276話 最高のパートナー(1)
ハワードとの決戦から一週間が経った——。
あの後、意識を失ってからおれは三日間も寝込んでしまったようだ。
目を覚ました後も一時は歩くことすらままならなかったが、今では普通に動けるほどに回復した。
それもこれも回復魔法でおれを癒してくれたハルや、寝床に食事を用意してくれたヴァルターさんのおかげである。
彼らのおかげで元気になったおれはリハビリも兼ねてギルド街をサラと散歩をすることにした。
街の方もかなり復興してきているようだ。
すれ違う人たちの笑顔がそれを物語っている。
空高くに登ったお日様におれたちは燦々と照らされて散歩を続ける。
今日は本当に絶好の散歩日和だ……。
おれたちはギルド街の住人たちが賑わう大通りを二人で歩きながら会話をする。
おれが意識を失っていた間に何があったのかというのをサラから色々教えてもらっているのだ。
まず、保護された子どもたちであったが彼らは全員が思考誘導をかけられていたらしい。
もちろん、おれたちと面識のあるティアさんも含めてだ……。
そして、どうやらカシアスたちの力を借りれば無理矢理にその思考誘導は解除できるようだ。
彼らにかけられていたのはその程度のものだったらしい。
しかし、これには不安な要素もある。
洗脳を解き、昔の記憶を取り戻すことで彼らが後悔に苛まれる可能性があるのだ。
特に、悪事に手を染めたことや忘れ去りたい苦痛を味わった子どもたちもいるだろう。
奴隷として扱われた者たちも中にはいる……。
そんな中でおれたちが勝手に判断して思考誘導を解くという行為は許されない。
今後のことはエトワールさんと話を交えてよく考えるということになったそうだ。
そして、ラースさんたちに関する話もサラから聞いた。
おれと共に意識を失っていたラースさんたちであったが、おれよりも先に意識を取り戻したらしい。
リンクスさんとパトリオットさんは二日、ラースさんに関しては半日で目を覚ましたようだ。
そして、彼らは既に元気に回復もしているそうだ。
それについては大変喜ばしいことだそうだ。
しかし、ハルやヴァルターさんの話ではラースさんはかなり強い悪魔に思考支配を受けていたらしい。
それこそ、子どもたちにかけられていたものとはレベルが違う、カシアスたちでも解くことのできないものであったそうだ。
おれはこの話を聞いて思った。
《天雷の悪魔》ユリウス——。
あいつがラースさんを操っていたのではないかと。
ユリウスはおれに試練を与えるなどと言って、様々なことをしてきた。
その中にはおれが手を引きたくなるようなこともあった……。
そしてやつは躊躇なくその
ユリウスならばラースさんに思考支配をしかねない、そう思うであった。
だが、これについては不思議なことが起きていたらしい……。
ハワードを倒した後に子どもたちを保護したわけだが彼らの思考誘導はかけられたままであった。
それに対して、ラースさんにかけられていた思考支配は彼女が目を覚ましたときには完全に解かれていたというのだ。
そして、ラースさんは当時の事を鮮明に覚えているらしい。
何者かに意識を操られてヴァルターさんに剣を向けたことを……。
それから、絶えず脳内に女の声で呼びかけられていたと話してくれたそうだ。
ハルやカシアスはこれに対していまだ強く疑っていたようだ。
実はラースさんの思考支配は解除されているのではなく、そう見せかけておれたちを騙しているのではないかと——。
しかし、彼女を一番よく知るヴァルターさんがそれを否定した。
今の彼女は通常の思考を取り戻していると、自分は彼女を信じると宣言したのだ。
そのことによりラースさんは拘束の身を解除され、監視のみで対応されることとなったそうだ。
信じるか……。
おれはどうしたらいいんだ?
カシアスたちを信じてもいいのだろうか……。
そして、遂におれは本心をサラに切り出すのであった。
◇◇◇
おれは覚悟を決め、サラに話を切り出した。
「なぁ……。カシアスたちを信じていいのかな……」
これまで話を聞く一方であったおれからの唐突な問い。
おれの言葉を受けてサラが立ち止まる。
そして、彼女は無言でおれを見つめてくるのであった……。
この発言は冗談ではなく、真剣なものなのかと判断しているようでもあった。
そして彼女は口にする。
「あなたは……彼らを信じられなくなったの?」
おれの言葉を否定するわけでも、肯定するわけでもない質問。
だが、サラの言葉はとても重いものであった。
『信じる』という言葉にはそれだけの重みがある。
改めてそう実感した瞬間だった……。
「わからないんだ……自分でもよく……」
おれは素直な感想を口にする。
カシアスたちはおれに何かを隠している。
それは紛れもない事実だ。
おれが不完全な魂を持つ者——《ハーフピース》であることだって、彼らは4年間も黙っていた。
それにカシアスもアイシスも今のおれには話せないと言って教えてくれない事実は山ほどある。
魔王ユリウスも言っていた。
あいつらがお前を利用していると考えたことはないのかと……。
考えたことがあるに決まっている。
だって、どうしておれなんだよ……。
何の取り柄もないただの劣等種のおれに、どうして魔王ヴェルデバランの姿を重ねることができるんだよ……。
カシアスとリノは仕事ができたとかいって魔界へ一時的に帰ってしまっている。
もちろん、彼らが何をしているのかおれは知るよしもない。
おれはこの一週間、悩みに悩んで自暴自棄のようになってしまっていた。
そして、彼女に尋ねる。
「そういえば、どうしてサラはおれにここまでしてくれるんだ……?」
思い起こせばカシアスたちだけではない。
サラだってそうだ——。
こんなおれにずっと付いてきてくれる。
そんな彼女の行動に対して、なぜなんだと理由を求めてしまう。
するとサラは迷いのない瞳でもって答えるのであった。
「わたしは決めたからよ。
それは彼女の強い意思を感じるとても心強い言葉であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます