90話 実技試験(1)
「君の実技試験はもう終わったと言っているんだ。早くここから立ち去りなさい」
カエル顔のおじさんがおれを不快そうな目で見つめて帰るように指示する。
コミュ症のおれでもわかる。
これは The end の方の終わりだ。
決して、君は実技試験を受けるまでもなく合格だからもう帰っていいよという意味でない。
しかし、どうしたらいいのだろう……。
「あの……まだアピール全然できてないです! 試験を受けさせてください!」
とりあえずおれはやる気があることを試験官たちに見せる。
どうしてここまでキツく言われなければいけないのかわからないが、それを言っても仕方がない。
「アピールだと……? はっはっはっ。君は何を言っているんだ? 筆記試験でこれだけふざけておいてまだ足りないというのか!?」
『カエルおじ』こと面接官であるカエル顔のおじさんが怒鳴る。
えっ?
筆記試験でふざけるだって?
おれは至ってまじめにやったつもりなんだけど……。
「すみません。確かにそこにある問題1はわからなかったので適当に書きました。しかし、わかったところはしっかりと記述したつもりです!」
問題1は『魔術学概論』だの『ナンシーの法則』だの意味のわからない単語がいっぱいだった。
だからこそ、部分点をもらうためにわからないけれど適当に書いてしまった。
もしかしたらおれが気づかないだけで、そのときに書いていた内容が失礼だったのかもしれない。
だからこそ、ここはしっかりと謝って説明しないとな。
「問題1
どうやら火に油を注いでしまったようだ。
カエルおじは血管を浮き出しながらさらに激怒する。
「私も見せてもらったが本当にひどかった……。中等部一年の子どもでもあそこまでひどい解答はできん」
「あれはこれまでの魔法研究を侮辱しているような内容でしたからね」
他の面接たちもあきれた表情をしながらおれを非難しはじめる。
カエルおじ以外からもおれはよく思われてはいないようだ。
「すみません、すみません! おれ本当にわからなくって部分点が欲しくてあのように書いてしまったんです」
おれは正直に話す。
おれには理解できていなかったが、魔法に対して真摯に研究している人たちからしたらおれの解答は侮辱とも捉えられてしまうものだったようだ。
「0点! 君は筆記試験で0点だったんだ!! マルクス殿の
なんだって!?
あそこに書かれている0って一枚目の点数じゃなかったのかよ……?
嘘だろ……。
あれだけ書いたのにおれ筆記試験で0点だったの?
部分点もなしなのかよ。
あの中にはおれの方が本当は正しい解答もあるかもしれないんだけどな……。
なんたって魔界の最先端理論ですからね。
だが、その理論をこの場で証明できない以上それはどうすることもできないか……。
「筆記試験で0点を取ったのはカルア高等魔術学校の長い歴史の中でも初めてだ。君はある意味
カエルおじの横にいるニワトリ顔のおじさんもおれを罵倒する。
高い声で叫ぶ『ニワトリおじ』ことニワトリおじさんも頭にきているようだ……。
それに、やっぱおれは父さんの推薦で特別に受験させてもらっていたのか……。
このままでは父さんの顔に泥を塗ってしまうことになる。
いや、もう遅いかもしれないがそれでも歴史上初の0点だけでも回避したい!
おれを応援して手伝ってくれていた父さんに、0点の父親などという不名誉な称号を与えてたまるものか!
おれはどうにかして点数をもらえないかと考える。
魔法理論に関して面接官たちに交渉するのは難しいだろう。
おれは昔カイル父さんに基礎中の基礎をチョロっと教わっただけで、後は精霊たちとの実践で魔法を覚えた。
魔法研究者といっていた彼らとおれが議論できるわけがない。
おや、待てよ……?
確か問題10は七英雄について知っていることを書けというものだった。
筆記試験が0点であるということはあの問題についても1点も貰えていないということになる。
いくら魔法理論をバカにしていると思われていたとしてもマイナス点をつけることはないのだろう。
もしそうだとしたら9問の魔法理論問題と1問の七英雄の問題から、おれの点数はマイナス5000点とかになっていそうだ。
おれの点数が0点であるということからそれはない。
つまり、七英雄の問題について交渉すれば0点は回避できる!!
「すみません!本当に父さんには悪いことをしたと思います!! それで……問題10は多少できたと思うんです。少しばかり点数を付けてもらうことはできませんか?」
採点者にお前の採点はおかしい。
点数を付け直せということは失礼なことはわかっている。
だが、不合格になったとしてもこのまま0点で帰るわけにはいかないのだ。
「父さん
ニワトリおじが
おれは耳がキーンとしてしまった。
また地雷を踏んでしまったのだろうか?
おれには今何で怒られているのかさえ全くわからない。
「そうだね、君の問題10の解答……。これはどういう意図で記述したのかしっかりと聞いてみようじゃないか」
カエルおじが落ち着いた声でそう話す。
もしかして、面接をしてくれる気になったのだろうか?
だが、ここまでの流れでそんなことを期待したおれが甘かった——。
「まず、このメモ用紙のような真っ白な解答用紙は何なのだ? ペンのインクが切れてしまったのか?」
カエルおじは問題10の7枚解答用紙をおれに見せてくる。
えっと……七英雄について全く知らないから書けなかったなんて言ったらマズいよな……。
でも、インク切れと言って口頭試問されるもの嫌だしな。
「すみません……。七英雄たちのことがわからなくて書けませんでした」
今日一体何回すみませんと言ったことだろう。
もう精神が嫌になってくる。
さっさと1点だけでももらって帰りたいよ……。
「七英雄
カエルおじが嫌味ったらしくおれをバカにするように言う。
確かに今まで会った人たちはみんな七英雄たちに《様》を付けて呼んでいた。
ただの信仰だと思っていたけれど、もしかしてこれって強制だったの??
「しかも、書いてあることも酷すぎる……。まあ、これには目をつぶるとしてもどうしてテオ=ルード様の記述がないのだ?」
テオ=ルード?
もしかしたらおれがわからなかった七英雄の七人目のことだろうか。
「六人はわかったのですが、最後の一人を知らなくて……」
おれは六人はしっかりと知っていたとアピールする。
これは大事なことだもんね。
おれだって全くの無知ではないのだ。
だが、これが逆に彼ら面接官を驚かせることとなる。
「まさか……時間切れだと思っていたが知らなかったとは……」
「えぇ、たくさん書こうとして最後に残していたとばかりに……」
面接官たちがざわざわとしはじめる。
いったいどういうことなのだろうか?
すると、今まで黙っていたおじさんがおれに話しかける。
眼鏡をかけて、痩せ細っているのが特徴的な人であった。
「君は現在、ここカルア王国にあるカルア高等魔術学校に入学したくて受験したんだよね? それもヴェルダン家の人間の推薦であり、なおかつ君自身もヴェルダン家の人間なんだよね?」
この人は白髪が印象的でなんだか科学者って感じがするな。
「はい、間違いありません」
おれは白髪のおじさんに向かって答える。
すると、カエルおじやニワトリおじが騒ぐ。
正直うるさい。
それは白髪のおじさんもそう思ったのか彼らを静める。
「二人とも落ち着いてください。私は少し彼に質問をしたいのです」
すると二人のうるさいおじたちは嫌々ながら黙る。
白髪のおじさんの方が偉いのだろうか?
「君はなぜ我々にこれほど強く非難されているのかはわかっているのかい?」
白髪のおじさんは優しくおれに問いかける。
どうして面接官のおじさんたちがおれにこんな態度なのかだって?
それは魔法理論をバカにしたような記述をした上に七英雄たちを呼び捨てにしたからじゃないのか?
だが、この聞き方からしておそらく違うのだろう。
「すみません、わからないです……」
おれは素直にそう告げる。
すると、白髪のおじさんはゆっくりと語りはじめる。
「そうか……。それはね、七英雄テオ様はこのカルア王国の繁栄に最も貢献したお方であるんだ。そして、この学園を創設したのもテオ様なんだよ」
おれはこの話を聞き、やってしまったと後悔する。
「それにね、君も含めてヴェルダン家にはテオ様の血が濃く流れているんだ。だからこそ本学の推薦枠を持っているんだよ」
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