259話 セアラの覚悟

  「ハァァァァァァアア!!!!」



  私は二人向けて剣の矛先を向ける。

  そして、魔力を込めた一撃を繰り出すのであった。


  だが、そんな渾身の一撃をパパはあっさりと片手剣一本で受けとめる。

  それに、まるで力を込めていないかのような涼しい顔で余裕綽々よゆうしゃくしゃくとしていた。


  「セアラ、どうして僕たちにそんなものを向けるんだい?」


  「そうよ……。サラちゃん、あなたはそんな悪い子じゃなかったはずよ……」


  彼らはパパとママと声を使って私の心を揺さぶってくる。


  そんな見えすいた単純な罠だが、わたしは無意識のうちに剣を握る力を緩めてしまう。

  そして、パパはその片手剣でわたしに向かって攻撃をしてくるのであった。


  「大丈夫かい、セアラ? 君の本当の実力はこんなものじゃなかったと思うんだけど……」


  「そうよ、もしかして本当は私たちと戦いたくないんじゃないの? だとしたら、いいのよ。もう無理をしなくっても……」


  わたしは片手剣から繰り出される素早い攻撃を必死に受け流す。

  そして、なるべく彼らの言葉を聞かないようにと意識していた。


  それでも……。



  「うるさい! うるさい! うるさぁぁぁあい!!!!」



  わたしは二人の言葉をかき消そうと大声で叫ぶ。

  そうしないと、自分の心が負けてしまいそうになるから……。



  二人の声を四年ぶりに聴いた。

  もう二度と聴くことのできないパパとママの温かい声……。


  でも、あれは本当のパパとママじゃない。

  二人の魂はここにない……。

  あれは二人の皮を被った偽者なんだ……。



  「だまれ偽者!! 二人の身体を返せぇぇぇぇ!!!!」



  わたしは特大の火属性魔法——『火炎砲ファイヤーキャノン』を放つ。

  紅蓮の炎が螺旋状に渦を巻きながら二人を呑み込む。


  だが、すぐにママの姿をした奴が水属性の防御魔法を張り攻撃を無力化する。

  そして、紅蓮の炎のなかから無傷の二人が姿を現すのであった。


  「あら、セアラちゃん酷いことをするのね〜。ママをまた焼き殺そうとしたの……?」


  「ちがう! お前はママなんじゃない!!」


  わたしは彼女の言葉を強く否定する。


  「セアラ、母さんに向かってそれはいけないよ……。そんないけない子にはお仕置きをしないとね……」


  パパの姿をした奴と、ママの姿をした奴の様子が変貌する。

  そして、動きが急に加速してわたしに襲いかかってくるのであった。


  「セアラ……。今ラクにしてあげるよ。僕たちのもとにおいで」


  「また、一緒に暮らしましょう。これからは、ずっと……ず〜っとね」


  明らかに人間の可動域を超えた動きで二人は果敢に攻めてくる。

  わたしはそれを防御魔法で受けとめるのが精一杯だ。


  だけど、今のでハッキリと決心がついた。

  本物のパパとママなら、こんなことは言わない!


  きっと、こういうはずだ。


  「こっちには来ちゃダメだ」


  「これからも、アベルと仲良く暮らしなさいね」


  ——って……。


  わたしの中に強い気持ちが宿る。

  そして、一つの言葉が脳裏を過ぎるのであった。



  『強く生きろ。そんでもって、笑って死のうぜ……』



  強く生きる……。

  わたしは、二人の分も精一杯生きていくよ!!



  本当はアベルたちと静かに暮らしていたいけど、ちょっと今はそんな生活するのは難しそうなんだ……。

  だから、すべてが終わるまでわたしは彼のために戦う!



  そんな日々のなかで、強く生き続けるよ!!



  パパ、ママ……聴こえているかな?


  わたしを産んでくれてありがとう……。

  家族として愛してくれてありがとう……。


  この人生で、二人に出会えてよかった。

  また生まれ変わったら絶対家族になろうね……。



  わたしは全ての魔力を解放して最大の魔法を発動する。

  この身体中を覆うように蒼く透き通った水が現れる。

  そして、それらはわたしの周りを回転するような流れを創り出し、その流水はわたしを護るように龍の姿へと変化する。


  これは《水龍の巫女》とも呼ばれた七英雄の一人、賢者ララがかつて使っていた究極奥義だ。

  この魔法ならわたしは絶対に負けない!!



  そして、迫り来る二人の身体をわたしの水龍たちが次々に呑み込んでいく。


  「なぜだ!? 助けてくれぇ!!」


  「やめてぇぇぇぇ!!」


  彼らはパパとママの声を使って助けを求めてくる。

  だけど、そんな手はもうわたしには通用しない。



  今のわたしには明確な戦う理由があって、そのための覚悟がしっかりとついたのだから!!



  こうして、わたしは悪魔たちの策略に屈することなく、この試練を乗り切ったのであった……。




  ◇◇◇




  「セアラ様、ご無事でしたか……?」


  戦いが終わると私のもとに白銀の姿をしたアイシスがやってくる。


  「えぇ……。それより、貴女の方こそ大丈夫だったの?」


  私の方は相手が二人だけだったけど、アイシスは大量に召喚された雷獣にゴーレム、そして上位悪魔二体を相手にしていた。

  彼女の姿を見るなり、私は心配して声をかける。


  「はい……。あの者たちを逃がしてしまいましたが、私は何とか生きています」


  「そう、それならよかったわ」


  私は彼女の無事を確認してひと安心する。


  「それより……これを見てどう思う?」


  「これは……!?」


  私はドロドロに溶けた鉛色の液体を彼女に見せる。

  これは先ほどの戦いが終わった後、パパとママの遺体が残っていないかと思って二人の死に場所に近づいたときに見つけたものだ。


  そこには二人の遺骨や遺品は何一つ残っておらず、このドロドロの液体だけが残されていたのであった……。


  「実は、戦闘の最中にセアラ様のことも気にかけておりました……。そこには死霊術で操られていると思われるセアラ様のご両親がいたことも確認しておりました……」


  彼女はあの激化した戦場の中でも私のことを気にかけていたと話す。


  「しかし、これは死霊術ではなくもっと別の……それも遥かに高度な魔法によるものだと思われます……」


  「えっ……? それって、どういうことなの……?」


  アイシスは大変言いづらそうな表情で私に語りかける。


  「セアラ様、以前お伺いしたときには答えていただけませんでしたが、もう一度だけ質問させてください……」


  そして、アイシスは真剣なまなざしで私に問いかけるのであった。



  「あの時……。《夢幻の悪魔》ユリアンに拐われた時に、セアラ様の身にいったい何があったのですか……?」

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