254話 セアラたちの戦い

  わたしたちを囲う炎の渦が天に舞い上がっていくのが視界に入る。

  山火事が起きている中心部に転移させられたのではないかとわたしは考えた。


  暗い夜空に浮かび上がる上弦の月。

  まるで高温に熱せられているようにそれは赤く輝いていた。


  だが、あの月を見る限りここは人間界ではないだろう……。

  もしくは幻影を見せられているのだろうか……。


  敵の本陣である魔界に誘い出されたのか、幻覚を見せられるほど精神を支配されているのか……。

  どちらにしても、この状況がまずいことには変わらない。

  一刻も早く、この状況を打破しなければならないだろう。


  卑しい笑みを浮かべる二人の悪魔。

  そして、彼女たちはわたしとアイシスを始末するため動き出すのであった。

 

  「さぁ、私たちの宴へようこそ!! ——といっても、楽しんで盛り上がるのは私たちなんですけどねぇ!!!!」


  二人の悪魔は召喚陣をそれぞれ発動する。

  赤と青に輝く無数の召喚陣が私の目の前には広がる。


  これはアベルが精霊を召喚するときと一緒だ。

  召喚される使い魔は一匹だけではない——。


  瞬時にそう判断したわたしとアイシスは魔法陣から距離を取る。

  アイシスがわたしを抱えて後ろに下がってくれたのだ。


  そして、赤く輝く召喚陣からは黒く艶光している守護者ゴーレムたちが——。

  青く輝く召喚陣からは白い毛先を尖らせた獣の魔物たちが姿を現した。



  「ウオォォォォーーーーン!!!!」



  獅子の姿をした魔物が甲高い雄叫びをあげる。


  純白に染まる体毛は一本一本が逆立ち、ピリピリと電気が迸る。

  一頭あたり体長2メートルはあろうかと思われるその獣が20体以上も召喚された。


  あれは『雷獣』と呼ばれる上位の魔物だ……。

  人間界には存在し得ない、魔界に生息している魔物。


  雷獣の口元からは鋭い牙が上下に二本ずつ。

  そして、四足ある足には鋭い爪がギラリと光っている。


  あれらには非常に高圧な電気が蓄えられており、直接肌に触れようものなら即死は免れないだろう……。


  かつて、神話の時代に魔界から召喚されたあの雷獣という魔物と七英雄たちは戦い、勝利をおさめている。

  だが、今のわたしではあの数の雷獣は倒せない……。


  おそらく、あの青髪の悪魔リズが『魔物使いモンスターマスター』のスキルを持っているのだろう。

  『魔物使い』は特定の一種類の魔物を使い魔として使役するができる非常に強力なスキルだ。


  ただでさえ、あのリズという女は上位悪魔だというのに、魔界に生息している魔物まで使役されているとなると、これは……。



  それに赤髪のラズという悪魔が召喚したあの黒く光っている守護者ゴーレムもいる。

  あのラズという悪魔は『守護者使いガーディアンマスター』のスキルを持っているのだろう。


  『守護者使い』のスキルがあれば、鉱物などを素に自分の命令に従うゴーレムという使い魔を造ることができる。

  岩や鉄くらいで造られたゴーレムならば、相手をする上で問題はない。

  だが、あのゴーレムが黒く艶光しているところを見ると、おそらく魔界にしかない特殊合金で造られた非常に強力な使い魔なのだろう。

  それが20体以上も……。



  ハワード直属の配下である上位悪魔が2体いるだけでなく、あのゴーレムと雷獣までいるとなると、わたしとアイシスだけでは戦力不足だ。

  いったい、どうしたら……。



  わたしはこの状況を見て、頭を抱えて考えこんでしまう。

  何かあいつらを倒すいい方法はないのかと。

  何か私たちを助けてくれる存在はないのかと。



  すると、アイシスはわたしの前に立つ。

  そして、わたしに向けてはっきりと告げるのであった。


  「私が一人で戦います。セアラ様はご自身の安全だけを気にかけていてください」


  そんな、無茶な……。


  「アイシス!? 貴女なに言ってるのよ! いくら貴女でも、あれを一人で倒すなんて無理よ!!」


  流石に、この発言を認めることはできない。

  だけど、あの極悪非道の悪魔たちからすればそれは見逃せない言葉だったらしい。


  「へぇ、おもしろくなってきたじゃない〜」


  「いいわね〜。それじゃ、見せて貰おうかしら。アイシスあなたの覚悟をね……」


  二人の悪魔はそうつぶやくと、何やら魔法を唱えはじめた。

  そして、次の瞬間——。



  わたしとアイシスの間には目には見えない結界が張られてしまう。

  わたしは彼女の背中を追いかけることができなくなってしまった。


  必死にこの結界を撃ち破ろうと叩いてみても、魔法を発動してもびくともしない。

  わたしたちは完全に分断されてしまうのであった。



  あぁ……。

  またわたしは、ただ見つめていることしかできないのだろうか……。



  漆黒の魔剣を取り出すアイシス。

  彼女はその身一つでゴーレムや雷獣のいるなかへと突き進んでいく。

  そして、最初こそ勢いで対抗できていたものの、アイシスは次第に押され気味になっていくのであった……。


  「あら……。この程度で絶望しないで欲しいのだけれど」


  「そうよ、ハーフピースの子猫ちゃん。あなたにはとっておきのプレゼントがあるって言ったでしょ」


  悪魔たちの声が聞こえてくる。


  背後に何かが召喚されるのを感じた。

  嫌な予感がする……。


  そして、後ろを振り返ったわたしはその光景に絶望するのであった。

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