133話 サラの切り札

  ふぅ……。

  一瞬死ぬかと思ったぜ。


  まさか、サラがあれほど高火力の魔法を使えるとは。

  ハリスさんが止めに入ってもおかしくないレベルだったぞ……。


  サラの火撃ファイヤーバーストに対しておれは氷の盾アイスシールドを使ったのだが、これが綺麗に玉砕した。

  その結果、おれの身体が軽くあぶられてしまったぜ。


  どうやらサラの話では彼女もまた補助スキルを手に入れたらしい。

  そうなるとおれの方が不利だな……。


  おれが獲得した補助スキルは『闇属性魔法強化』と『魔力回復量増加』だ。

  つまり、闇属性魔法の効力が上がるのと消費した魔力の回復量が上がるというスキルだ。


  武闘会においておれは闇属性魔法は封印していて使えない。

  使えば冗談抜きで大問題になりそうだからな。


  そうするとおれの補助スキルの『闇属性魔法強化』が死にスキルと化してしまう。


  その点、サラは補助スキルで『火属性魔法強化』を獲得しているみたいだ。

  これは彼女が火属性魔法が得意であること、そして武闘会で火属性魔法は使っても問題はないことを考えれば完全におれに不利な状況だ。


  正直、もう諦めてしまってもいいレベルかもしれない。

  だけど、そう簡単にギブアップはできないんだよな。


  昔のおれならすぐに諦めていたかもしれない。

  だけど、ネルとケビンの2ヶ月間の努力を間近で見てきて、さっきの試合で最後まで闘い抜く姿を見せられたら、おれ一人だけ試合を投げ出すわけにはいかないんだよね。


  サラが本気で来るのならおれも本気でいかないとだよな……。


  「さぁ、そろそろ終わりにしましょうか」


  サラがおれにそう告げる。

  おそらく火属性魔法の連打で勝負を決めに来るのだろう。


  「あぁ……そっちがそう来るのならおれも制限解除リミッターかいじょしようじゃないか!」


  おれは全魔力を解放する。

  とてつもない魔力があふれ出し、おれの髪が逆立つ。


  「へぇ、何を見せてくれるのかしら?」


  サラが興味ありげにおれを見つめる。

  そしてサラからも同様に魔力があふれ出し、髪が浮き立っている。



  これが最後の勝負。

  絶対に負けられない!



  おれは今まで正しく魔力操作と魔力制御を学び、あらゆる魔法を無詠唱で発動できる努力をしてきた。


  魔力操作とは、魔法を発動するために体内に魔力の流れを作ってあげること。

  魔力制御とは、その魔力の流れに正しく強弱や緩急をつけて魔力を流し込むこと。


  つまり、魔法の型を上手く作ってあげることと、その型にうまく魔力を流してあげることで魔法は正確に発動する。

  これが無詠唱魔法の原理でもある。


  だが、この魔力操作や魔力制御が不十分でも魔法を発動することができる。

  それは詠唱を引き金として無理やり魔法を発動させるのだ。

  これが詠唱魔法の原理である。


  詠唱魔法は魔力操作や魔力制御の技術が不十分である場合が多く、無詠唱魔法に比べて効力が低い。

  だからこそ、おれは基本使わない。


  師匠であるアイシスにもしっかりと綺麗な型で魔法は使いなさいと教わっているからな。


  だが、今だけは詠唱魔法を使おうじゃないか!!


  おれはまだまだ未熟な魔法使いだ。

  自分の持つ人間離れした膨大な魔力を完全に扱えるほど優秀ではない。

  だからこそ、いつもは自分が扱える限界までの魔力しか使ってこなかった。


  だが、今すべての魔力を解き放ち、詠唱することでサラに対抗する魔法を発動するとしよう!

  自分でも扱い切れない魔力を無理やり使おうとすれば身体に負担がかかるのはわかっている。

  だが、補助スキルを獲得したサラに対抗するのはこれしかないのだ!



  こちらも本気を出すと宣言したおれに、サラが再び火撃ファイヤーバーストを放つ。

  しかも、先ほどよりも威力が高い。


  やはり彼女は天才だ。


  音速を超える速度で紅蓮の炎がおれをめがけて飛んでくる。

  だが、おれに対応できない威力ではない。



  「火撃ファイヤーバースト!!」



  限界の魔力を使い詠唱魔法を発動する。

  おれも火撃ファイヤーバーストで彼女を迎え撃つ!!


  身体中がヒリヒリと痛み、これ以上やれば引き裂かれるのではないかという感覚が身体に残る。

  だが、詠唱することによって無理やり発動した魔法は暴走しながらもサラの魔法と激突する。


  混じり合う二つの紅蓮の炎。

  おれのところまでその激しい魔力の衝突によって生まれた波動がやってくる。


  そして、おれたちの魔法は相殺された。

  炎が魔力となり、散って拡散されてゆく。



  「へぇ……そんな方法があったのね」



  実況が、観客席が、何やらうるさく騒いでいるが耳に入ってこない。

  今は目の前にいる好敵手ライバルに意識を集中させるだけ。


  そういえば、おれが初めて魔法を使うきっかけになったのもサラの火属性魔法だったよな。

  あれからもう10年近く経つのか。

  お互い、色々と苦労してきたよな……。



  「火撃ファイヤーバースト!!!!」



  おれとサラは互いのすべてをかけて魔法を撃ち合う。

  どちらかの魔力が尽きるか、肉体が限界を迎えるまで……。



  おれたちは時間も、周りの人たちも、クラスの勝敗のことも忘れて、純粋に勝負を楽しんでいた。



  人にはどれだけ努力しても報われないことがある。

  おれだって、アイシスから教わったことのすべてができるようになったわけではない。


  だからこそ、目の前にいるサラがどれほどすごいのかがよくわかる。

  かつてカイル父さんと一緒に特訓をしていたときのサラの実力を考えれば、彼女がどれほどの苦難を乗り越え、努力を積み重ねてきたか伝わってくる。


  本当にサラはすごい。


  だけど、おれだって今まで遊んできたわけじゃないんだ。

  大切な人たちを守るために強くあろうと努力してきた。


  サラがそのたゆまぬ努力の結果をおれに見せてくれたように、おれも彼女に見せたい。

  大切な人を守れるように強くなったおれの姿を!



  もうおれの方は限界が近づいてきている。

  次の攻撃魔法でラストとなるだろう。


  おれはサラと視線が交わる。

  そして、彼女はふっと微笑んだ。


  「私も次が最後よ……。お互い悔いなく終わらせましょう」


  サラがおれにそう告げる。

  どうやら彼女も限界がきているらしい。


  ならば、お互いに限界まで駆け抜けよう。

  おれの持てるすべてをここで出し切ってやる!


  おれは身体中に残る魔力をかき集める。

  次の攻撃にすべてをかけて!


  サラは両手をあげて集中する。


  今までと同じ火撃ファイヤーバーストではないのか?


  そして——。


  「これで終わり! これが私の切り札! 火焔流星群メテオクラッシュ!!」


  燃え上がる岩石の数々が、流星群となりおれに襲いかかる。


  これは……複合魔法!?


  間違いない!

  火属性と土属性の複合魔法だ!


  やってくれるなサラ。

  このドタンバの状況でそれは驚いたよ。


  だけど、おれも負けるわけにはいかないんだ。



  「火弾撃ファイヤーバレット!!!!」



  サラ……きみはおれにとって最高の友だ。

  この世界で初めて仲良くなれた大切な友だちだ。

  サラのおかけでおれは人付き合いができるようになった。


  また、きみはおれにとって最愛の家族だ。

  この世界において、何よりも愛しい大切な姉だ。

  サラのおかげでおれに家族ができて幸せな日々を送ることができた。


  そして、今日改めて感じたこと……。


  きみはおれとって最大の好敵手ライバルだ!


  きみのそのどこまでも先を見て頑張る姿が好きだ。

  きみと共にいられる人になりたいとおれに思わせてくれる。

  おれは他のだれよりもきみを尊敬しているんだ。

  だからこそ、そんな愛しいきみを守りたくておれは強くなりたいと思った。



  だからこそ……おれは負けたくない!



  サラを守るためにこれまで頑張ってきたんだ。

  なのにサラに負けているようじゃ、おれが頑張ってきた意味がなくなってしまう!

 

  おれは……絶対に負けるわけにはいかない!!


  おれの手から炎の爆撃が撃ち出される。

  サラの放つ流星群へと向かって。



  いっっっっけぇぇええ!!!!



  おれの魔法が彼女の放つ流星群を押していく。

  まるでおれの気持ちを強さに影響されているように。


  だが、徐々に彼女の魔法に押されはじめる。


  もうおれに魔力は残っていない。

  やれることはやり切った。

  あとは祈るだけだ。


  しかし、おれの魔法は徐々に流星群との激しいぶつかり合いの中で呑み込まれていった。


  そして、おれの目の前が真っ赤に染まる……。


  あぁ……ここまでか。

  本当に強くなったんだね、サラ……。




  ◇◇◇




  気づくとおれは光の結界に包まれていた。

  そして、目の前にはハリスさん。


  どうやらハリスさんがおれを流星群から守ってくれたようだ。

  そして、会場のざわめきが聞こえる。



  「激闘の末、勝利をその手につかんだのはセアラ選手だぁぁああ!! 今日、舞踏会の歴史に新たな伝説が刻まれました!」


  「七英雄様たちの末裔同士による熱い試合! 時代が違えば彼らもまた英雄と呼ばれた存在だったでしょう! 素晴らしい試合を見せてくれた両選手には拍手が送られています!!」



  こうして、おれの武闘会は鮮烈なデビューとともに幕を閉じたのだった。

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