258話 仕組まれた再会

  悪魔たちが創り出した結界によって、わたしはアイシスと分断されてしまう。

  そして、目の前で傷ついていくアイシスを見ていることしかできなかった。



  また、わたしは他人に護ってもらってばかり……。

  わたしが無力なばかりに、大切な人が傷ついていく……。



  わたしのなかにあの頃のトラウマが強く甦える。


  「あら……。この程度で絶望しないで欲しいのだけれど」


  「そうよ、ハーフピースの子猫ちゃん。あなたにはとっておきのプレゼントがあるって言ったでしょ」


  悪魔たちの笑い声が聞こえてくる。

  それから、わたしは背後に何かが召喚されるのを感じた。


  嫌な予感がする……。


  そして、後ろを振り返ったわたしはその光景に絶望する。

  そこには、四年間一日たりとも忘れたことのなかった最愛の二人がわたしにほほ笑みかけて立っているのであった——。



  「大きくなったね……セアラ」



  やめて……。

  その声でわたしの名前を呼ばないで……。



  「とっても可愛らしく成長しちゃって……ママもうれしいわ」



  ちがう……。

  その姿でわたしを見つめないで……。



  わたしの目の前には、四年前に魔族に殺された両親があの頃と変わらぬ姿で立ち尽くしているのであった。

  そして、二人はあの頃と変わらぬ優しい笑顔でわたしに呼びかける。



  「どうしたんだい……? そんな驚いた顔をしちゃって、父さんの顔を忘れたちゃったのかい?」



  「まぁ、無理もないわね。しばらくの間、会えなかったんですもの。でも、これからはずっと一緒にいられるのよ!」



  間違いない……。

  これは幻覚でも幻影でもない。

  そこには、確かにパパとママの姿をした二人がいる。


  だけど、そんなはずはない……。

  だって、二人はあの日に……。



  「どうして……やめてよ……」



  わたしは涙を堪えながら、必死に訴える。



  「二人はもう死んじゃったの……! わたしが無力だったから、助けられなかったの……!」



  「その姿で……! その声で……! わたしの前に現れないでよ!!」



  瞳から涙がこぼれ落ちる。


  二人のことは、あの日から一日たりとも忘れたことはなかった。

  毎日毎日、あの温かった日常を失ってしまったことを後悔した。

  自分が無力で何もできなかったことを恨んで強くなろうと決意した。


  あれから四年前……。

  リノやアベルたちに支えられて、前に進もうと決意をしても、心の奥にある棘は消えなかった。



  ここに転移させられたときから薄々感じてはいた。

  この場所は、あの日に魔族と交戦したあの場所を示唆しているのだと……。

  あの日、二人が亡くなったあの夜の森を再現してわたしを苦しめようとしているのだと……。


  そんなわたしに対して、二人は甘い言葉をかけてくる。



  「もう……苦しまなくていいんだよ、セアラ。セアラはもう十分がんばったじゃないか。これからは、父さんたちと一緒にいよう」



  「そうよ、もう苦しむあなたの姿は見たくないわ。また、ベルちゃんと四人で暮らしましょう。パパもママもずっとさみしかったのよ……」



  わたしの心がこの甘い誘惑に惑わされそうになる……。

  ここにいるのが本当に生きたパパとママでいてくれたらどれだけ良いのかと。


  あの日の悪いできごとは全部夢で、これからはパパとママとアベルと、また四人で一緒に暮らせたらどれだけ幸せなのだろうと。


  だけど、そんなのは全部妄想だってわかっている……。

  二人はもう死んでいて、あそこで話しているのは、悪魔の死霊術で操られているだけのからっぽの二人なんだって悔しいけどわかってる……。



  だから、わたしは戦わなくてはいけない!



  頭ではわかっている。

  これは本当の二人の言葉じゃないんだって……。

  そこには感情なんて存在せず、作られた表情で語りかけているだけなんだって……。


  それでも、わたしの身体は反応してしまう。

  これから二人に向けて、矛先を向けなければいけないということをわたしの身体はためらってしまう。


  だけど……。

  わたしは前に進まなきゃいけないの!!



  「ごめんなさい……パパ、ママ」



  優しい笑顔でほほ笑みかける二人に向けて告げる。



  「わたし、二人の身体を傷つけることになると思う……。だけど、すぐに解放してあげるからね……」



  わたしは魔力を解放して戦闘態勢に入る。

  もう、覚悟は決めた。


  これはわたしがこの手でやらなくてはいけないことなんだ。

  アイシスやアベルを頼ってはいけない!!


  そして、今はっきりと宣言する。

  おそらく、この状況を楽しみ陰からほくそ笑んで監視している者に向けて——。



  「わたしの大切な家族の遺体を玩び、侮辱した罪は重いわよ!! 必ず後悔させてやる!!!!」



  こうして、わたしは剣を取り出して二人のもとへと駆け出した。

  この戦いを一刻もはやく終わらせるために……。

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