senseセンシス2

韻稚気者(インチキモノ)

第1話senseセンシス45.Room 46.夢の中で

ジオは仲間をそれぞれ自国へと連れて返した。

スピはまだ旅をしたがっていたが、ロンの国が見えるアジア圏に近くなる前に別れた。

まだ何処かの国を訪ねるようだ。


最後にロンの国を訪ねたが宗教弾圧、人種差別が公の場でも横行していた。

非常にセンシティブなジオにとってとても辛い時間だった。

ロンは柄にもなく、ジオに、

「ありがとう」

と、言って陽気な笑顔を見せた。

ありえない。

ジオは直感する。

無理しているのは分かっていたがロンは頑なで強引だった。

「元気でいて」

ジオはその強引さに押され、妙な別れを告げさせられた。

これで良かったのだろうか?

良いはずはない。

ジオの心は大きく揺れた。

その揺れる気持ちのせいでジオの行く手を何者かが阻んだ。


ロン(龍)という名前はこの蝶国で外国人が暮らすための両親の知恵だった。

ロンは子供の頃からこの名前、ロン・チュンリー(龍 春麗)という名前がずっと嫌いだった。

それほどこの蝶国は(原住民を含め)外国人(複雑)にとって冷徹で冷酷な国だと聞かされていた。

「いいね? 今日からあなたは、サビーナ・トカエフからロン・チュンリーよ」

母から何度もそう言われたが、内心、

本当の名前はサビーナ・トカエフ。

これは決して譲れない。

しかしこの国ではこの名前では名乗れない。

母の言う通りにしろと?


父はいつも無口だった。


ロンの荒々しい性格は同胞の差別や弾圧にも屈することはなかった。

だから毎日戦った。

だがやがてロンも収監され、それでも抵抗する収監先の刑務官はロンに強制的不妊手術を通告する。

この事態に恐れ戦きロンはこの汚らしい国を飛び出した。

でもロンのためにロンの身代わりとして両親はとても過酷な生活を強いられていた。

ジオとの別れは悪夢のような生活を迎える戦いの始まり、そして両親への償い。

私一人の力でこの蝶国を変えることは出来ない。

だからこれ以上両親を苦しめることはしない。


ジオ、あなたとの出逢いはこの国を一歩出た瞬間、追われる身となった私を運良く拉致してくれたことがきっかけね。

変な縁だけど恨んだことは一度も無い。

あのときのありがとうは私の本心よ。

私はあの独房(ルーム)に戻る。

どんな罰も受けるけど負けない。

みんな、楽しかった。

タワーもタップもスピもノーマーク、ジオあなたもね。

独房のドアがガチャンと閉まる。

だが明らかにそこにいたのはロンではなかった。




「ジョージア・ジオ・レイン、かなりの大物が網に引っ掛かってくれた」

(長身で手足も長いが)骨が浮き出る程ガリガリの全身無毛の刑務官が対称的な同僚に話し掛ける。

「ということは、だ。いるぞ。あの連中」

この同僚は蓄えた顎髭が異常にむさ苦しい。

ジオは眠っていた。

だがこの男たちの話は聞こえていた。

夢の中でジオは整理していた。

先ずこの収監先の状況…

次にこの国の情報、周辺地図…

最後にこの刑務官の動きは見るまでもない。

鍵を奪うことは容易い。

しかし、まだジオの眠りは深い。

何度か起きるタイミングの時も完全に睡魔に襲われている。

夢の中で自分の陥った新しい状況を確認する。

あの刑務官、いや、医師か?


ジオには何故だかしっかり見えている。

ジオに隠された力は単純な力ではない。

そしてこれは無防備な眠りでは決してない。

そう、まもなく医師は役人と見られる男たちに呼び付けられてジオの手術は未遂に終わる。

ジオは予知している。


だが、

「ジオには効かない」

この情報を知る者が現れる。

ジオはその事態に警戒し、皮膚にメスも通せない程、体を硬直させていた。

「見ているだろ?」

さっと腰から黒い何かが見える。

紙袋に、その中から要所を順に、実に丁寧に、

ズドン。ズドン。ズドン。

強く叩くように計3回発射、体を貫いた。

役人と思しき男。

「いくら何でも死んでいる。だがこれがジョージア・ジオ・レインの恐ろしいところだ」

ジオはゆっくり目を覚まし……、起き上がる……。そして……。

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