299話 ユリウス vs カシアス
一面に広がる荒野は二人の悪魔による戦闘が繰り広げられると同時に荒れていく。
大地は割れ、空には暗雲が立ち込め、風が吹き荒れる。
それほどまでに、最上位悪魔と称される二人の悪魔の戦いは激しいのであった——。
しかし、その戦闘が激しいからといって戦況が互角であるわけではない。
魔王序列第1
魔界最強の魔王である彼の前に、カシアスは為す術もなく、押される一方であったのだ。
ユリウスの周囲には無数の光の球体が浮かび上がる。
それらは一つひとつが張ちきれんばかりの電気を帯電しており、それに
そんな光の球体からは、目にも止まらぬ速さで高魔力を含んだ電撃がカシアスに向けて放たれる。
それも一つや二つではなく、無数に浮かび上がる光の球体すべてからである。
一瞬にしてカシアスがいる周囲は無数の電撃砲を受けて、大地が吹き飛ぶ。
カシアスは転移魔法を発動してユリウスの攻撃を躱すことに成功するが、彼の攻撃はこれで終わるということはない。
ユリウスの周囲に浮かぶ光の球体はクールタイムなど必要ないかのように、次々と電撃を放ち続ける。
それこそ、カシアスを仕留めるまで止まることのないプログラムが仕組まれているかのように、転移し続けるカシアスを狙って無数の電撃が放たれているのであった——。
このようなユリウスの猛攻を受けてはカシアスも攻撃には移れない。
転移魔法と、躱しきれない電撃を防ぐための防御魔法を使用するので精一杯であるのだった。
一度、カシアスも攻撃魔法を放とうと氷塊を宙に浮かべた。
そして、魔力を込めてユリウスに向けて解き放とうとした瞬間、ユリウスが謎の風属性魔法を使って突風を巻き起こしたかと思うと、カシアスが魔力を込めた氷塊からは魔力が拡散して地面へと落下してしまった。
ユリウスはカシアスの攻撃魔法を完全に無効化してしまうのであった——。
だが、カシアスも決して攻撃することを諦めたわけではない。
魔法が無力化されてしまうのであれば、魔法以外で攻めればよいのだ。
カシアスはユリウスの攻撃から逃げるしかないという動きをしながら転移を繰り返し、少しずつ彼との距離を近づけるのであった。
そして、遂にユリウスの目の前に転移することに成功する。
それも、魔王である彼の膨大な魔力を含んだ漆黒の魔剣をその手に持ってだ——。
「これで終わりです!!」
カシアスはそう叫びながらユリウスに向けて魔剣を振るう。
ユリウスは全く反応できず、防御魔法を発動することはおろか、一歩も動くことができなかった。
カシアスほどの実力を持った者がその魔力を込めて魔剣で振り抜く。
その攻撃を受けてしまえば、魔王とはいえユリウスもひとたまりもないだろう。
誰もがそう思うはずだ。
しかし——。
「なっ……!?」
カシアスは目の前に広がるとても信じられない光景を見て、思わず声を漏らしてしまう。
なんと、カシアスが放った一撃はユリウスの胸を切りつけはするのだが、彼の肉体に傷一つたりともつけることができないのであった——。
ユリウスの胸を直撃した魔剣からは魔力が拡散して逃げていく。
まるで、魔剣そのものがユリウスを傷つけまいとしているかのように——。
カシアスはさらに魔力を込めはするのだが結果が変わることはなかった。
相変わらず、ユリウスに触れている彼の魔剣の切先からは魔力が拡散して逃げていってしまう。
魔法だけでなく、魔剣さえもユリウスの前には無力化されてしまうのであった——。
そして、ユリウスの反撃がはじまる。
——といっても、彼は指先から軽く電撃を放つだけであった。
至近距離であること、そして目の前で起きている事態に戸惑ってしまっているカシアスは反応ができずに、彼の攻撃魔法を直接受けて吹き飛ばされてしまう。
そして、そんな地面に横たわるカシアスを見下ろして、ユリウスは冷めた表情で語るのであった。
「何も成長していないではないか……。その程度の実力で俺を倒せるとでも思っていたのか?」
あきれた表情で失望するかのようにユリウスはそう告げる。
期待はずれもいいところだ。
そんな彼の心の声がカシアスには聴こえるのであった。
そして、カシアスはゆっくりと起き上がるなり、どうして自分の攻撃が無力化されてしまっているのか、その仮説を組み立てる。
「ユリウス……。どうやら、私の魔力では貴方を傷つけることができないようですね」
カシアスのこの言葉に、ユリウスは少し驚いた様子を見せる。
「ふっ……流石に三回も直接戦えば気づくか——。そうだとも、お前の魔力が俺を傷つけることは絶対にない。つまり、お前には
高らかにそう宣言するユリウス。
カシアスの考えは正しいものだと彼は認めるのであった。
そして、その上で彼は自らの絶対勝利を宣言する。
「これは貴方が私の魔力を持っているということですよね……。貴方が私を弟と呼ぶことと、貴方が私の魔力を持つ理由——。何か関係があるのでしょうね……」
カシアスはボロボロになりながら起き上がると、ユリウスを真っ直ぐと見つめてそうつぶやく。
この魔界においても、実は『魔力』という存在について解明されていないことは多い。
『魔力』という存在そのものに迫る研究とは困難を極めるからだ。
しかし、そんな『魔力』についてだが、既にこれは正しいはずであると語られている学説が存在している。
そのうちの一つが、『魔力』にはそれ自体が意思を持っているというものである——。
そして、『魔力』が意思を持っているからこそ、その『魔力』を用いて発動された攻撃魔法などは術者を傷つけないと考えられているのであった。
カシアスの攻撃魔法や彼の魔力を使った一撃がユリウスに完全に無料化されるということは、カシアスが持つ魔力は意思を持って、ユリウスのこともまた術者の主体と認識しているということ。
つまり、ユリウスがカシアスの魔力を持っているという仮説が成り立つのであった。
そして、それを聞いたユリウスはゆっくりと頷いて彼に真実を告げる。
「そうだとも……弟よ。忌々しいことに、この肉体の半分はお前の魔力で出来ているのだ」
ユリウスは何か忌々しい過去を思い出したのように顔をしかめてカシアスをジッと見つめる。
「そうですか……。私の前世と貴方の間に何があったのかはわかりませんが、貴方が私の魔力を持っているというのは非常に困りますね」
カシアスが自分の出生から現在までの間に、ユリウスへと魔力を授けたということはない。
そもそも、精霊体から精霊体への魔力の譲渡などできるはずもない。
つまり、カシアスが転生する前——。
彼は前世でユリウスと何か因縁があり、ユリウスに何らかの方法で魔力を奪われたということになるのだ。
しかし、カシアスはそんな過去になど興味は示さない。
重要なのは、今どうやってユリウスを殺すかということだけであった。
そして、彼は最後の切り札を出すことにする。
「なるべく使いたくないと思っていたのですが、
そうして、カシアスは先日ハワードから奪い取った下界では《霊体殺し》とも呼ばれる《聖剣ヴァルアレフ》を取り出すのであった。
「流石の貴方も、
《聖剣ヴァルアレフ》を目にしたユリウスの顔が歪む。
いくらカシアスの魔力は無効化できるといっても、精霊体の魔力を分解してしまう聖剣の前にはユリウスといえ対抗できるわけではない。
こうして、最上位悪魔同士による戦闘の第二ラウンドが幕を開けようとするのであった——。
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