298話 十傑の襲撃(5)
《ウェイン視点》
「随分と親切なんだな」
静かに様子を伺っていた《混沌の悪魔》ルノワールに対して、獣神化している魔王ウェインはそう呼びかける。
「んっ? いったい、何のことかな」
首を傾げて尋ねるルノワール。
彼はウェインの質問をわかっていながらトボケるようにそうつぶやく。
「どうしてあのガキをやすやすと見逃した? オマエほどの実力があれば、オレたち三人を相手にすることも、あの二人を食い止めることもできたはずだ。ルノワール、何を企んでいるんだ?」
アベルを送り出す際に、一人でルノワールと戦えると豪語していたウェイン。
しかし、実際にはそんなことはないとウェイン自身も理解している。
それに十傑の悪魔が狙っているのはおそらくアベルという存在で間違いないはずである。
ユリウスのウェインの命を狙う理由など考えられないからだ。
だからこそ、ウェインはルノワールの行動が理解できなかった。
本来ターゲットであるはずのアベルが逃げるのを止めようとしなかったルノワール……。
彼ならば一対三であったとしても十分に戦えるだけの力はある。
それなのに、どうして大人しく様子を伺っていたのだと——。
すると、それを聞いたルノワールは静かに笑い出す。
「ふふふっ……。何を言い出すかと思ったら、そんなことか。随分と弱気なんだね、魔王ウェイン」
「そうだな〜。どうしてって聞かれたら答えはひとつかな。それがあのお方の御意向だからだよ……」
何かを企んでいるかのような含みのある笑みを見せる。
「あのお方だと……? どういうことだ!」
「ふふっ……。つまり、あの少年には僕よりもこわーい人が相手してくれるってことだよ。それこそ、この世界で一番おっかない人がね……」
アベルを見逃したのは、自分より上の存在が狙っているからだと語るルノワール。
「ほぉ……。それがホントなら、さっさとオマエを倒してアベルを助けにいかなきゃだな」
「魔王序列が2桁の君に僕が倒せるの? それは見ものだね。いいよ、本気で相手をしてあげるよ」
《混沌の悪魔》ルノワールの魔力がさらに上昇していく。
そのあまりにおぞまい魔力量に、ウェインも思わず武者振るいをしてしまうのであった。
「嘘だろ……。十傑の悪魔っていうのはこれほどまでの存在なのかよ……」
ウェインは目の前にいる悪魔に圧倒されてしまうのであった。
◇◇◇
《アイシス視点》
《煉獄の悪魔》フェリクスは焔を宿した大剣で漆黒の悪魔アイシスを攻め立てる。
「先ほど、舐めるなと話していたがその程度なのか……アイシス?」
豪快に大剣を振るうフェリクスの猛攻を前に、アイシスは必死に魔剣で攻撃を防ぐような防戦一方であった。
「ラズとリズ、それにあのシエラにも打ち勝ったそうじゃないか。それなのに、どうしてこんなに不甲斐ない姿を晒しているんだ」
フェリクスの放つ重い一撃にアイシスは吹き飛ばされてしまう。
ドォォォォーーーーン!!!!
「ぐっ……」
アイシスはその魔力量でも剣技でも十傑の悪魔フェリクスには敵わない。
助けが来るのも望めない状況にある。
彼女は自分自身で何とかするしかないのであった……。
そして、彼女は再び自らの生命力を消費して戦う道を選ぶ。
「
アイシスが魔法を発動すると、彼女は深い闇に覆われる。
「……」
そんな彼女の変貌をフェリクスは静かに見つめているのであった……。
アイシスの
それに平時よりも魔力量が上昇して攻撃魔法の威力も格段に上がる。
そんな切り札を武器に彼女は再びフェリクスに挑むのであった。
しかし、威力上昇したアイシスの
「防御突破の固有魔法か……。久しぶりに見せてもらったな。だが、まだ本調子でないと見える」
「悪いがアイシス、今のお前は俺の相手ではない。その理想と共に、ここで朽ち果てるのだな」
十傑の悪魔フェリクスの大剣がアイシスに狙いをさだめられる。
アイシス最大の切り札もフェリクスには通用しない……。
彼女は絶体絶命の危機に陥ってしまうのであった。
◇◇◇
《魔王ヴェルデバランの魔王国にて》
《天雷の悪魔》ユリウスの配下たちが、魔王ヴェルデバランの魔王国へと攻め込んでくる。
彼の魔王国の国民たちはそのほとんどが劣等種である。
つまり、この魔王国の民たちはユリウスの配下である上位悪魔たちに自らの力で対抗などできない。
そこで、『四皇』と呼ばれる魔王ヴェルデバランの配下のうちの二人が上位悪魔たちの侵攻を何とか防いでいるという状況にあった……。
「おい、デュオ! そっちの部隊はどうなってる!?」
ヴァンパイアの魔王レオンハルトが上位悪魔たちを退けながらそう相棒に呼びかける。
「とりあえず、侵入経路は塞ぐことに成功したようだ。だが、現在確認されているところ以外からも悪魔たちの侵入はあるかもしれない……」
「決して油断はできない状況なのは確かだ。レオンハルト、お前の方はどうだ?」
竜人の魔王であるデュオもまた、目の前にいる上位悪魔たちを倒しながら、配下たちから受けた報告を相棒へと告げる。
「城下町でかなりの上位悪魔が暴れるらしいからな。アイツらも頑張ってくれているようだが、優勢というわけではない。どうしても、民を護りながら戦うのは無理がある……」
四皇である二人の魔王は念話を使いながら、それぞれの配下たちに指示を出しているのであった。
すると、そんな二人の前に声をかける者が現れる——。
「どうかな? 僕たちのもてなし、楽しんでくれるかい」
彼らの前には、眼鏡をかけた茶髪の男と静かに立ち尽くす漆黒の瞳と髪を持つ男が現れるのであった。
「お前たちは……」
ただ者ならぬ気配を出す二人を見て、レオンハルトは思わず言葉を漏らす。
そして、彼は記憶を呼び覚まし二人が何者であるのかを理解するのであった……。
「魔王レオンハルト、それに魔王デュオ。うん、僕たちの相手としては不足はないね。それじゃ、やっちゃおうか。カスティーオ」
「あぁ……。任せてくれ」
ノリが軽い男と寡黙な男は二人の魔王を前にそう言葉を交わす。
「なんだと……。これはてめぇらの仕業だって言うのか……」
彼らの言葉を聞き、怒りに震えるヴァンパイアの魔王レオンハルト。
その魔力はグングンと上昇していく。
「うん、でもね。もうすぐ魔界中がこうなるだよ。だから、魔王レオンハルト……。これが終わったら君の国家に乗り込んで同じようにしてあげるよ……」
十傑の悪魔クロムの瞳にレオンハルトの姿が映り込む。
彼はターゲットであるレオンハルトをはっきりと捉えているのであった。
そして、もう一人の十傑の悪魔カスティーオもまたデュオを捉える。
こうして、十傑 vs 四皇の魔界の未来を賭けた戦いがはじまるのであった。
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