162話 サラへの手紙(1)
「アベル、話があるんだ……」
部屋で寝っ転がっていたおれのもとへ、珍しく父さんがやってくる。
最近の父さんは忙しそうで全然会えてなかったからな。
少し落ち着いたら親孝行として家族水入らずで旅行にでも行きたい。
そんなことを思いながらおれは父さんと会話することにする。
「どうしたの?」
何かあったのだろうか?
真剣な顔つきをした父さんを見ておれは疑問に思う。
「いずれ発表されることになるだろうが、アベルには先に話しておこうと思ってな」
国王ダリオスが死んでからもう二週間以上が経った。
父さんは大臣としてあれやこれやと日々忙しく働いている。
きっと、父さんの話というのは王国の未来についての話だろう。
一緒に亡命しようと言われたらどうしようか。
それもそれでありな気もするが、ハリスさんのことを考えると気が進まないな……。
そして、父さんが口を開く。
「アルゲーノ様が国王に就任なさる事が決まった。早ければ来月あたりに王位授与の祭典が催されるだろう」
父さんの言葉に少しだけ驚く。
「アルゲーノがですか?」
思わず聞き返してしまうおれ。
政治についてはよくわからないが、まだ若く未熟なアルゲーノが大国の王になって大丈夫なのだろうか?
おれの中でアルゲーノの印象は微妙なんだよな。
学校にいた時はムカつくこともあったけど、あの出来事の日のアルゲーノは王としての品格も感じた。
「アスラ殿とも相談した結果だ。それが一番貴族たちの反発も少なく、国民たちの不満もないという結論となったのだ」
アスラさんがそう判断したのなら間違いはないだろう。
あの何でも見通すような瞳の審査を受けて国王になるべきと判断されたのならおれも何も言うまい。
まぁ、アスラさんがダリオスのように何か企んでいてアルゲーノを利用しようとしているのなら話は別だがそのようなことはないだろう。
カシアスやアイシスに頼んでダリオスと強い繋がりのあった貴族たちを中心に二人には色々と調べてもらった。
しかし、特にそこから悪魔たちとの繋がりを見い出すことはできなかった。
これはダリオスが単独で悪魔たちと関わっていたということ。
そして、悪魔たちと何かを企んでいたということ……。
父さんとアスラさんに頼み、ダリオスが国王に就いた前後の王城の人周りを徹底的に調べた。
すると、先代国王が亡くなる直前に王族直属の魔導師が数人消えていることがわかった。
ここから推察するに、ダリオスは魔導師たちに悪魔の召喚を頼んだ。
そして、悪魔の召喚に成功してダリオスは悪魔と何かしらの協力関係を結ぶことに成功した。
それから悪魔を召喚した魔導師はダリオスか悪魔に殺された。
——といったところだろうか?
詳しくはわからないが、アイシスたちの話でも今は脅威となる存在は近くにいないようだ。
おれはアスラさんを信頼しているし、アルゲーノのことも一応は信頼することにしよう。
「アベル……大丈夫か?」
考え事をしていたおれに父さんが話しかける。
「う、うん! 大丈夫だよ」
少し話を聞き逃してしまったな。
おれは父さんに勢いよく返事をしたのは良いものの、何の話をしていたのか聞いていなかった。
「それじゃ、アルゲーノ様の就任に伴い、各国からの来客で私は忙しくなる。メリッサにも付き添いをお願いすることになるだろう。セアラと二人で仲良く過ごすんだぞ」
父さんは外交を任されている大臣だ。
アルゲーノの王位授与に際して色々とまた忙しくなるのだろう。
そして、母さんも父さんの付き添いで忙しくなるそうだ。
「大丈夫だよ。おれとサラはもう10年以上の付き合いなんだ。仲良くやっとくから安心して仕事を頑張ってよ!」
おれは父さんに心配しなくて大丈夫だということを伝える。
「そうだったな。これから何十年も連れ添うかもしれないんだものな。二人きりで過ごすのは良いが、ハメを外しすぎないようにな!」
父さんから指摘を受ける。
おいおい、おれはまだ14にもならない小僧だぞ。
何を言っているんだか……。
おれは苦笑いをして流す。
こうして父さんはおれの部屋から出て行ったのだった……。
◇◇◇
お昼が過ぎた頃、おれはサラの部屋へとやって来た。
別にやましいことをしに来たわけではない。
勉強を教わりに来たのだ。
カエルおじが死に、学校内にもダリオスと通じている者がいるとわかったため、アスラさんの判断で学校は休校になった。
表向きではダリオスやハリスさんの死を悼んでの休校となってはいるが、裏では教師たちとダリオスの繋がりを徹底して調べ上げているということもあるようだ。
学校が再びはじまればテストがやって来てしまう。
おれは少しだけでも勉強の遅れを取り戻すため、サラに毎日少しずつ教わっていたのだ。
そして、お姉様からの厳しい指摘が入る。
「だから、そこは違うのよ。ちゃんと言葉の意味がわかってる?」
自慢じゃないが、おれは理解力はある方だ。
アイシスから魔界の魔法理論だって教わっていたし、そこでは特に問題がなかった。
しかし、人間界の言葉の定義や概念の定義の違いから四苦八苦する場面は多々あった。
難しい概念など一つもないはずだが覚える事が多すぎていて困っている。
そして、サラに指摘されてしまうわけだ。
「えっ……と」
おれは悩む。
見たことはある文字の並び。
先週やった……いや先々週だったか?
既視感はあるのに言葉として出てこない気持ち悪さがある。
「はい、じゃあ先週のノートを確認しましょう!」
サラの教え方はスパルタだ。
おれが理解できるようになるまで終わらない。
まぁ、勉強ってそういうものなのかもしれないけどね。
そんな風におれがノートをパラパラとめくっている時、部屋のドアがノックされる。
コンッ、コンッ、コンッ
ノックの音に対してサラが返事をする。
「入ってどうぞー」
そして、サラの声が聞こえたのかドアが開けられてノックをした張本人が姿を現す。
「こちらにいらっしゃいましたか、セアラ様」
頭を下げる一人の老人。
そこにはおれたちヴェルダン家に雇われている執事の一人、セバスチャンがいた。
「私に用があるんですか?」
サラは少し驚いたようにセバスチャンに尋ねる。
確かに、サラに用があるというのは珍しいな。
食事の案内でもあるまいし……。
そして、セバスチャンが答える。
「さようでございます。セアラ様宛てに一通の手紙が届きましたのでそれをお渡しにきました」
そう言うとセバスチャンが手紙を取り出してサラに差し出す。
「ありがとうございます。でも、私に手紙なんていったい誰なのかしら……?」
確かに、サラは養子という形でうちで暮らしているし、家の事でサラに手紙が来るわけもない。
サラに手紙を書く人なんて誰がいるのだろうか?
「それでは私はこれで失礼します」
セバスチャンは手紙を渡した後、頭を下げてからこの場を後にした。
サラは手紙に書かれている差出人を見て驚いている。
おれはこれがラブレターだとしたら差出人を徹底的に調べ上げてやろうと思いながらサラの手紙を覗く。
そして、そこに書いてあった名前を見て驚く。
——差出人 ヴァレンシア=ローレン——
「これって……パパの実家からだわ」
カイル父さんの実家から、サラ宛てで手紙が届いたのだった。
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