6話 闇使いの少年(4)

  おれの使う魔法を見たハンナ母さんは、おれの魔法は闇属性だと判断した。


  そして、それを聞いたカイル父さんは本当におれが闇属性の魔法を使えるのか見せてくれないかと頼んできた。


  おれ自身、いろいろと疑問がある。

  攻撃魔法以外の魔法には属性がないはずなのに、なぜかおれの結界魔法に属性がある疑いがかけられている。


  そこでおれ自身も疑問を解決するためにカイル父さんにおれの魔法を見てもらうことにした。


  「それじゃあ使うよ」


  おれは宣言すると少し集中する。


  「ちょっと待った!!」


  いきなりカイル父さんが大きな声で魔法を使わないように言ってきたので操っていた魔力を解放して拡散させた。


  「ここで使って大丈夫なのかい……?」


  カイル父さんはおれの魔法を初めてみる。

  攻撃魔法かもしれない魔法を家に中で使うのは確かにためらわれるよな。


  「大丈夫だよ。ぼくが使う魔法は攻撃魔法じゃないと思うから」


  「そ、そうなのか。ならばいいのだが……」


  「じゃあいくよ!」


  そう言っておれは魔法を発動する。

  おれの身体を包み込むように闇のころものような物がモヤモヤと現れそして渦を巻き始める。


  昔はこれの調整ができずに視界を完全にさえぎるように全身が全て闇に埋もれたり、闇の衣が薄すぎてサラの攻撃魔法を受けて服が少し燃えたこともあったな。


  そのときは暑かったから服を脱いで遊んでいたら野良犬に服を持っていかれて失くしてしまったってハンナ母さんに言い訳して怒られたんだっけ。


  おれは発動した魔法を魔力を調整しながら変化させていく。

  今は衣として纏っているが、壁としておれの目の前に置いてみたり、おれを中心とする球状のドームのようにしてみたりとだ。


  カイル父さんがおれの発動した魔法をみて驚いている。

  何も言葉を発さず、何も行動することもせず、ただおれの闇の衣を見つめているのであった。


  その目からはあのときのハンナ母さんと同じように恐怖心のような物が見え隠れしていた。


  「父さんどうかな?」


  おれは固まってしまっているカイル父さんに問いかける。

  おれの問いかけに対して少し時差があってからカイル父さんは反応した。


  「あっ、あぁ……。悪かったね、ちょっと考えさせてほしい」


  きっと、カイル父さんやハンナ母さんはおれに何か隠し事をしている。

  そう確信した。


  カイル父さんたちはサラのことを愛しているといった。

  これは心からそう思っているだろう。


  だが、おれは前世で他人に距離を置かれてきたからだろうか?

  カイル父さんやハンナ母さんのおれへの接し方から少し違和感を感じることがあった。


  サラに対して接するときより優しい気がする。

  そんな気がしているのだ。


  おれがサラより2歳幼いからそのように接しているのかもしれないが……。


  それ自体は悪いことではない。

  だが、やはりおれにもしっかりと正面からぶつかって欲しいという気持ちがあるし隠し事はしないで欲しいと思う。


  おれは二度目の人生だが今の両親を本当の両親だと思っているし、二人を愛している。

  だからこそやはりおれには包み隠さず話して欲しいと思うのだ。


  「父さん、ぼくは魔法を使ってはいけなかったのでしょうか?」


  おれは覚悟を決めてカイル父さんに問う。

  すると、カイル父さんはゆっくりと口を開いた。


  「いや、そんなことはないよアベル。きみが魔法を使えるのは驚いた……。それはとてもすごいことだよ。悪いことではない……」


  「ではなぜ父さんはぼくに何かを隠しながらぼくを探っているのですか?」


  少し感傷的になってしまった。

  こんなのいつものカイル父さんじゃない。

  そう思ってしまったのだ。

  カイル父さんはいつもまっすぐで正義感があって、それで——。


  「そうだね……。アベルに心配させてしまったようだ。すまなかった、正直に話そう」


  カイル父さんは頭を下げて謝った。


  「別に謝らなくても! ただぼくは本当のことが知りたかったんです。父さんや母さんたちに何かを隠されるのはやはり気持ちの良いものではありませんから」


  おれは笑顔を使ってカイル父さんに微笑みかける。


  「そうだね。一つ最初に言っておくよ。わたしもハンナも、もちろんセアラもだ。みんなアベル、きみたちのことを愛している」

 

  「それだけはわかってくれ。そして、これはきみに何があっても変わらない。だから、安心していてくれ」


  「ありがとう父さん」


  カイル父さんからもらったその言葉はとてもおれの心に響いた。

  やはりおれはこの家族がとても大好きだ。

  ずっとずっと一緒にいたいと思えるほどに。


  「わたしが知っている範囲で話すことにしよう。だが、アベルきみはまだ4歳だ。いくらアベルがしっかりとしていようがまだまだ子どもだ」

 

  「心に受けるショックも大きいものがあると思う……。だからこそ、隠すことはしないにしても少しずつ話させてくれ」


  「わかりました」


  おれが心に受けるショックは何なのか、正直イメージもできない。

  だがおれはしっかりと自分自身に向き合うことにした。


  「七英雄しちえいゆう……という言葉を聞いたことはあるかい?」


  七英雄?


  それは初めて聞く言葉だった。

  何かの神話に登場するヒーローのようなものだろうか?


  全く聞いたことがなかったのでおれは首を横に振ることにした。


  「そうだよね。セアラにだって話していないんだ。きみが知るはずはないよね。今から約800年前にこの世界は魔界から魔族の侵攻を受けて滅びかけたんだ」


  「えっ!?」


  魔界?

  魔族?


  今まで聞いたことのない話が次々と出てきた。

  そしてこの世界が滅びかけたと。


  「驚くのも無理はないよね。なぜ魔界から魔族がやってきたのか、正確な理由は一部の者にしか知らされていないらしい」


  「愚かな人類への神の裁き。悪魔たちを召喚した者たちが騙されて魔界とこの世界を繋いだ。天使たちの逆鱗に触れた。魔界にいる魔王の仕業だ。今では様々な説が存在する」


  カイル父さんは話し始めた。

  おれはそれを静かに聞く。


  「そして、理由はともあれこの世界——人間界には多くの魔族、そして魔物がやってきて暴れた。まあ、わたしたちの住むこのフォルステリア大陸は3つの大陸で一番被害は少なかったらしいけれどね」


  「そんな中、七英雄と呼ばれる者たちが立ち上がった。それは6人の人間と1人のエルフらしい。そして、彼らは多くの犠牲を出しながらも戦いに勝利してこの世界をまもった」


  魔王、悪魔、天使、エルフ——。

  いろいろな単語がおれの頭を駆け巡る。


  「彼らは英雄騎士と呼ばれた三人の戦士と賢者と呼ばれた四人の魔術師だったらしい。それはすごい力を持っていたらしい。記録を見る限りそれこそサラとは比べ物にならないほどだ!」


  「ちなみに、わたしとセアラ、そしてアベル——きみはこの七英雄の血を引いているんだよ」


  「えっ!?」


  おれは突然のカイル父さんの発言に驚いてしまった。

  おれが七英雄の末裔まつえいだなんて……。


  「ははっ、驚いただろう。ハンナは違うんだけどね。わたしは肩書きや血統に誇りを持つ人間だが他人に自慢をするような人間ではないからね。この村の人たちにも話してない」


  「まぁ、ローレンという名前でバレている可能性はあるが……。正確に知っているのはハンナくらいだろう」


  確かにカイル父さんの性格を考えれば納得できる。

  おれなら他人に自慢してしまうと思うな。


  「やはり七英雄の血のおかげなんだろうか。わたしは子どもの頃から魔法の才能を発揮させていた。セアラに関してはスキル3つ持ちという人口の1%未満の上に3つとも当たりスキルだという。自分の娘とはいえ驚いてしまったよ」


  スキルという物が何なのかはよくわからないがサラはやっぱりすごい才能を持っていることは伝わってきた。


  「それにアベル。きみもね……」


  「ありがとうございます。ですが、ぼくはスキルなんて——」


  「存在……しないんだ」


  カイル父さんのひとことがおれの言葉を遮った。

  真剣な表情で何か自分の考えを否定したいかのような言葉だった。


  「存在しないって……何がですか?」


  「闇属性の魔法を使える人間なんて存在しないんだ……。かの七英雄でさえ使えなかった。これまで有史1000年以上の歴史で闇属性の魔法を使える人間は確認されていない……」


  「いや、人間だけじゃない! エルフや獣人たち、この人間界にいる人類全てにおいてだ。使えるとされているのは大精霊や魔王クラスの魔族だけなんだ……」


  おれはカイル父さんが何を言っているのか理解できなかった。


  「アベル……きみは一体何者なんだ」


  この言葉を投げかけられたのは今日何度目だろう。

  カイル父さんの言葉がおれの胸に突き刺さる。

  おれは一体……。

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