277話 最高のパートナー(2)
「わたしは決めたからよ。
サラは迷いのない瞳でもってそう答える。
それは彼女の強い意思を感じるとても心強い言葉であった。
「後悔しないか……?」
おれは思わずそんな弱気な発言をしてしまう。
これまでおれは多くの人たちを傷つけてしまった。
多くの人たちを巻き込んでしまった。
サラまで悲惨な目に遭わせてしまうと考えると、おれは——。
「何よ、わたしに後悔させるつもりなの?」
そんなおれの発言に、彼女は笑いながら問いかける。
「大丈夫よ。
サラはおれに言い聞かせるように優しく答える。
「それに後悔なんてしない……。だって、わたしは好きでやってるだけなんだもん!」
「あなたはあなたが信じる理想を貫けばいい。わたしはそんなアベルについて行くよ」
彼女は強い意志を持っておれに理想のために協力してくれるという。
おれの理想——。
だが、おれにはそんなたいそうなものを追う資格なんて……。
「でも……」
やっぱり無理だ。
今回の件でそれを再認識させられた……。
おれにできることなんて限られている。
そう諦めようとしていたときだった。
サラが静かに語り出す。
「かつて、この世界を救った七英雄ニーアは言った。本当はたったひとりの少女の笑顔を取り戻したかっただけなんだと——」
「そして、そのためには彼女ひとりを救うだけじゃなく、彼女が笑って過ごせる世界を取り戻す必要があるのだと——。だから、彼女のために自分はこの世界を救いたいのだと——」
七英雄ニーア……。
確か、ハリスさんが話していた王国の英雄だ。
そんなニーアは元々、世界なんていう大きなものではなく一人のために戦っていたとサラは語ってくれる。
そして、彼女は言うのであった——。
「アベルの理想って、きっとそういうことなんだと思う。少数の身近な人たちだけを護れたって、その人たちが悲しんじゃう世界じゃ意味がないんだよね。だからみんなで幸せになれる……そんな未来を創りたいんだよね」
サラの言葉がスーッと胸に入ってくる。
「大丈夫だよ。その願いは絶対に理想なんかで終わらせない。アベルにはみんながついているんだもん!」
「わたしも、カシアスも、アイシスも、リノも。みんな、アベルに協力してくれるはずよ!」
サラがおれを鼓舞してくれる。
自分を含め、おれにはみんなが付いてくれていると。
そして、この夢はけっして夢なんかで終わらせないと。
だが、本当にカシアスたちがおれを裏切っていなかったとして、そんな彼らの温かさにおれは……。
「でもおれ、みんなに隠してることがあるんだ。おれは……本当はみんなを騙していて……」
おれは罪悪感からうつむいて懺悔をする。
カシアスたちがおれを魔王の転生者だと思って協力してくれているのだとしたら、おれはそんな彼らを騙して裏切っていることに……。
「だから、こんなおれに協力してもらうなんて……。そんなの……」
彼女はおれの言葉を聞きながら、ゆっくりと首を横に振る。
そして、この発言に対しても彼女は一切おれを否定することはなかった。
「大丈夫……。だって、それはみんな同じだもん。カシアスやアイシスだって、アベルに隠してることはある。それはあなただって気づいてるでしょ……?」
サラはおれにそう告げた。
カシアスたちは何かを隠している——。
どうやら彼女もそのことに気づいているようであった。
「でもね、わたしだってそうなんだよ。アベルに隠していることなんてたくさんあるんだから」
「人には言えないことや言いたくないこと……。そんなのだれにだってあるものなの。だから、アベルもそんなの気にしなくていいのよ」
彼女はそう言っておれの手をそっとにぎる。
その両手はとても温かく、ぬくもりを感じる。
「それに、ただ悪いと思っているだけじゃなくて、つぐなうために恩返しをしようとしてるんでしょ?」
おれはサラの発言に驚き、自然と態度に出してしまう。
そんなことまで彼女にはお見通しだったのか……。
「あなたを見ていればわかるわ。ほんと、あなたって優しい人なんだから……」
サラはそう言って、おれを優しい眼差しで見つめる。
まるで何十年も連れ添ったパートナーのような温かい瞳だ。
そして、彼女は再び問いかける。
「もう一度、聞かせてちょうだい。あなたは彼らを信じられないの……?」
おれはこれまでのことを思い出す。
カシアスが……アイシスが……リノがおれにしてきてくれたことを……。
カシアスはおれに大切な気持ちを思い出させてくれた。
何度も何度も、おれと共に戦ってくれた。
今回なんて、自分の命が危険にさらされているにも関わらずだ。
最初は怖かったけど、いつからか安心できる相棒としておれの側にいてくれたんだ。
アイシスだってそうだ。
おれと4年間も一緒に過ごして、たくさんのことを教えてもらって、育ててもらった。
迷惑もたくさんかけてきたけど、それでも彼女はおれを見捨てずに、今日まで一緒にいてくれた。
リノだって、おれのわがままでサラを護衛をしてくれて、おれが傷ついた時は命を救ってくれて、それで……。
そして、おれの中で結論は出た——。
彼らの表情をみればわかる。
彼らと接しているときの態度をみればわかる。
あれは、おれを利用しようと……騙そうとしているものじゃない。
それすらわからないほど、おれの眼は腐ってなんかいない!
だったら、おれがやるべきことは自ずと決まってくる……。
彼らを信じて、おれができることをしていくのみだ!
「ありがとう、サラ。おれはもう大丈夫みたいだ」
おれは彼女にそう告げる。
もうおれの中に迷いはなかった。
すると、それを聞いたサラは安堵の表情を浮かべるのであった。
「そしてこれはお願いだ。これからもおれに付いてきて欲しい! おれにはサラの支えが必要なんだ」
おれは改まってサラにお願いをする。
これからもおれと共に戦って欲しい、支え合っていって欲しいと。
おれの中で彼女の立ち位置が大きく変化する。
ただ護りたいと思う保護の対象から、共に未来を掴むために戦うパートナーへと——。
すると、おれの言葉を聞いた彼女は優しく微笑むのであった。
「その言葉……。アベルから聞けるのをずっと待ってたわ」
こうして、おれたちの冒険は再びはじまるのであった——。
もう迷うことなんてない。
自分で信じた道を、自分が信じる仲間たちと突き進んでいくだけだ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます