163話 サラへの手紙(2)
サラのもとに手紙が届いた。
どうやらカイル父さんの実家からのようだ。
しかし、どうやってサラがカルア王国のこの家で暮らしていることがわかったんだ?
おれはそのことを疑問に思う。
「読んでみるわ」
サラはおれにそう告げると、便箋から手紙を取り出して目を通す。
そして、一通り読み終えると手紙をおれに渡してきた。
「アベルも読むでしょ?」
サラ宛ての手紙をおれが読んでもいいのだろうか?
まぁ、読みたいか読みたくないかで問われれば読みたいから受け取ったんだけどね。
だって、サラの居場所を特定したことを含めて謎が多過ぎなんだもん。
そりゃ、気になって読んじゃうよね。
そして、おれは手紙に目を通すことにした。
——拝啓 セアラ=ローレン様——
はじめまして。
と言った方が良いのかもしれませんね。
私は貴女の祖母であるヴァレンシア=ローレンです。
貴女の父親であるカイルの母にあたる者ですね。
もう随分と昔のことになりますが、カイルと私は馬が合わずに何度も喧嘩をしたものです。
産まれて直ぐ、貴女はカイルに連れられてどこかへと消えてしまい、私たちのことをよく知らないと思います。
もしかしたら、カイルの口からは良いようには語られていなかったかもしれません。
しかし、私はずっとカイルとセアラのことが心配でした。
そして、長いこと貴女たちのことを探していた私たちですがようやく貴女を見つけることができました。
貴女が名誉と権威ある魔術学校——カルア高等魔術学校のAクラスに在籍していること、そして類い稀ない才能を持った魔法使いであることを武闘会を通して知りました。
私たちローレン家は貴女のことを誇りに思っています。
どうか、一度エウレス共和国のローレン領に遊びに来てください。
成長した貴女と再会できることを私たちは大変楽しみにしています。
——ヴァレンシア=ローレン——
なるほどな。
サラのことは武闘会で知ったということか。
武闘会はフォルステリアの各国はもちろん、他の大陸からも要人が観に来るって言ってたもんな。
きっと、カイル父さんの実家のローレン家も観に来てたってことなのか。
「どう? 読み終わった?」
サラがおれに尋ねてくる。
「うん。それで、サラは実家に会いに行ってくるの?」
手紙を読む限り、サラの生まれはエウレス共和国だそうだ。
そして、実家にはおばあちゃんを含めた親族がいるようだし会いに行きたいのかもしれない。
だが、サラは真顔で否定する。
「何で会いに行く必要があるの?」
なぜ私の意見を理解できていないのかみたいな表情でサラはおれを見つめる。
「えっ……?」
おれとしては、かつて本当の両親であるマルクス父さんとメリッサ母さんは死んでいるものだと思っていた。
それが生きていると知り、さらに再び一緒に暮らせていることに幸せを感じている。
サラの両親であるカイル父さんもハンナ母さんも残念なことに亡くなってしまったけど、親族たちが生きているのなら会いたがるのではないか。
おれはそう思ったのだ。
だが、サラはそう考えなかった理由を語ってくれる。
「パパと馬が合わないのなら私とも合うはずがない。それに、ママのことが何も書いていない辺りが私は気に食わない」
確かに、手紙にはカイル父さんとサラの祖母にあたる手紙の差出人は馬が合わなかったと書いてある。
もしかしたら、カイル父さんはそれで実家を出ていったのかもしれない。
それに、サラの言うとおりハンナ母さんのことが何も書いていないのは気がかりだ。
まさか、ハンナ母さんはサラは血の繋がりがない後妻だったのか?
いや、だがハンナ母さんとサラは非常に似ているしそんなことは絶対に……。
そして、サラは話を続ける。
「それに、武闘会で私を見つけたのなら直接会いにくればいい。おじ様やおば様に話を通すことだってできたはずなのに御二人は私には何も告げてこない。怪し過ぎよ!」
サラは口調はヒートアップしてどんどん饒舌になる。
おれはその勢いで押されてしまいそうだった。
だが、サラの言うとおり武闘会で見かけたのならそこで何かアクションがあるはずだよな。
父さんも母さんも王国では外交を任されてるポジションなわけだし、武闘会を観戦しにきた各国の要人と接触する機会は王城での立食パーティーも含めてかなりあったはずだ。
手紙をおれの家に差し出しているということはおれとサラが一緒に暮らしていることはバレている。
まぁ、これは試合中の実況でバラされたみたいだし、たどり着くのはそう難しくないか。
だが、サラに近づこうとするのなら父さんや母さんを通してコンタクトを取るのが一番簡単なはず。
二人からサラの実家の話はおれは聞いていないし、サラも聞いていないようだ。
確かに、これはサラの言うとおり怪しくなってくるな……。
おれもこのヴァレンシア=ローレンという存在を疑いはじめる。
「それに、私には既にステキな家族がいるんだもの。それだけで満足よ」
サラはいまだ父さんや母さんに敬語は使っているものの、ずいぶん打ち解けて仲良くなっているように思える。
最近は父さんが不在で母さんといる時間が長いが、サラは母さんと仲良くやっているように見える。
おれとしてもサラが幸せそうに暮らせているのならそれで満足だ。
「そうだな。サラが満足しているのなら今はそれでいっか」
サラは二週間前に悪魔と手を組む前国王ダリオスに誘拐された。
時期的にも怪しい者たちには近づきたくないのだろう。
おれとしてもサラの意思を無視するようなことはしないつもりだ。
「でも、久しぶりにエウレス共和国には行きたいわね! カレンさんやバルバドさんにも会いたいし」
サラが笑顔でそう語る。
そういえば、ここに引っ越して来た時は精霊のリノが一緒にいた。
サラはリノの転移魔法でいつでも戻れるって話してたけどリノは帰っちゃったからな。
アイシスも転移魔法は使えるけど、普段おれに付いているイメージだし、サラもアイシスには頼みづらかったのかもしれない。
最近はエウレス共和国に戻れてないようだし、久しぶりに帰省してみるか。
「じゃあ、久しぶりにエウレス共和国に行ってみようか!」
おれはサラに提案する。
本当はおれの転移魔法で行けたらいいんだけど、まだまだ長距離は転移できないしアイシスかカシアスに頼むことになるだろう。
「学校もしばらくないし、旅行として少しの間あっちに滞在しない?」
なるほど。
確かにそれもいいな。
王国内は暗い雰囲気だし、おれとしても気分転換をしたい。
旅行として知り合いと会ってのんびり過ごすのも悪くないな!
「それいいね! じゃあ、旅行で決まりだな! セバスチャンにしばらく出かけてくることを話してくるよ」
父さんと母さんは忙しくなるとのことでしばらく家にいない。
許可を取るとしたら執事長のセバスチャンだ。
そして、用件を話すとセバスチャンは二言でオッケーをしてくれた。
「アベル坊ちゃんとセアラお嬢様でしたら何の心配もありますまい。テスラ領も素敵な所でございます。どうか、御二人でごゆっくりお過ごし下さい」
セバスチャンの方から父さんと母さんには話をつけておいてくれるらしい。
また、馬車を用意してくれると言っていたが、実際に使うことはほとんどないだろう。
人目のつかない所まで出たら転移魔法で一気に飛ぶのだ。
屋敷の人たちはアイシスが悪魔であり転移魔法が使えることは知らない。
だからこそ、一応は馬車を借りるのだ。
こうして、おれとサラはエウレス共和国へと出かけることにした。
おれとしてもカレンさんやバルバドさんと会うのは数年ぶりだ。
さぁ、出発が楽しみになってきたぞ!
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