101話 リノの帰還

  食堂でランチを済ませたおれたちは特に学校に用はないのでここで別れることにする。


  「それじゃ、また明日!」


  ネルはおれたちに手を振りながらそう叫んでいた。


  どうやら彼女はカルア王国の中でも王都から離れた場所の出身らしく寮生活をしているそうだ。

  それでおれたちとは学校で別れることとなったのだ。


  「なかなか押しの強い子だったわね」


  サラはこう言っているが、なんだかんだ彼女のことは気に入っているようだった。

  おれとしても嬉しい。


  「サラにとても懐いていたもんね」


  ネルはサラに対してあれこれ色々と聞いていた。


  どうしておれの義理の姉になのかとか。

  どうしてエウレス共和国からカルア王国の魔術学校に来ることにしたのかとか。

  どのような魔法が使えるのかなどだ。


  そこでおれたちは、おれがヴェルダン家の息子でサラの両親に養子として育ててもらったこと。

  そして、サラの両親が不幸にも亡くなってしまったので二人で生きていくことにしたこと。

  サラはエウレス共和国の中等魔術学校に通いながら、おれは二人で学校に通う資金集めの旅をしていたこと。

  その旅の中でカルア王国にたどり着き、父さんや母さんと再会して王国でサラも含めて四人で暮らすこととなったと話した。


  これを聞いてネルは驚き同情してくれた。

  どうやら彼女にとって想像以上に複雑で過酷な物語だったようだ。

  ネルにも心優しい部分があることに逆におれの方が驚いた。

  失礼だがノリだけで生きているキャラだと思っていたからな。


  あと、おれが2歳年下だったことにも驚いていたな。

  ネルに聞いたところ、どうやらクラスの女子の中でおれは童顔の可愛い男の子という印象が付けられていたようだ。


  童顔っていうか2歳若いだけで中等部の男子と比べたら普通だと思うんだよな。

  まぁ、クラスの女子たちに悪い第一印象を与えていないというのはおれとしても喜ばしいことだ。


  そんなこんなでサラと家に帰宅した。


  玄関には警備兵、中に入ると執事とメイドたちがお出迎え。

  これが当たり前だという感覚に慣れてきてしまっている自分が怖い。

  これはおれ自身が他人から持ち上げられたりするのに慣れていない上にあまり好きではないからかもしれない。


  そして、おれとサラはそれぞれ二階にある自分たちの部屋に向かおうとする。

  階段を上がり部屋の前へ行くとアイシスが立っていた。


  こいつ、さては転移魔法でおれたちより先に帰ってきたな。


  「アベル様、セアラ様。リノ様から御二人にお話があるようなのでこちらへお越しください」


  アイシスはそう言うとおれたちをサラの部屋へと案内する。

  そして、サラの部屋に入るとリノとハリスがいた。


  「おかえりなさいませアベル様、セアラ様」


  ハリスさんがおれたちに気づき挨拶をする。


  「おかえりなさいませアベル様、それにおかえりサラ」


  そしてリノもハリスさんに続き挨拶をする。

  二人してどうしたのだろうか?


  「アイシスありがとうね」


  「リノ様のめいに従うのは当然のことです」


  アイシスがおれたちを連れて来てくれたことにリノは感謝する。


  さぁ、リノからおれたちへの話とはいったいなんなのだろうか?

  おれとサラはドキドキしたがらリノの言葉を待った。


  すると、リノはサラをジッと見つめてからゆっくりと話し出す。


  「私がサラと一緒に過ごすようになってもう3年が過ぎましたね。最初は護衛という形で貴女と関わってきましたが、だんだんとあなたが家族のように接してくれたこと……私は嬉しかったですよ」


  「精霊の私に妹などいませんが、もしもいたとしたらきっとこんな感じなのだろうと毎日思いながらあなたと過ごしてきました。本当に楽しい毎日でした」


  どうしたのだろうか。

  リノはまるでお別れかのような雰囲気で話している。


  「リノ……急にどうしたのよ? まるで私たちここで離ればなれになっちゃうみたいじゃない!」


  サラは強い口調でリノに問い詰める。

  彼女もおれと同じことを感じたようだ。


  「サラはアベル様と一緒に暮らしたいとずっと言ってましたからね。ようやく夢が叶ってよかったですね」


  リノはサラの頭を撫でながら優しく語る。


  「いいから答えて! なんでこんな話するのよ? 私たちに話ってなんのことなのよ!」


  サラは涙目でリノを叩く。

  もしかしたらサラはもう気づいているのかもしれない……。


  「私はこれから魔界へ帰ります。あちらでやらなければならないことが多いのです」


  リノは魔界に帰ることを告げる。


  「そんな……。私、リノと離れたくない! だってあなたは私のお姉ちゃんみたいな存在なのよ……。家族みたいな存在なのよ……」


  そうだ。

  サラは本当の姉妹のようにリノとは仲良くやっているようだった。

  この別れはつらいものだろう……。


  「私もサラと離れるのはとても悲しいです。でも、あなたは私がいなくてもやっていけますよ。だって、あなたにはアベル様が付いていてくださるのだから」


  「それに、これは永遠の別れではありません。魔界で私がやるべきことを終えたらまたあなたに会いに来ますよ。だから、もう泣かないで」


  リノはサラを抱きしめてそう語る。

  すると、サラもリノをまっすぐ見つめてそれに答える。


  「わかったわ……。その代わり絶対に会いに来てよね! 約束よ」


  「もちろんです。私だってサラに会いたいんですもの」


  抱き合う二人を見ておれも胸が熱くなった。

  二人が無事に再会するためにも、おれがサラをしっかりと守らないとな。


  「後のことはアイシスとハリスに任せてあります。二人ともサラのことを大事に思ってくれますし、仲良くしてくださいね」


  どうやらリノはアイシスとハリスさんにこれからのサラのことは任せるようだ。

  確かに二人とも優秀だし特に問題はないだろう。


  「リノ、3年間もサラを見守っていてくれてありがとう。それに、リノのおかげでおれ自身も助かった。おれも本当に感謝してるよ」


  おれはリノに感謝の気持ちを伝える。

  おれだってしばらくリノに会えなくなってしまうのだ。


  リノには人間界での調べ物をしてもらったり、死にかけたときに回復魔法をかけてもらったりとお世話になってたからな。


  伝えたいことは伝えられるときにしとかないとな。


  「アベル様にそう言ってもらえると私としても嬉しいです」


  リノは本当に嬉しそうに笑顔になる。


  「あと、たまにはカシアスに連絡してあげてくださいね。カシアスはけっこう寂しがっているかもしれませんから」


  リノはカシアスに連絡するように言う。


  カシアスが寂しがる?

  全く想像ができないな。


  だが、確かに言われてみればカシアスと全然話していないな。

  召喚して話せばいいのか?


  例えば、ゼノシア大陸の冒険者ギルドの件でグランドマスターのヴァルターさんと連絡を取るために、彼の契約している精霊レーナを週に一回召喚されてもらいおれたちは情報共有している。


  そんな感じで週に一回ほどカシアスを召喚してお話をすればよいのだろうか?


  それだけのために魔王を召喚するのは気が引けるな……。

  召喚したところで毎週何を話せばいいんだ?


  「月に一度召喚するくらいでいいのか?」


  おれは妥協して月一ペースで連絡をとることでいいのかリノに聞いてみる。


  この前まで2年間も会っていなかったんだ。

  それが月一で話せるとなればリノも満足してくれるだろう。


  「それでもよいのですが、アベル様はカシアスと契約しているので念話を使えば簡単に話せると思いますが……」


  契約していると念話を使える?

  いったいなんのことだ?


  おれはアイシスを見る。


  「契約している精霊体とは融合していなくても念話が使えます。これは人間界でも常識として知られていることなので、既にアベル様は知っていることだと思っておりました……。すみません」


  アイシスはおれを見て謝る。


  そんなこともちろん知らなかったぞ!


  まぁ、これに関してはおれが無知なだけだっただけでアイシスが悪いわけじゃない。

  ただ、アイシスの言い方に多少傷ついたけどな……。


  「わかったよ。じゃあ今度連絡しとくよ。リノからもカシアスに会うことがあればよろしく伝えておいてくれ」


  「はい、もちろんでございます!」




  ◇◇◇




  こうして、この日をもってリノの人間界でのサラの護衛という役目は一旦終わりを告げ、彼女は魔界へと帰っていった。


  リノがいなくなってサラはさみしそうだったため、この日おれはサラとゆっくりと二人で話をした。


  サラはリノとの思い出話をたくさん語ってくれた。

  本当にサラはリノのことが大好きだったようだ。

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