18話 気づいたら剣士の道へ
ここは地球とは違い魔力が存在する異世界。
魔力とは大気中に存在していると言われており、ときに人間たちは魔力を利用して生活を豊かにし、ときに人間たちは魔力を体に取り込み戦うのだ。
青く晴れ渡った空。
心地よい日差しが降り注ぎ、風が草木を揺らす。
そんな草原の上で木刀を交える二人の姿があった。
一人はカイル=ローレン。
細身ながらも綺麗に筋肉がついており体さばきも悪くない。
紫色の髪からは汗が垂れておりこの模擬戦において本気であることがうかがえる。
しかし、彼の本職は剣士ではない。
この世界でもそれなりに実力がある精霊術師だ。
精霊術師とは、人類とは異なる存在である精霊と契約して使役することができる職業である。
戦闘において精霊は強力な魔法は使えないにしても、術者とは別に魔法を行使できるために同格以下の相手ならば一対多の状況を生み出すことができるなど、精霊術師は戦闘において強力な職業である。
もちろん、これは精霊術師が戦闘に参加できればの話である。
精霊は戦闘以外においても野営のときに眠らずに番をすることもしてくれるし、生活においても補助してくれることもある。
また、魔法を覚える際に協力してくれることもあり、この世界では
カイルは自身も土属性魔法を使うことができる。
さらに本職の剣士ほどではないが接近戦で剣を使うこともできる。
そんな彼と対等に剣を打ち合っているのはわずか10歳の少年である。
カッカッカッ
カッカッカッガツン
静かな草原に木刀の交わる音が鳴り響く。
少年の名はアベル=ローレン。
カイルの息子である。
そして、彼は地球からの転生者だった——。
◇◇◇
「やっぱりアベルはすごいよ。もうわたしでは相手にならないね」
草原に座り込んだカイル父さんはおれにそう言ってきた。
最近では剣術における模擬戦でもおれの方が強くなってきたのだ。
おれも地面に座り込みカイル父さんと話をする。
「父さんにそう言ってもらえると励みになります。おれはもっともっと強くなりたいです!」
「そっか、アベルはとても努力家だからね」
おれは5歳になった頃から精霊術師であるカイル父さんに魔法の訓練を受けさせてもらっていた。
しかし、どうやらこの世界でおれは魔法に関する才能が異常なほどあるらしく基本的な魔法の習得は一週間でマスターしてしまった。
そして、一年が経ち6歳になる頃には純粋な攻撃魔法だけでいえばカイル父さんを圧倒するほどの実力を身につけていた。
そこでおれはカイル父さんから魔法の訓練を受けるのはやめて魔法は自分で独学で磨いていくことにしたのだ。
それとは別に、精霊術師として身体能力も高めていくことは戦闘において無駄ではないことを聞き、カイル父さんから剣術を習うことにしたのだ。
この世界は魔力が存在するだけあって剣術の中にもサポートとして魔力を使うことが多い。
それで純粋な体格や肉体の差を埋めるのだそうだ。
そして、剣術をカイル父さんに習い始めて2年でカイル父さんと互角に渡り合えるようになった。
さらに2年経った今ではおれの方が剣術においてもカイル父さんに勝るようになったのだ。
おれとしては召喚魔法を覚えたかったのだが、カイル父さんとハンナ母さんは反対した。
あと2年したら考えてくれるらしい。
まぁ、カイル父さんとハンナ母さんにも考えがあってのことだろうからおれは特に反発はしなかった。
そのせいで、まるで剣士になるかのような訓練しかできていないんだけどね。
でも剣術も悪くはないし、今は剣士の道を進むのでも悪くないかな。
そしておれは、いずれ最強の魔法剣士になるかもしれないな。
「アベル、本当に強くなったわね。今度わたしにも剣術を教えなさいよね」
こうおれに話しかけてくるのはおれの姉であるセアラ=ローレンだ。
愛称のサラで親しまれる少女である。
サラはとても綺麗に育っていると思う。
昔は短髪だったが最近ではハンナ母さんのように髪を伸ばし始めた。
まだ年齢相応の幼い顔つきだが弟のおれから見てもとても可愛らしい見た目だと思う。
性格は荒い部分があったりするので、もうちょっと女の子らしくてもいいと思うんだけどな。
「えぇ、いつでもいいですよ。セアラお姉さま」
おれは立ち上がるとそうサラに伝える。
昔はサラと背たけは変わらなかったが、成長期ということもあってか今ではおれの方がサラより身長が高くなった。
ちょっと上から見下ろしながら丁寧に返事をした。
「あら、本当にかわいい弟に育ったことね!」
おれは前世の記憶があるせいか実年齢より精神年齢が高めに見られる。
最近ではサラより背が高くなったせいもあり周りからみるとおれが兄でサラが妹に見えなくもない。
どうやらサラはそれが気に入らないようだ。実際にはサラはおれの2歳年上だ。
面倒見がいいかと言われればそんなことはないがおれはそんな彼女が大好きだ。
「アベルったらまた身長が伸びたんじゃないの? ちょっとくらいわたしにも寄こしなさいよね」
「うん。ついでに大人の落ち着きというものもサラにはあげたいね」
「ちょっと、それどういうことよ!」
おれは姉さんと仲良く会話をする。
会話のキャッチボールとしてはお互い強めに投げ合っているがこれがいつものことなのだ。
「2人が仲良くしてくれてわたしも嬉しいよ。だが、この生活もあと少しだね……」
おれとサラのやり取りを見ていた父さんがどこか寂しげな顔つきで話す。
そうだ、サラはもう12歳。
来年から中等魔術学校へと通うことになる。
おれたちの住む田舎の村にそんな学校があるわけでもなく都会にまで行くらしい。
今、おれたちはエウレス共和国のテスラ領にある外れ地の山奥にある村に住んでいるらしい。
そして、サラはテスラ領の
もちろん入学試験があるらしいがサラなら間違いなく合格できるとカイル父さんもハンナ母さんも言っている。
サラが旅立つまであと2週間しかない。
カイル父さんはそれが寂しいのだろう。
——といっても家族みんなで引っ越すんだけどね。
カイル父さんは有名な精霊術師だし教師としての資格も持っている。
それでサラが中等魔術学校へと通うタイミングでカイル父さんも教師を始めるらしい。
まだどこの学校に配属されるかはわからないんだけどね。
もしかしたら、サラが通う学校の教師になることもあり得るそうだ。
それでも、どうやら慣れ親しんだこの土地での生活もあと少しだ。
やはり寂しくなる部分もある。
しかし、同時にこの世界の都会への期待というのもありおれは楽しみにしている。
「そうね、この村のみんなとお別れするのは寂しいわね」
サラもどこか切ない表情を浮かべる。
ちなみに、カイル父さんとハンナ母さんは何年も前からサラが進学するタイミングで引越しをすることを決めていた。
それに伴い、仕事の引き継ぎのことなどで村のみんなもおれたちがもうすぐいなくなってしまうことは知っている。
それもあって最近、村の人たちがおれたちの家に挨拶に来るのだ。
今日もお昼前にジル
ジル兄ちゃんは一昨年、テスラ領の都にある商人が行く学校を卒業してこの村に帰ってきた。
それ以来おれと遊んでくれる。
この村には12歳以上になるとみんなどこかの学校に通うために村を一度出て行ってしまうため基本的に小さな子どもしかいない。
おれは精神年齢は割と高いため話が合わないのだ。
その点、ジル兄ちゃんは大人びていて話が合うしおれのことを可愛がってくれるのだ。
そういうわけで、もうすぐこの生活も終わってしまうのだなと毎日ひしひしと感じているわけだ。
「そうだパパ、アベルとの訓練が終わったのならわたしのを見てよ!」
「セアラのをかい? わかったよ。どれくらい召喚魔法が上達したのかを見せてもらおうかな」
カイル父さんはおれとの模擬戦の後、少し休めたこともありサラの魔法を見てあげるようだ。
サラはおれとは違いカイル父さんに召喚魔法を教えてもらっている。
正直、嫉妬をしないわけではないがどこか納得のいかない部分があるのかもしれない。
少しだけサラたちを見ていて
おれは詳しく教わっていないのでまだわからないが、どうやらサラは精霊との契約というのはまだしていないらしい。
今は魔法陣の術式や実際に顔見知りのティルやジャンなどの精霊たちを召喚することをしているようだ。
おれは一人で闇属性魔法の制御の練習でもするか。
おれは闇属性魔法の適性があったらしく攻撃魔法も覚えた。
正直怖いところもあるがそれでも前を向いて進み続けると決めた以上はやるしかないのだ。
そして、気づけば時間が経っており日が暮れそろそろ家に戻る時間となった。
おれはカイル父さんとサラと三人で家へ帰った。
◇◇◇
家ではハンナ母さんが夕食を作ってる最中だった。
おれたちが帰宅したのを見ると声をかけてくる。
「おかえりなさい。今日の訓練はどうだったの?」
「ただいまハンナ。アベルには剣術で勝てないし、セアラは日に日に召喚魔法が上達していくんだ。いつまでわたしが教える立場にいられるのか心配になるよ」
「あらあら、二人ともすごいのね」
カイル父さんは口調では困ってるように聞こえるが実際はどこか嬉しそうにそう話していた。
それを聞くハンナ母さんもとても嬉しそうに話を聞いていた。
「わたしはいつまでもパパとママに教えて欲しいわ!」
「そっか、サラちゃんがそう言ってくれるとママも嬉しいわ」
ハンナ母さんはサラの言葉を聞きとてもご機嫌だ。
サラはカイル父さんと訓練していない日はハンナ母さんと何やら部屋で勉強をしているようなのだ。
とても熱心なことでおれは感心している。
おれはこの世界に漫画やアニメがないから時間はあるのだが、だからといって今のところは勉強をする気にはなれないんだよな。
魔法の訓練は成果がすぐに出るので飽きずにやっていられるがおそらく勉強はもたないな。
「ハンナ、何か手伝うことはあるかい?」
「うーん、そうね。お皿を運んで欲しいかしらね。後、テーブルも拭いて欲しいし、それから——」
「わかったよ。いつものようにね」
「ありがとうねカイル」
カイル父さんとハンナ母さんはおれにとって理想の夫婦だ。
いつも仲良く幸せそうにしている。
おれも将来結婚することがあればこんな幸せな関係を築きたいと思う。
それから、家族みんなで夕食を囲んで食べた。
これからの引越しのことや都での生活について話した。
この何気ない日常が幸せだなとおれはふと思った。
この村を離れた後、最初は慣れない生活に戸惑うかもしれないがみんなでいれば乗り越えられると思う。
前世でおれが憧れていた温かい家族がここにはあった。
この何気ない日常がいつまでも続けばいいとおれは願っていたんだ……。
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