね」
母は私を見送った。
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