7話 闇使いの少年(5)

  おれはカイル父さんに魔法を見てもらった。

  その結果、やはりおれの使う魔法は闇属性らしい。


  そして、何かを隠すようにおれのことを探るカイル父さんに、おれは正直に話して欲しいと伝えるとカイル父さんは語り始める。


  かつて世界が滅びかけたときにこの世界——人間界を救ったと語られている七英雄の話を……。


  そして、カイル父さんとサラとおれは七英雄の血を引く者らしい。

  それもあってか、おれたちには魔法に関する才能があるのかもしれないと。


  そして、そんな偉大な七英雄ですらおれが使う闇属性の魔法は使えなかったと。

  それが可能な存在は大精霊や魔王クラスの魔族だけなのだと。

  それから、一体おれは何者なのかと……。


  おれは自分の耳を疑った。

  カイル父さんはおれをからかっているだけなのではないか?

  それほどカイル父さんの話すことは信じられない事実だった。


  「父さんはぼくのことをからかっているのですか?」


  おれはカイル父さんに真剣な顔つきで質問する。

  すると、カイル父さんは誠意をもって丁寧に答えてくれる。


  「そう捉えられても仕方ないか……。わたし自身、闇属性の魔法なんて自分の目で見たことはない。知識として存在すると知っているだけだ。だが、きみの魔法はおそらく闇属性だ」


  しかし、おれとしてはやっぱり納得がいかない。

  おれは攻撃魔法なんて使えないんだぞ?


  「しかし、父さん。攻撃魔法以外に属性は存在しないはずでは? ぼくの使った魔法は攻撃魔法ではないと思うのですが……」


  「そうか、セアラから聞いたのか。あの子は好奇心旺盛だからね。話したらきっとやらせてくれと言って次々に訓練しようとするから、身体が成長して基礎が身につくまでは基本的な魔法しか教えないようにするためにそう言ったんだ」


  カイル父さんの言い方だと、攻撃魔法以外にも属性があるのかもしれない。


  それに、カイル父さんもカイル父さんでいろいろと考えているようだ。

  まあ、確かにサラに話したらわたしは天才だからとか言って次々に魔法の訓練をするだろう。


  それにしても、やはり幼い身体で魔法を使い過ぎるのは問題なのか。

  昔から魔力を操っているためおれは少し不安になる。


  「攻撃魔法以外にも特殊魔法や生活魔法、回復魔法、古代魔法など魔法は何種類もに分類される。学者によって分類が多少違うことはあるけどね」


  「きっと先ほどアベルが使ったのは特殊魔法のうちの防御魔法の一種だろう。わたしも水属性魔法の壁を作れる人を見たことならある。ハンナが使えるからね」


  ハンナ母さんが!?


  おれはハンナ母さんが回復魔法しか使えないと思っていたこともあり驚いた。

  だからハンナ母さんは自分と同じように属性のある防御魔法を使うおれが、人間では使えないはずの闇属性を使っていると思い驚いていたのか。

  おれはやっとハンナ母さんの過剰ともいえる反応の意味を理解する。


  「おそらくアベルは訓練をすれば闇属性の攻撃魔法も使えるようになるはずだ。来週できみも5歳になるだろう。そしたら、セアラと一緒にわたしの訓練を受けるかい?」


  カイル父さんは想定外の提案をしてくれた。


  「父さんはぼくのこと気持ち悪いとか思わないの? 人間には使えない魔法を使っているんだよね」


  おれは怖くて聞けなかったことを聞くことにした。


  前世でもそうだった。

  不気味がられるやつは嫌われる。

  距離を取られる。

 

  「わたしはさっき言ったはずだ。何があってもわたしも、ハンナも、セアラもアベルのことが大好きだってね」


  カイル父さんはそう言って笑ってウインクしてくれた。


  おれの目頭が熱くなる。


  どんなことがあっても受け入れてくれる、そんな無償の愛をくれる家族がおれは大好きだ。


  「セアラはともかくアベルが泣くなんて珍しいな。大丈夫だ、いろいろと不安なこともあるだろう。これからどんな困難があるかわからないがわたしたちは家族だ。一緒に乗り越えていこう」


  カイル父さんはそう言って、おれを抱きしめてくれた。

  おれはカイル父さんの胸で泣いた。


  こんな人に、こんな男になりたい。

  おれにそう思わせてくれるほどカイル父さんは温かく、優しい強い人だった。


  おれはしばらくして落ち着いてからカイル父さんと話を続けた。


  「前例がないことだ。もしもアベルの魔法を見たものが何を考えてどんな行動を起こすかわからない。だが何があっても父さんやハンナがお前を守ってやる」


  「ありがとう父さん」


  「わたしはあの方々に誓ったんだ。必ず守り抜くと——」


  カイル父さんが最後、何か自分に言い聞かせるかのようにつぶやいた気がした。


  強くなりたい。

  この世界に来てから不思議とそう思うようになった。


  確かにこの力は周りからすれば不思議で怖れられるものなのかもしれない。

  だけど、いざというときにこの力で自分を守れるのならそれは使うべきだ。


  それになんだか自分以外、誰も使うことのできない闇属性の魔法を使えるなんてかっこいいじゃないか。


  物は考えようだ。

  この力があればなんだってできるんじゃないか——少しだけおれはそんなことを考えていた。


  「父さん、ぼく強くなりたいんだ。だから今度からサラと一緒に訓練してほしいんだ!」


  前世では何をやってもダメだった。


  だが、この世界でならおれは強くなれるんじゃないか。

  賢くなれるんじゃないか。

  前世では体験できなかったことが今ならできる。


  そんな希望を持ちながらおれはカイル父さんに頼んだ。


  「わたし自身は闇属性の魔法は使えない。だから闇属性の魔法を鍛えるのはアベル自身が努力する必要があるだろう。教えられるのは他属性の魔法だが、それでもきみが何かきっかけを掴むことはできるだろう。それでも構わないかい?」


  今のおれにとって十分過ぎる内容だ。

  もちろん断ることなどしない。


  「うん! それでお願いします」


  「わたしも楽しみだよ。アベルがどれほどの魔法使いになっていくのか全く想像がつかないな」


  おれも、そしてカイル父さんもこれからのおれの成長を楽しみにしていた。


  こうして、おれはこの翌週5歳の誕生日を迎え、カイル父さんに魔法使いとしての資質、スキルを見てもらうのだった。

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