25話 追憶の果てに(2)
「なんで、わたしのときよりアベルの誕生日が豪華なの?」
「そんなことないわよサラちゃん。ママ、サラちゃんのときも豪華にしたのよ」
サラが不機嫌そうに悪態をつく。
今日はおれの誕生日らしい。
確かにサラの誕生日は今日のおれの誕生日より質素だった気がする。
きっと両親から受ける愛情が違うのではないかと複雑な思いなのだろう。
「やっぱりパパもママもアベルのことが可愛いんだね! アベルなんて本当の子どもじゃないのにさ!」
「セアラ!!」
サラの発言にハンナ母さんが怒る。
「あなたもアベルもわたしたちの大事な子どもなのよ! なんでそれをわかってくれないのよ」
娘に言われたこの言葉はハンナ母さんにはつらいものだったのだろう。
たまらずに泣き出してしまう。
「セアラごめんよ。セアラの誕生日はまだこの村に来たばかりで準備ができなかったんだ。来年は絶対豪華にするからね」
カイル父さんがサラをなだめる。
おれはまだ小さかったが、サラお姉ちゃんがなんで怒っているのかなんとなくわかった。
来年の誕生日はおれからプレゼントを何かあげよう。
この世界には誕生日プレゼントの文化はないのだ。
きっと喜んでくれるだろう。
「わかったわ……パパ。それとママごめんね……」
「わかってくれたなら嬉しいよセアラ。それとね、アベルは確かにパパとママで産んだ子どもじゃない。だけど、セアラと同じくらいパパもママもアベルが大好きなんだよ。アベルはパパとママの子どもで、セアラの弟くんじゃダメかな?」
「うん……。わたしもアベルのことは好きだもん。いいよ」
どうやらサラも納得してくれたようだ。
「それとアベルにも言うことがあるんじゃないの?」
カイル父さんがサラに優しく尋ねる。
「うん……。アベル、お誕生日おめでとう。わたしはアベルのお姉ちゃんなんだからね! わたしの弟になれたことを喜びなさいよね」
「ふっ、サラちゃんったら……」
サラの発言に黙り込んでしまっていたハンナ母さんが笑顔を見せた。
これを見てサラも笑顔になる。
ああ、きっとこのせいで今のサラがあるんだな。
でも……みんなが笑顔でいられるって……幸せだな。
◇◇◇
おれは胸の奥に閉じ込めていた記憶を今取り戻す。
そっか、おれ本当の父さんと母さんを……。
カイル父さんもハンナ母さんもサラも本当の家族じゃなかったのか……。
ハンナ母さん、おれが家族になるのを反対してたんだな。
まあ、そりゃそっか。
おれが悪魔を呼び出して、二人の恩人を殺しておいて家族にしてくださいなんて、一体どんな神経してるんだよな……。
それにおれのもとへ悪魔は再びやってくる……死をもたらす存在なんだものな……。
それでも最終的にはハンナ母さんもカイル父さんも、そしてサラもおれを家族だって認めてくれたんだよな。
確かに世界は理不尽なことばっかだよ。
だけどそれでも世界のどこかにはそんなの関係ないものが確かにあるんだ。
きっとそれは誰にでも手に入るわけじゃない。
人生一生懸命生きていれば手に入るとか大金叩けば手に入るもんでもない。
きっと運もあるし、何かしらが複雑に絡み合って手に入るものなんだ。
そしておれはそんな世界でかけがえのない恵まれたもん与えられてたんだな……。
ハンナ母さん、おれが初めて魔法使ったときびびってたな。
魔法が闇属性だとかそんな簡単な理由じゃなかったんだな。
そりゃ自分たちとサラの命が危険にさらされるってなればああなるよ。
でも……ハンナ母さんはおれへの態度を変えなかったな。
あんなことがあっても、何事もなかったようにおれに接してくれて……サラと同様に愛してくれるって言ってくれてさ。
結局、最後までおれとサラだけでも逃すために命までかけてくれてさ。
もう一度……抱きしめたいよ。
あのとき母さんがおれを抱きしめて泣いているときに戻りたいよ。
おれも愛してるって、大声で伝えたい。
カイル父さんもびびったよな。
おれが思考誘導を破って初めて魔法を使った原因がサラにあるって聞いて驚いてた理由がわかったよ。
でもさ、おれは危険な存在なはずなのにさ。
危険かもしれないのにおれが魔法を覚えたいって言ったら教えてくれて……。
どんなことがあってもおれとサラを愛してくれるって言ってくれて……おれ本当に嬉しかったよ。
あのときも嬉しかったけど今やっと本当にあの言葉の重さがわかったよ。
いままでありがとうって伝えたい。
サラ……きみはおれにとってかけがえのない存在だったんだね。
サラのおかげでおれたちは家族になれたなんて知らなかったよ。
おれはきみのおかげで本当に救われたんだと思う。
おれが幸せになるきっかけをくれてありがとう。
だから、最後におれからもサラに幸せになるきっかけをあげたいんだ。
サラのおかげでおれは魔法を使うようになった。
おれ、疫病神みたいな存在でさ……カイル父さんもハンナ母さんも守れなかった。
大切なきみから奪ってしまった……。
だけど、まだきみだけでも助けることができるとしたらおれは全てを投げ捨てられる。
ああ、幸せだった頃の記憶が甦るな——。
『ベルちゃんも3個持ちなの? わたしもパパも2個なのにな。子は親を越えるってことかしらね』
『やっぱりアベルはすごいよ。もうわたしでは相手にならないね』
『もちろんよ。わたしたちはサラのことを愛しているわ。もちろんアベル、あなたのこともね』
『みんなアベル、きみのことを愛している。それだけはわかってくれ。そして、これはきみに何があっても変わらない。だから、安心していてくれ』
『あらあら、二人ともすごいのね』
『これからどんな困難があるかわからないがわたしたちは家族だ。一緒に乗り越えていこう』
『じゃあ待っているのよ。 セアラ、アベル。愛しているわ』
『何を言い出すかと思えば……当たり前だろう。わたしたちはきみたち二人のことが大好きだよ。絶対に嫌いになんかなるものか』
『えーとね。アベルを鍛えてあげるの! アベルったら男の子のくせに弱っちいんだもの』
『ふふふっそうね。ベルちゃんには強くなってもらってサラちゃんを守ってもらわないとだもんね』
カイル父さん、ハンナ母さん。
今までおれのことを本当の子どもとして育ててくれてありがとう。
二人の愛情があって、サラの存在があって、おれ最高の人生を送れたよ。
二人のもとへ、まだサラを連れて行くわけにはいかないからさ……。
おれ……なんとかがんばってみるよ。
最後に二人とも……ごめん。
あと、約束を破っちゃうのは許して欲しい。
おれはこれだけやって地獄に落ちるよ。
『カイル父さん! ハンナ母さん! おれはあなたたちの娘を命にかえても助けます!!』
身体は動かない。
意識もおぼつかない。
だけどそんなことは関係ない。
おれはおれにしかできないことをやる。
どんな犠牲を払ったっていい。
たとえ永遠の地獄に囚われたって構わない。
おれの全てを悪魔に捧げてやるよ。
「出てこい悪魔! おれに、力を貸しやがれ!」
おれは
おれの暗く藍色だった髪色が……水色だった瞳が漆黒に染まってゆく。
おれはかつてのようにありったけの魔力を身体に吸収して魔法陣を描く。
サラもう少しだけ待っててくれ。
絶対にきみを助けてみせるから。
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